ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

2002年を振り返る

2002年12月23日 | その他
今年のボクシング界は、昨年ほどの大きな動きは少なかったものの、
好勝負・好カードが続き、全体としてはいい1年だったように思う。

海外での大きな試合と言うと、レノックス・ルイス対マイク・タイソン、
オスカー・デラ・ホーヤ対フェルナンド・バルガスなどが挙げられる。
内容や両者の現在の立場、力量などを考えれば、圧倒的に後者の方が
重要な試合だったのだが、世間的には前者の方がより大きく報道された。
と言うより、デラ・ホーヤやバルガスなんて、日本ではボクシングファン
以外は誰も知らないだろう。改めてヘビー級の、いやタイソンの存在感の
大きさを示した一戦でもあった。


国内でも好カードが続き、また今後を期待できる素晴らしい選手が数多く
台頭してきた。その中でも熱かった階級の一つがスーパー・ライト級だ。
湯場忠志の才能は高く評価されたし、佐竹政一はリック吉村、坂本博之
という大物を下して一気に名を上げた。

また、フライ級からスーパー・フライ級にかけてのクラスでも、好勝負が
多かった。坂田健史とトラッシュ中沼、佐々木真吾と川嶋勝重、木谷卓也と
有永政幸、小懸新と浅井勇登などなど。

世界戦においては、技巧というものを再認識させられた。佐藤修、保住直孝
らが欧米の技巧派に翻弄され、徳山昌守、星野敬太郎、本田秀伸らの技術に
唸らされた。


毎年発表される年間最高賞だが、個人的にも選んでみたいと思う。
見ていない試合や選手も多いわけで、当然主観で決めさせてもらう。

まず最高試合は坂田健史対トラッシュ中沼、次点は星野敬太郎対ガンボア
小泉。前者はハイレベルで濃密な打撃戦(単なる殴り合いではなく)、
後者はハードパンチャーをテクニシャンが翻弄しきるという、最も僕好みの
スリリングな試合だった。ちなみに、公式な年間最高試合に選ばれた
ヨーダムロン・シンワンチャー対佐藤修は、僕は見れなかったので対象外。

MVPはもちろん徳山昌守。去年は3度の防衛を果たし、日本のジム所属の
世界チャンピオンとしては歴代3位タイの通算6度連続防衛。しかもその内
2試合をKO(TKO)で終わらせているのだ。ちなみに徳山は27勝中で
KO勝ちはたった8回、という選手である。

技能賞にはやはり星野敬太郎、次点で佐竹政一。ガンボアとの再戦では
完璧な技巧を披露し、またいずれも敗れたアランブレットとの2戦に
おいても、ベネズエラの技巧派相手に一歩も引けを取らなかった。
佐竹は坂本戦での最終回TKO勝ちが印象的だったが、衰えたとは言え
日本ライト級王座を22度も防衛した技巧派リック吉村をテクニックで
完封するという、日本人がかつて誰も成し遂げなかった快挙を評価した。

殊勲賞は佐藤修。当時無敗のウィリー・ホーリンに、序盤の大ピンチを
はねのけて善戦し、ヨーダムロン戦でも圧倒的な劣勢からの逆転KO。
初防衛こそならなかったが、まさに「殊勲」の名に値する戴冠劇だった。
次点として大之伸くまを挙げてもいい。無敗とは言え地味な存在だった
大之伸だが、評価の高かった日本フェザー級チャンピオン州鎌栄一を
KOした一戦は、これも殊勲と言えるだろう。

敢闘賞はセレス小林。全勝全KOという怪物ムニョスの挑戦を受け、
何度も倒されながらも果敢に攻め、決して一方的な惨敗という印象を
与えなかった。これを年間最高試合に推す人も多かったほどだ。
次点は坂田健史だろうか。中沼に日本フライ級のベルトは奪われたが、
その無尽蔵のスタミナと闘志には大いに驚かされた。

