ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

2001年を振り返る(国内編)

2001年12月15日 | その他
形通り、丁寧にボクシング界の一年を振り返ろうとも思ったが、それは専門誌や
その手のサイトにまかせて、個人的に印象に残ったことを中心に書きたいと思う。

何と言っても、今年は初めて生で試合を見たことが一番の思い出だ。
3月に名古屋で、そして12月にはお隣の東海市で。両方とも東洋太平洋
タイトルマッチがメインだったが、来年は世界戦も見に行きたいな。
でもそれ以前に、やはりボクシングのメッカ後楽園ホールを訪れてみたい。

現役選手で最も名前が売れている畑山隆則は、今年は2月にリック吉村と
引き分け、7月に判定で王座陥落と、内容的にはパッとしなかった。
タレントとしてテレビに出まくっている姿の方が印象に残っている。

日本のジム所属の世界チャンプとして最も印象的な結果を残したのは、
やはり徳山昌守。敵地で前王者チョとのリターンマッチにKO勝ちした偉業、
そしてこれまた元王者の強豪ペニャロサも退け、日本選手としては久々に
3度連続防衛を達成した。スタイリッシュさと泥臭さを併せ持った、個人的に
非常に好きなタイプのボクサーでもある。来年も防衛回数を増やしそうだ。

内容だけで言えば年間最高試合に選ばれてもおかしくなかったのが、
セレス小林がレオ・ガメスを完璧なKOで倒して世界王座に輝いた一戦。
そのスタイルは職人的で、地味ではあるが味がある。来年は全勝全KO勝ち
という凄まじい相手と防衛戦を行うが、痛快に倒してぜひ名を上げて欲しい。

新井田豊にとって、今年は目まぐるしい一年だったはずだ。1月に日本タイトル
奪取。実力者鈴木に全く何もさせなかったその試合ぶりは、まさに衝撃だった。
ところが世界前哨戦となった日本タイトル初防衛戦ではまさかのドロー。
それでも8月には、論議を呼ぶ判定ではあったが無敗で世界王座に就いた。
そして10月、ボクシングファンを驚かせた突然の引退・・・。

その他にショックだった事と言えば、現役の東洋王者、竹地盛治の自殺。
長らく国内でトップを張ってきた強打者、コウジ有沢の日本王座陥落。
堅実なテクニックで長期政権を築くと思われた星野敬太郎が、初防衛戦で
まさかの敗退。名古屋期待の浅井勇登、世界初挑戦で無残な完敗、など。

あと嬉しかったのは、元世界王者、戸秀樹のカムバックが決まったこと。
長い下積みから這い上がった雑草魂とド根性。もはや漫画の世界でさえ稀有な
熱いスピリットを見せてくれた戸の再起には、やはり胸が高鳴ってしまう。
来年は何と、徳山と北朝鮮で対戦なんていう話も出ていて、また熱くさせて
くれそうだ。タイプは違うが両方とも好きなボクサーであるだけに、どちらを
応援すべきか迷うところだが・・・。



<2002年期待の日本選手>

まずは星野敬太郎。新井田豊の引退によって空位になったベルトを、
1月29日に争う。相手はこれまた元王者、しかも星野に一度はベルトを
奪われた男、ガンボア小泉だ。前回の対戦では採点こそ微妙だったが、
星野が見事なテクニックでガンボアを空転させた。今回はどうなるだろうか。

2月にも世界初挑戦か、と言われているのが佐藤修。東京のファン以外には
ほとんど名前を知られていないが、基本に忠実でスタイリッシュなボクサー
だと聞いている。佐藤が挑むスーパー・バンタム級の王者は、WBA・WBC
共に難攻不落の名チャンプ、とは言い難いので、十分チャンスはあると思う。

これまで地方で地味に防衛を続けていた東洋太平洋スーパー・ライト級王者
佐竹政一は、今年12月に東京で人気ボクサーの大嶋宏成をKOし、ようやく
その実力が全国区に知れ渡った。統一世界王者コスタヤ・ジューがいずれ
王座を返上すれば、佐竹にもチャンスが巡ってくるかもしれない。

その佐竹との対戦も噂されるのが、去年畑山隆則との壮絶な打ち合いに敗れた
坂本博之。日本では数少ない、負けて男を上げるカリスマ性を持った選手だ。
5度目の世界挑戦はあるのだろうか。厳しいとは思うが、この男には一度で
いいから世界のベルトを巻いてもらいたい。

長らく世界ランク上位をキープしてきた長嶋健吾には、来年いよいよチャンスが
やってくる可能性が高まってきた。スーパー・フェザー級王者のスター選手、
フロイド・メイウェザーが減量苦のために王座を返上する予定なのだ。
またライト・フライ級で国内無敵の本田秀伸も、長い間世界挑戦を待たされて
きた選手の一人だ。来年はフライ級にクラスを上げ、チャンスを伺う。

