ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

戸高の再起に期待

2002年09月30日 | 国内試合(その他)
白馬から実家に帰ってきてからすぐ、友達に録画しておいてもらった
戸高の再起2戦目のビデオを見た。

彼が王座を失ったのは約2年前。平均的に選手寿命が短いボクシング界で、
2年というのはかなりの年月だ。この間にも新井田、畑山、小林などの
世界王者が引退している。そんな中、あごや目の怪我で長いブランクを
作りながら再起した戸高の存在は稀有なものと言える。その復調具合を
心配しながら、僕はこの再起戦を見た。

試合はややパンチをもらう場面があったものの、相手が格下ということで
最後はあっさりとKO。一応「世界前哨戦」と銘打たれていたが、この程度の
選手が相手では、正直戸高が世界レベルの力を取り戻したのかどうかは
測りかねた。

試合後、戸高は「世界戦が決まったら、思いっきり暴れますよ」と言った。
この言葉を聞いて、何か胸のつかえが下りたような、晴れやかな気分に
なった。要は勝ち負け以前に、ボクサーとして完全燃焼したいというわけだ。
やはり戸高は戸高だ。あの熱いスピリットは健在だった。もう一度戸高の
世界戦を見てみたい、本気でそう思えた。


世界への切符

2002年09月26日 | その他
来月5日に、東洋太平洋スーパー・ライト級タイトルマッチが行われる。
すでに7度の防衛に成功し、世界も期待される王者・佐竹政一に挑むのは、
4度の世界戦に敗れながらも、再び世界を狙うあの坂本博之だ。

これは非常に楽しみなカードであると同時に、結果を見るのが怖い試合
でもある。スピードとテクニックに優れた佐竹は僕の好きなタイプの
ボクサーで、まだ若いのも魅力だ。その佐竹が、強豪揃いのスーパー・
ライト級の世界で、どこまで渡り合えるのか見てみたい。そのためにも
今回、名の知れた坂本を明白に下して、世界への切符を手に入れて欲しい。

しかし、それはボクシングファンとしての気持ちであり、心情的には
数々の不運や敗戦にもめげず這い上がってきた坂本に勝って欲しい、そして
5度目の世界戦に挑んで欲しい、という思いもある。今でも我々は、
「平成のKOキング」坂本がKOでついに悲願を達成するという、あまりに
ドラマチックな場面を夢想している。その夢を捨てることができないでいるのだ。

予想はやはり佐竹有利だ。勢いや技術の差もある。ライト級では強打を
謳われた坂本のパンチも、一階級上の佐竹にはそれほどの脅威を与えない
のではないだろうか、とも思う。しかし、何が起こるのか分からないのが
ボクシングだ。そう考えると、やはり結果を知るのが怖くなるが・・・。


星野、またも再起

2002年09月25日 | その他
やはり星野は戻ってきた。チャナ戦と同じく微妙な判定で敗れ、チャナ戦後と
同じく引退を表明した男が、やはり戻ってきたのだ。

もちろん、世界を獲るには血のにじむような努力が必要だ。しかしそれでも
なお、星野にはある種の「軽さ」を感じる。この軽さのおかげで、世界戦の
大舞台でもリラックスして戦える。また、この軽さのせいで、星野は
度々ブランクを作り、あるいは勝てるはずの相手に負けたりもしている。

そういう男だから、アランブレットに敗れた直後に引退を表明しても、
僕を含めファンは「そうは言っても、またやるんじゃないかな・・・」と
ほのかに期待していたのだろう。体は傷ついていない。あの職人的な
テクニックにも衰えはない。ならば後は気持ちだけだ、と。

すでに、12月にもアランブレットと再戦することが内定しているとも
聞く。クレバーな星野は、再戦には強い。2度目の王座返り咲きも、
充分に期待できると思う。

ボクサーの選手寿命は短い。それだけに、星野のようなベテランの存在は
他の選手たちの励みにもなる。事実、戸や徳山など、星野を慕う者は多い。
これからも出来るだけ長く一線で活躍して、ボクシング界を引っ張って
いってほしいものだ。


保住、世界ミドル級王座に挑む

2002年09月22日 | その他
今から約7年前、竹原慎二が日本人として初めて世界ミドル級王座に就いた。
しかしそれでもなお、世界のミドル級は日本人にとって、とてつもなく高い
壁であり、ほとんど縁のない世界とすら思っていた。

だから最初に保住直孝の世界挑戦が決まったという話を聞いた時にも、どうせ
噂だけだろうと思った。まるで現実味のある話に思えなかったのだ。

確かに保住は東洋太平洋チャンピオンで、世界ランクにも入っている。
軽量級なら「東洋から世界へ」という図式はイメージしやすいが、ミドル級と
なればそうはいかない。「ミドル」という呼び名の通り、これはボクシングの
本場である欧米の選手たちの平均的な体格を意識して作られた階級であり、
つまりそれだけ選手層が厚いのだ。

それに比べて、アジア人は体が小さい。日本でも、ミドル級と言えばもう
重量級とされ、選手の数も極端に少ない。よってミドル級以上の
日本ランキングは作成されていないという有様だ。