KO賞は迷うところだ。昨年は佐竹、湯場、徳山など、技巧派のKO
シーンが印象に残っている。また、長年の無冠生活についにピリオドを
打った仲里繁も、昨年は2度の東洋タイトル戦で見事なKO劇を見せた。
しかしインパクトの点では、本人は不本意だろうがやはり内藤大助に
KO賞を贈りたい。世界戦での34秒KO負けは、フライ級における
最短記録を何と73年ぶりに更新したという。

新鋭賞は、選べるほど新鋭の試合を見ていないので選考しようがない。

W世界戦(アランブレットvs星野、徳山vsペニャロサ)

2002年12月20日 | 国内試合(世界タイトル)
・WBA世界ミニマム級TM ノエル・アランブレットvs星野敬太郎

星野もアランブレットも、本来は両者とも「待ち」のタイプのボクサー
なのだが、今回こそははっきりとした決着をつけようと、前に出て激しく
打ち合った。噛み合せが悪く、盛り上がりに欠けた前回に比べ、今回は
非常にスリリングな12ラウンズとなった。

前回の反省を生かし、星野はよく手を出した。しかしアランブレットも
それ以上に手を出した。アランブレットの攻め口は比較的単調だが、
星野が打ち合いに来たぶんパンチが当たりやすかったのかもしれない。
また、ピンチの時のクリンチワークも巧みだった。しかし星野も効果的な
パンチを随所にヒットし、どちらが優勢か分からないラウンドが続いた。

結果は前回同様、僅差の判定で星野が敗れたが、内容はかなり違った。
全体の戦力、技術の厚みでは星野は決して負けていなかったと思う。
しかしアランブレットの、「何としても勝つ」という気迫も見事だった。
何度も引退を宣言し、また撤回して再起してきた星野だが、今回は
即座に引退とは言わず、「体と相談してから決める」と進退を保留した。

両者の3度目の対戦はあるのだろうか。今回は年齢による衰えは特に
感じさせなかった星野だが、実力が拮抗したアランブレットとの戦いでは
わずかの戦力低下が命取りだ。普通に考えれば、星野にとってより厳しい
戦いになると予想せざるを得ないが・・・。


・WBC世界Sフライ級TM 徳山昌守vsジェリー・ペニャロサ

徳山とペニャロサの再戦も、またしても接戦となった。そして前回以上に
微妙な判定となった。しかし僕が見た限り、確かに僅差ではあるが、徳山が
前回よりは明白に優位に立ったように思えた。

手数では徳山が明らかに上。ヒット数もわずかに徳山が上回ったと思う。
見た目のダメージでは徳山の印象がより悪かった気もするが、それは徳山が
足を使うタイプだからだろう。

とにかく前進、という単調なペニャロサは、ダメージが仮にあってもあまり
見た目には変わらないが、徳山の場合は足が止まった時点ではっきりと動きが
鈍ったことが分かってしまうからだ。しかし後半にめっきり手数が減った
ことからも、ペニャロサも相当疲労していたことは確かだ。

単調ながらも前に出てパンチを当てるペニャロサと、下がりながらも多彩な
パンチをヒットした徳山。これまたどちらに優劣をつけるかは難しいところ
だが、少なくとも試合運びの面では、徳山が大勢のラウンドを支配していた
ように見えた。印象的に、ペニャロサが徳山に振り回されている、という
感じがしたのだ。

ペニャロサは確かに頑張ったし、判定を聞いた瞬間に座り込んでしまった姿に
同情も覚えた人も多いだろう。日本人は、心情的にひたすら前に出るファイターに
弱いものだ。しかし勝負は勝負だ。坂本博之がスティーブ・ジョンストンに、
あるいは畑山隆則がジュリアン・ロルシ-に敗れた時と同様、ファイターが
テクニシャンと対した時に見せる能力の限界を、ペニャロサは晒してしまった。
ペニャロサはテクニックにも定評がある選手だが、今回はただしつこいだけの
ファイターに見えた。それだけ徳山のテクニックが勝っていたのだろう。


それにしても今回は、4選手ともに死力を尽くした素晴らしい戦い振りを
見せてくれた。本来はテクニシャンであるはずの4人だが、技術よりも気迫を
全面に出したファイトをした。見る人が見れば、はっきりしない退屈な試合、
という後味を覚えたかもしれない。昔の剣豪ではないが、達人同士が戦えば、
表面的には凡戦に映ってしまうことも多いのだ。

