ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界フライ級TM ポンサクレック・シンワンチャーvs内藤大助

2002年04月19日 | 海外試合(世界タイトル)
新聞を読むまで、夢を見ているような気分だった。本当に試合は行われたのか?
19日、WBC世界フライ級タイトルマッチがタイのコンケンで開催され、
内藤大助が日本選手出場の世界戦としては最短の、1ラウンドわずか34秒で
KO負けし、王座奪取はならなかった。

この世界挑戦は、多くのボクシングファンから無謀だと言われ、試合前から
非難を浴びた。内藤は世界ランク14位、目立ったキャリアは日本タイトルに
挑戦し引き分けたことくらい。たったそれだけの実績での世界挑戦、しかも王者は
初防衛戦で名古屋の浅井勇登を痛烈に倒したポンサクレック・シンワンチャー。
さらに悪いことに、今回は敵地タイでの試合なのだ。

日本のボクサーは、極端に「敵地」に弱い。海外で試合をすることがほとんど
ないので慣れていないのだ。気候、食べ物、そして何より試合会場の雰囲気の
違い。そういったものに呑まれて、実力の半分も発揮できないと言われる。

34秒の試合時間では、どのくらい実力差があったのかすら分からない。
ただ一つ言えるのは、遠くタイのリングで、内藤は間違いなく自分を見失って
いただろう、ということである。

記事によると、まずは内藤が右フックをヒット。陣営が「行ける」と思った
次の瞬間、ポンサクレックの右ストレートがまともに内藤をとらえ、そのまま
カウントアウトされたようだ。すっかり上がってしまった内藤は、一発の
フックが当たった時点でもう自分のディフェンスのことなど忘れてしまって
いたのだろう。そして無防備の所にきれいにパンチをもらってしまった。

最初から逃げることを前提としたならば、その辺の4回戦の選手でも1分は
粘れるだろう。内藤は勝つために前に出たからこそ、こういう結果になった
のである。結果自体はそれほど恥ずべきものではないと思う。

ただ問題は実力差以前に、精神的なキャリアの方だろう。これは内藤に限った
ことではないが、もし彼に敵地やハードな条件下で勝ち上がってきたという
経験があれば、それが自信につながり、せめてもう少しは善戦していただろう。

しかし考えようによっては、盛り上がりに欠ける内容で中途半端に負けるより、
記録にも記憶にも残る今回のような負け方は良かったのではないだろうか。
試合前までは「内藤って誰?」って感じだったのが、悪い意味ではあるがこれで
名前を知られることになったわけで、例えば今後また日本タイトルに挑戦した
場合、以前より注目度は確実に上がるだろう。

いずれにせよこのままでは絶対に悔いが残ると思うので、ぜひ再起して欲しい。
せめて日本タイトルぐらいは獲ってから引退して欲しいものだ。今回は明らかに
失敗だったが、少なくともそれくらいの実力は持っている選手だと思う。