9月にバンタム級の安定王者ウイラポンと再戦し、惜しくもドローに終わった
西岡利晃は、ここ数年最も世界を期待され続けてきた選手だ。すでに来年、
ウイラポンとの3度目の対決が内定している。年齢的に上積みが期待できない
ウイラポンに対し、西岡はまだまだ成長過程にある。来年こそは、西岡が
WBCのあの緑のベルトを巻く姿が見られるはずだ。

名古屋期待の石井広三は、世界ランカー3番勝負の真っ最中。まずは今年11月、
タイのサオヒンに苦しみながらも判定勝ち。次回は何と以前世界戦で敗れている
ガルサと対戦するという話もある。これに勝てば、いよいよ3度目の世界挑戦が
間近に迫ってくることだろう。

その他の名古屋のホープでは、東洋太平洋フライ級王者の中野博は、これまで
4度の防衛を果たしているもののいずれも接戦で、まだちょっと世界は遠いかな
という印象。再起した浅井勇登は、前回の世界初挑戦での惨敗をまだ引きずって
いるような感じがする。さらに壁が厚いヘビー級では、オケロ・ピーターの
世界挑戦は非常に難しい。しかし名古屋のアイドルとして、これからも東洋
タイトルの防衛を続けていって欲しい。


2001年を振り返る(海外編)

2001年12月14日 | 海外試合(世界タイトル)
未だにWOWOWにも入っていない僕にとって、海外でのビッグファイトは
まさに遠い国の出来事である。正直ヘビー級偏重のアメリカのボクシング界には
辟易しているところもあるが、そこはさすがに本場、すごい試合が毎年繰り広げ
られている。まあ僕はそれを、雑誌で垣間見るしかないのだが・・・。


今年は特に番狂わせと言うか、予想外の結末を見た試合が多かった。
まずは1月、実力はほぼ互角と見られていたフロイド・メイウェザーと
ディエゴ・コラレスの無敗同士の対決が、予想に反して一方的な展開となった。
メイウェザーのスピードに、コラレスはほとんど成す術もなくTKO負け。
その後のメイウェザーは、減量苦で拙戦続きではあるが王座を防衛し続ける一方、
コラレスの方は暴行事件の審理などもあり、試合を全くしていない。

そして4月には無敗のナジーム・ハメドが、マルコ・アントニオ・バレラとの
ノンタイトル戦で判定負け。「ハメド敗れる!」の衝撃は大きかった。
軽量級のスーパースター、ハメドだったが、名声に溺れて自滅した感が強かった。
片やバレラはこの試合を機に、メキシコのスターとしての地位を確立している。

同じく4月。10度防衛目前、そしてタイソン戦をも目前にしていた安定王者
レノックス・ルイスが、全くの格下としか思われていなかったハシム・ラクマンに
右一発でKO負けしたヘビー級戦は、今年一番の衝撃だった。この試合の敗因が
ルイスの「油断」だったことは、11月の再戦で示された通りだ。


また今年は統一戦など、その階級の最強を決める戦いが多く行われた。
スーパー・フェザー級では、1月にWBA王者ホエル・カサマヨルが、元IBF
王者のロベルト・ガルシアにTKO勝ちしたのを皮切りに、先に挙げたメイウェザー
対コラレス戦(これも図式としてはWBC王者と前IBF王者との対決)があり、
来年早々にはカサマヨルと、WBO王者でKO率90%以上の強打者、ブラジルの
アセリノ・フレイタスとの統一戦が行われる。

スーパー・ライト級では、初めてメジャー3団体の王座が統一された。
2月にWBC王者コスタヤ・ジューが、WBA王者シャンベ・ミッチェルに完勝、
そして11月にIBF王者で無敗のザブ・ジュダーと対戦。若くてスピードのある
ジュダーが有利と見られていたが、予想外とも言える2回TKOでジューが圧勝。
「負けることを知らない者の弱さ」を見せつけられた。

そして今年最大の統一戦と言えば、ミドル級の3団体統一トーナメントだ。
IBFとWBCのウェルター級、WBAとIBFのスーパー・ウェルター級を
制してきた猛者、フェリックス・トリニダードが、ついにミドル級に進出。
実力者ウィリアム・ジョッピーに一方的な5回TKO勝ちでWBA王座を奪って
あっさり3階級制覇に成功。WBC王者キース・ホームズを地味な判定で下した
IBF王者、バーナード・ホプキンスと9月に対戦した。実力はありながらこれまで
ライバル不在で脚光を浴びることがなかったホプキンスが、ここで一気に主役に
踊り出た。完璧な試合運びでトリニダードを翻弄し、最終12回にTKO勝ち。
ホプキンスの実力を考えればある程度は予測できたこととは言え、その結末は
やはり衝撃的だった。

その他の統一戦としては11月のスーパー・バンタム級、IBF王者マニー・
パキャオと、WBO王者アガピト・サンチェスによる一戦があったが、サンチェスの
度重なる反則によって乱戦となり、結局負傷引き分けで王座統一ならず。
記録にも記憶にも残らない試合となってしまった。