見る者全てに強烈なインパクトを与えた、という内容ではなかったかも
しれないが、2試合ともに、2002年を締め括るにふさわしい非常に
レベルの高い世界戦であったことは間違いない。


辰吉丈一郎vsセーン・ソー・プルンチット

2002年12月15日 | 国内試合(その他)
初めは全く現実感がなかった。入場の時、足を滑らしてリングから落ちそうに
なった。辰吉も緊張している。しかし見ている方も緊張している。
1ラウンドが始まっても、今テレビの前で辰吉が動いていることが信じられず、
「あり得ない、あり得ない」とつぶやいていた。

この夜は、信じられないことばかりだった。1ラウンド開始30秒間は両者
様子見に徹したが、辰吉のあまりにも軽快なステップに驚かされた。
そして信じられないほど早くて力強いジャブがセーン・ソー・プルンチットの
顔面を捉えた時も、全く信じられない思いだった。

僕は結果を知ってから深夜の録画中継を見たのだが、6ラウンドTKO勝ちと
いう結果だけ聞いた時には、辰吉が体格の差を活かしてパワーで押し切ったんだ
な、と思っていた。しかし実際には、パワーよりも技術やスピードでタイの
元世界王者を上回っていたのだった。そのことに最も驚いた。

ありきたりな表現ばかりになってしまうが、それは3年4ヶ月もブランクのある
ボクサーの動きとは到底思えなかった。歴戦のダメージを完全に抜き、口だけ
ではなく想像を絶する緊張感を持って、密度の濃い練習をしてきたのだろう。
ディフェンスや距離感、試合運びの冷静さなどは、むしろ以前よりいいくらいだ。

辰吉と言えばガードが低いことで知られるが、今回の第1ラウンドはきっちりと
ガードを固め、またノーガードの場面でも丁寧に相手のパンチを外していた。
5ラウンドに辰吉のパンチでセーンがぐらついた時も冷静だった。やみくもに
責めるのではなく、相手にまだ力が残っていると判断するやすぐに距離を取る。

そしてまたジリジリと距離を詰め、全盛期に匹敵するほどの高速連打の嵐を
見舞う。あれは辰吉にしか、あらかじめ才能を与えられたボクサーにしか
出来ない芸当だ。ここまで復調することはもちろん、僕は辰吉がここまで凄い
ボクサーだとは思っていなかった。まさか3年4ヶ月ぶりのリングで、そんな
ことまで知らされるとは・・・。

確かにセーンの方には全盛期の力はなかった。会場の圧倒的な辰吉コールに
呑まれてしまった部分もあるだろう。ある時点から、セーンの眼は怯えていた。
打ち合いに応じたのは、元世界王者のプライドと、「このままでは殺される」
という恐怖心からだろう。

それはともかく、辰吉がここまで見事なカムバックを果たすとは、一体誰が
予想しただろうか。狂信的な辰吉ファンならともかく、マスコミやボクシング
ファン(僕も含め)は、みな悲観的な予想しか立てられなかったはずだ。
過去の名王者たちが、「余計な1試合」のために目や脳をやられてしまった
悲しい例を、我々は数多く知っている。今回の試合も、「辰吉時代の終焉」だけ
ならまだしも、辰吉丈一郎という人間の終焉さえ予感し、残酷なショーになる
ことを危惧した人だって少なくはなかっただろう。

だからこそ、この日辰吉が演じた復活劇は信じられない光景だった。大げさに
言えば、それは奇跡だ。こんなことの出来る人間はそうそういない。辰吉が
カリスマと呼ばれる理由が、ようやく分かったような気がした。


大阪でダブル世界戦

2002年12月08日 | その他
12月20日、大阪城ホールにて二つの世界戦が開催される。
WBC世界スーパー・フライ級チャンピオン徳山昌守の6度目の防衛戦
となる指名挑戦者ジェリー・ペニャロサとの再戦、そして星野敬太郎が
2度目の王座返り咲きを狙ってWBA世界ミニマム級王者ノエル・アラン
ブレットに挑戦する試合。こちらもまた再戦である。