選手数が少ないということは、必然的に全体のレベルが低いということだ。
例え日本に実力のあるミドル級の選手が現れたとしても、まともな練習相手は
ほとんどおらず、当然対戦相手のレベルも低い。これではとても世界に太刀打ち
できない。一般的には理解されていないが、竹原が世界を獲ったのはまさに
「奇跡」に近い。テニスやサッカーの世界大会で日本人が優勝するのに匹敵する
偉業なのである。

それだけに「保住が世界に挑む」、この事実を考えるだけでもワクワクする。
はっきり言って、勝つ確立は非常に低いと言わざるを得ない。しかも相手は、
あの竹原を破って王座を獲得して以来、ずっと世界のトップクラスで戦っている
ウィリアム・ジョッピーなのである。実力、経験の差は否めない。
しかし勝敗以前に、日本人が世界ミドル級王座を争う舞台に立つ、これだけでも
充分に見る価値があると思う。

もちろんこれは勝負だから、絶対に保住が負けるとは言い切れない。
ジョッピー(32歳)の年齢による衰え、あるいは世界的には全く無名の
保住に対する油断などがもしあれば・・・。加えて、ジョッピーには11か月の
ブランクがある。ジョッピーの試合勘が戻らない内に保住が序盤を押さえることが
できたら、俄然面白くなるだろう。保住もどちらかと言うと序盤は様子見をする
タイプだが、今回に限っては1ラウンドからガンガン行く、と公言しているのだ。
もしかしてもしかしたら・・・などと、つい夢を見てしまう。

保住は間違いなく、東洋ではトップクラスのミドル級選手である。果たして東洋の
トップが、どこまで世界のトップと戦えるのか。その答えが10月10日に出る。



ジョーンズの「最後の挑戦」

2002年09月13日 | その他
ボクシング界には、パウンド・フォー・パウンドという発想がある。
これは体重が同じと仮定した場合、現役選手の中で誰が一番強いのかと
いうランキングだ。もちろん現実には有り得ない話だが、しばしば
ファンや評論家の議論の的となり、専門誌上では毎年のようにそのランク
付けが発表されている。

そのパウンド・フォー・パウンドの上位に、ロイ・ジョーンズ・ジュニアの
名を見るようになって久しい。驚くべきことに、かれこれ10年近くも
トップ10をキープしているのだ。その間、彼はミドル級からライト・ヘビー
級までの3階級を制している。

一人のボクサーが10年間もトップ10の評価を得るというのは、確かに
凄いことだ。しかも彼は未だに、その実力の底を見せていないのだ。
少なくともライト・ヘビー級において、我々はジョーンズが苦戦している
のを見たことがない。しかしそれは、彼の強さもさることながら、
対戦相手との実力差も関係しているのではないだろうか。

ジョーンズの防衛戦の相手はそれなりの実力者で、決して弱くはない。
しかしジョーンズの強さに見合った選手かと言うと、それは疑問だ。
つまり、彼は自分を苦しめるような相手との対戦を意図的に避けている
のではないか、ということだ。

ジョーンズがライト・ヘビー級の統一王者(WBC・WBA・IBF)に
なってからというもの、常に話題に上っては消えていった計画。それは、
もう一人のライト・ヘビー級、WBO王者ダリウス・ミハエルゾウスキー
との対戦や、クルーザー級・ヘビー級への進出である。

ミハエルゾウスキーはこれまで21度の防衛に成功、しかも未だに無敗。
ジョーンズにとって、唯一ライバルと呼ぶにふさわしい相手である。
また、体格差はあるもののクルーザー級に上げての4階級制覇も、
ジョーンズの能力を考えれば決して不可能なことではない。

しかし噂にこそなるものの、そういった話が実現しそうな気配はない。
もはやジョーンズは、自分の選手生命がそう長くないことを鑑みて、
キャリアに傷をつけることを恐れているのではないだろうかとさえ思える。
それは非常に残念なことだ。3階級を制し、現役最高の評価を得ながら、
何か煮え切らない印象を与えたまま引退してしまうのだろうか。

そんな印象そのままに、ここ数年は明らかに実力差のある相手を
翻弄しながら、安全運転を続けて判定や終盤でのTKO勝ちが多かった
ジョーンズだが、最近の2度の防衛戦では、少し印象が違う。
いずれも中盤までに試合を終わらせているのだ。これはジョーンズが
自分のキャリアの最後を飾るビッグマッチを意識して、モチベーションが
上がってきていることを表しているのではないだろうか?

最後のビッグマッチ。それはミハエルゾウスキーとの統一戦なのか、
クルーザー級、あるいはヘビー級への挑戦なのか。実際、どこまで本気かは
分からないが、WBAヘビー級王者ジョン・ルイスとの対戦を希望している
とも聞く。ミドル級から上がってきた男が、ヘビー級の王座に挑戦する。
実現すれば、これは掛け値なしに歴史的な大一番だ。

これまで、ミドル級王者を経てヘビー級を制したのはたった一人、ボブ・
フィッツシモンズだけだ。しかもそれは100年以上前の記録である。
実力以前に、体格差の問題がある。当然、100年前より今の方が
選手の健康問題への配慮も大きいわけで、実現の可能性はかなり低いと
言わざるを得ない。

だからこそ、それはまさに夢のカードなのである。あるいはもし勝って
しまったら・・・。ジョーンズは間違いなくその名を永遠に歴史に刻む
ことになるだろう。考えるだけでドキドキしてしまう。最後の最後、
ジョーンズにはそんな夢を見せて欲しいものだ。