またこれらに比べればすっかり印象が薄くなってしまったが、スーパースター、
オスカー・デラ・ホーヤが、WBCスーパー・ウェルター級王者ハビエル・
カスティジェホを判定で下して、史上3人目となる5階級制覇を達成した。
しかしカスティジェホはこの階級で最も弱いと見られていた王者で、複数階級制覇
なんてのは所詮「記録のための記録」でしかないんだということを再認識
させられた一戦でもあった。


来年はいよいよ、復調してきたマイク・タイソンと、ベルトを取り返したルイスとの
大一番が行われる。また今年は統一戦が多く行われたのは嬉しい限りだが、反面それに
よって無敗だった選手に土がついたりして、スターが減ってしまったような気もする。
しかしそうやってトップグループが混沌としてきたからこそ、新しいスター候補が台頭
してくる可能性も広がるわけだし、逆に面白くなったとも言える。

12月1日、東海市民体育館

2001年12月01日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
久々にボクシングを見に行った。場所は東海市民体育館。
家から車で15分という近さに、「これは行かねば」と思ったのだ。
しかし車のない僕は、寒空の中自転車で40分も走り、何とか
開場時間に間に合った。

まず驚いたのは人の多さ。こんな田舎で、ボクシングを見にくる人が
これほどいようとは・・・。後に観客数は3000人と発表された。
2階席などは空きが目立ったが、ボクシングの興行としてはよく
入った方じゃないかと思う。この日のメインがヘビー級ということで、
ボクシングをそれほど知らない人も駆けつけたのではないだろうか。

まずは4回戦が6試合もあり、選手には悪いがさすがに後半は少し
飽きてきた。しかもその内KO決着は1試合だけで、客席の空気も
冷え初めていた。僕の後ろの席の、K-1好きと思しき中学生の
集団が下らないお喋りを始め、気が散って仕方がなかった。

休憩をはさんで、僕がこの日最も気になっていた、戸秀樹の再起戦が
行われた。と言っても公式の試合ではなく、エキシビジョンと言われる
公開スパーリングではあったが、戸の「4度目の防衛戦」を見に行こう
と決めていた僕にとっては、初めて見る生の戸だ。戸は3度目の
世界タイトル防衛戦で敗れ、目を痛めて一年のブランクを作っていた。

お馴染みのテーマ曲が流れると、胸が高鳴った。エキシビジョンの相手は
日本バンタム級タイトルを4度防衛中の仲宣明(なか・のぶあき)。
ブランク明けの戸はさすがに動きが重く、対照的にこれから世界に
打って出ようという仲の勢いの良さが目に付いた。しかしとにかく戸高が
帰って来た。あの熱いファイトがまた見れる! これから楽しみだ。

続いてはこれも再起の浅井勇登。世界戦で完敗を喫した浅井の今回の
相手は、タイの国内チャンピオン。今までの浅井なら簡単に倒して
しまいそうな相手だが、やはり何も出来ずに終わったこの前の世界戦の
後遺症か、どうも攻めにキレがない。単発で終わってしまうのだ。
何とか最終ラウンドにKOしたが、スランプを感じさせる内容だった。

最後は東洋太平洋ヘビー級タイトルマッチ。緑ジム所属のウガンダ人、
オケロ・ピーターの2度目の防衛戦。僕を含めかなりの人がヘビー級の
試合を生で見るのは初めてだったようで、先に挑戦者が入場しただけで、
その巨体に客席からどよめきが起こる。今日は軽量級の試合がほとんど
だったせいもあるが、やはり迫力が段違いだ。試合が始まっても、
パンチの迫力(ジャブや空振りにさえも)に観客は騒然。ピーターがやや
手こずる場面もあったが、結果的には5ラウンドKOの圧勝だった。

試合後のピーターは実に愛らしいキャラクターで、既に名古屋の
ボクシングファンの間ではアイドルになりつつあるようだ。
日本語もどんどん上達し、巨体に似合わぬ甲高い声もチャーミングだ。
インタビューの最後になぜか「一本締めします」と言い出し、観客も
大ウケ。ピーターの掛け声で全員一本締めをして終わった。

KOが少なかったため、4時半に始まって全部の試合が終わったのは
9時半過ぎ。椅子が硬く、さすがに腰が痛くなった。
しばらくロビーでぼんやりしていたら、高校生くらいの男の子たちが
「今日はおもしろかったなー」なんて言っていて、何だか嬉しくなった。

人もほとんどいなくなった頃、ピーターが静かにロビーにやってきた。
思わず写真をお願いし、握手までしてもらった。試合後のボクサーの
手は熱い。しかしピーター自身は、もうシャイな青年の顔に戻っていた。

最後にちょっとショッキングな光景を目にした。浅井にKO負けした
タイの選手が、担架に乗って救急車で運ばれていったのだ。
しかもそのすぐ横を、たまたま浅井が歩いていった。こういう時の
ボクサーってどんな心境なんだろう。何となく声を掛けられなかった。

しかし今日は戸や浅井の再起も見れたし、ヘビー級の迫力も堪能したし、
非常に満足感のある内容だった。地方のファンは試合に飢えている。
プロレスほどではないにしても、出来ればこれからもこういった
地方興行をまたやって欲しいな。