徳山は3度目の防衛戦でペニャロサと対戦し、非常にきわどい判定の末
辛くも王座を守っている。その微妙な判定ゆえ、今回の再戦となったわけだ。
ペニャロサは今回もランキング1位。前回負けているのにランクが下がって
いない。つまり、あれはほぼドローに近い内容だった、とWBC側が暗に
認めていると言っても過言ではない。

しかし僕はあの試合、徳山の勝ちは間違いなかったと思っている。確かに
接戦だったし、徳山がピンチを迎える場面もあった。しかし臨機応変な
戦い方で、より多くのラウンドを支配していたのは徳山の方だったと思う。

徳山は頭のいいアウトボクサーだ。こういうタイプは再戦に強い。一度目の
対戦で、相手のクセやタイミングを読んでしまうからだ。対してペニャロサは
確かに素晴らしい技術を持ったボクサーだが、攻撃にあまり幅がない。
前回は接近戦などの奇襲にも出た徳山だが、今回は無難に距離を取って
本来のアウトボクシングに徹するのではないか。そうすれば、もはや
ペニャロサは恐るるに足る相手ではない。つまり徳山が前回以上に差をつけて
明白な判定勝ちを収める、というのが僕の予想だ。

しかしそれはあくまでペニャロサが前回と同じ戦力で、また徳山が良い
コンディションを作れればの話だ。実は不安材料も決して少なくない。

徳山はトレーニングにより体に厚みを増している。これは体力面では有利な
ことかもしれないが、同時に減量が苦しくなるということでもある。
実際前回のロペス戦では、徳山は快勝の内容とは裏腹に、減量苦により
体に力が入らなかったことを試合後に告白している。相手が元々実力差のある
ロペスだったから良かったが、これがペニャロサならそうは行かないだろう。

加えて、ロペス戦で負った左拳の負傷。これによって当初11月に予定
されていたペニャロサ戦が延期となり、また恐らく練習スケジュールにも
支障が出ているだろう。左は徳山にとって生命線だ。これがもし満足に
使えなかったら・・・敗北は決定的だと思わざるを得ない。

また今回ペニャロサに、フレディ・ローチというアメリカ人の名トレーナー
がついたことも気になるところだ。戦力や戦術面で、どれほど新しいものを
身につけてくるのか。それ如何で、試合内容は大きく変わってくるだろう。

心配の種は尽きないが、とにかく徳山にはベストコンディションで試合に
臨み、防衛を果たしてもらいたい。


一方の星野だが、これはダイレクト・リターンマッチである。両者は7月に
対戦し、見せ場の少ない12ラウンズの末にアランブレットが微妙な判定を
つかみ、星野は王座を追われたのだ。この時の一部の採点が不可解とも
言えるほど大差だったため、星野陣営の申し入れによりこの直接再戦が
急遽実現したのだ。

前回の試合は、確かにどちらが明白に勝ったとは言えないような内容だった。
ただ、スピードや手数、試合運びの面でアランブレットの方がやや上回った
ようにも見えた。果たして今回はその差をどう埋めるのか。

正直、この試合の予想は立てにくい。またはっきりしないやりとりをして、
ドローや微差の判定勝負になるのか、あるいはより明白な勝利を得ようと
両者とも積極的に攻めて出るのか。たった5ヶ月の間をおいての再戦という
ことで、戦力面に大きな変化はないだろう。とすると、お互いの出方や
コンディションによって、どんな展開も、またどんな結果も考えられる。

テクニシャンである星野も再戦に強いタイプだと思われるが、アランブレット
の方もテクニックという面では負けていない。だからこの試合に関しては、
再戦だからと言って必ずしも星野が有利とは言い切れない。

加えて、33歳という年齢が星野の動きにどういう影響を与えるのか、それも
気になるところだ。一般的にはもうボクサーとしての力は衰えつつあるものと
思われるが、星野は30過ぎてから能力のピークを迎えた選手である。むしろ、
経験を積んだことにより展開の「読み」が正確さを増しているかもしれない。
このあたりも、当日になってみないと我々には分からない。

いずれにせよ、前回は不完全燃焼に終わった両者だけに、今回こそは
はっきりとした決着を期待したい。


辰吉、3年4ヶ月ぶりの再起

2002年12月08日 | その他
12月15日、90年代にカリスマ的人気を誇った、あの辰吉丈一郎が
3年4ヶ月ぶりに再起する。相手は無名の噛ませ犬ではなく、非常に
評価の高かった元世界王者、タイのセーン・ソー・プルンチットだ。

辰吉は、日本人にとってはある意味でマイク・タイソンのような存在とも
言える。その名がランク表から消えても、まるで休火山のように背後から
我々を常に刺激し続け、何かを期待させ続けてきた。

しかし3度目の王座に就いたシリモンコン戦以降からしかリアルタイムで
試合を見ていない僕にとっては、そのカリスマ性が今一つ実感できない。
むしろ彼以降の世界チャンピオンがことあるごとに辰吉と比較され、
少なくとも人気の面では決して辰吉を抜くことが出来ないでいる状況に
イライラしていた。言わば目の上のタンコブ的な存在でもあったのだ。

その辰吉の再起戦が決まった時、専門誌「ボクシング・マガジン」は
辰吉の記事をトップに持ってきた。現役の世界チャンピオンを尻目に、
である。こういう事実がまた僕をイライラさせる。ボクシング界は一体
いつまで、辰吉丈一郎の名前で商売しようというのか。

これを受けて早速各ボクシングサイトでも、多くの人がこの試合の予想を
立て、また激しい議論の的となっている。予想はやはり悲観的なものが多い。
3年4ヶ月前のウイラポン戦ですら何も出来ず完敗した辰吉が、強豪である
セーンに勝てるわけがない。そしてこの長すぎるブランク。事実、最近の
新聞報道などでも、練習における辰吉の不調が伝えられている。

しかし穿った見方をすれば、これも辰吉人気を盛り上げるためのマスコミの
常套手段と考えられなくもない。普通、大事な試合前の選手をマスコミが
露骨に「不調」と書き立てることはあまりないからだ。実際は言われている
ほど不調でもないのではないだろうか。試合はしなくとも、ブランクの間
ずっとそれなりには練習してきたはずだ。

しかし仮に辰吉の調子が悪くなくても、相手はセーンである。爆発的な
攻撃力こそないが、非常に洗練された技術と豊富な経験の持ち主である。
こういったタイプは一般的に、年齢による衰えが少ないと言われる。
正直、仮に辰吉が王座に返り咲いた5年前の時点で対戦していたとしても、
勝てるかどうか分からなかったほどの難敵なのだ。

最近のセーンの試合ぶりはよく知らないが、今なおWBA2位、WBCでも
5位(いずれもスーパー・フライ級)と上位にランクされていることからも、
それなりの戦力を保っていると考えた方が良さそうだ。元フライ級王者の
セーンと、元バンタム級王者の辰吉との体格の差も気になるところだが、
防御技術の高いセーンと、不用意に打たれることの多い辰吉、という点を
考えれば、「与えられるダメージの量」に差はあまりない気がする。

このように、当日の両者の様子を見てみないと何とも言えない部分が
多すぎるのだが、やはり辰吉不利、の予想は覆し難い。恐ろしい話だが、
辰吉が滅多打ちに遭っての終盤TKO負け、というのが僕の予想だ。

辰吉にはその強烈な個性ゆえに、熱狂的ファンとアンチファンの両方が
存在する。もはや辰吉の勝利、ましてや王座復帰を本気で信じている人間は
ほとんどいないようにも思える。果たして我々は辰吉が勝つのを見たいのか、
それとも完膚なきまでに叩きのめされるのを見たいのか。恐らく両方であり、
だからこそ今回の試合も、普通の選手の試合とは違った異様な空気を孕んだ
注目を集めているのであろう。

ウイラポン戦の惨劇が再び繰り返され、今度こそ一つの時代の終わりを
見届けることになるのか。それとも今まで以上の「奇跡」が見られるのか。
やはり、どちらにせよ嫌でも見たくなってしまう試合ではある。