ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

W世界戦(アギーレvs星野、徳山vs川嶋)

2003年06月23日 | 国内試合(世界タイトル)
これは僕だけなのかどうか分からないが、ボクシングというものは、
好きになればなるほど見るのが辛くなる。自分が応援する選手の試合が
間近に迫ってくると、楽しみだという気持ちと、見るのが怖いという
気持ちの間で胸が痛む。

これはボクシングという競技の過酷さから来るものだろう。サッカーや
野球なら、こんな気持ちにはならないのではないだろうか。今の時代に
おいて、ボクシングが今いちメジャーになりきれないのは、そういう
ところにも原因があるのかもしれない。シリアスすぎるのだ。
しかし、そのシリアスさがあるからこそ、いつの時代もボクシングには
根強いファンがつき、ここまで生き残ってこれたのだとも思う。

「昔に比べて試合がつまらなくなったから、ボクシング人気は低迷して
いるのだ・・・」オールドファンがよく言うセリフだ。しかし昔だって
泥試合はあったはずだし、要は素晴らしい試合だけが記憶に残っているから
そう感じるに過ぎないのだと思う。僕は、こういうことを言って昔を美化する
オヤジにだけはなりたくない、と思う。

つまり、シリアスなものや分かりにくいものを遠ざける傾向にある現代の
メディアの風潮に、ボクシングの持つ生真面目さがそぐわないのだろう。


・WBC世界ミニマム級TM ホセ・アントニオ・アギーレvs星野敬太郎

初めに行われた星野の試合は、終盤の星野の打たれ様が壮絶すぎて、
直視に耐えないほどだった。元々ガードの甘い選手ならまだ心の準備も
出来るが、ディフェンスの巧みな星野があれほど打たれるとは・・・。

確かに王者アギーレの攻撃力を考えれば、星野のKO負けは予想できる
範囲内のことではあった。しかしそれを実際に目の当たりにした時の
ショックは、予想を越えていた。その終盤が訪れるまでは星野もよく戦い、
アギーレをピンチに陥れる場面もあったのだが、それら全てを帳消しに
するほどの悲壮なシーンだった。

普段は飄々とした人柄、ボクシングスタイルで知られる星野だけに、余計に
それがショッキングに映ったのだろう。ボクシングの恐ろしさを、改めて
思い知らされた一戦だった。

星野は敗れる度に何度も引退を宣言し、またそれを撤回して再起を繰り返した。
世界戦では初のKO負けとなった今回は、果たしてどうだろうか。30代にして
6度の世界戦を経験し、その結果は2勝4敗。結局ガンボア小泉にしか勝って
いないという事実もあるわけだが、どの試合でも星野は、卓越した技術を我々に
見せてくれた。今は静かにその動向を見守りたいと思う。


・WBC世界Sフライ級TM 徳山昌守vs川嶋勝重

続く徳山の試合にもハラハラさせられた。楽勝を予想していたが、挑戦者・
川嶋の狂ったような突進に、心臓が激しく動悸した。冷静に見れば、大ピンチに
見えた序盤も徳山が的確にパンチを当て続けていたし、後半はスタミナ切れと
ダメージで失速した川嶋を、老獪なクリンチワークで封じ込めていたのだが。

クリンチが多かったことでやや凡戦という印象になってしまったが、気合いが
入りすぎて空回りする挑戦者に対して、チャンピオン徳山がキャリアと技術の
差を見せ付けて手堅く王座を守った、そんな内容だったように思う。しかし
川嶋のその尋常ではない気合いが、試合をスリリングにしていたのも事実だ。

これで徳山は、実に7度もの防衛を果たしたことになる。新聞等でさかんに
報道された通り、日本のジム所属の世界チャンピオンとしては、具志堅用高の
13度、勇利アルバチャコフの9度に続く、歴代3位の記録だ。

確かに挑戦者の「質」について疑問の声を投げかけられる試合もあったが、
徳山が「対戦相手の良さを殺す」ことを持ち味としている点は、差し引いて
考えなければならないと思う。つまり、徳山と対戦した者は、実際より少し
弱く見えてしまうのである。

また徳山は、強豪ペニャロサとの2戦を通じて、決してスマートとまでは
行かないながらも、突貫ファイターへの対処法を会得したようだ。その経験が
今回の川嶋戦にも生かされていたように思う。後半は、歯を食いしばって攻め込む
川嶋に対し、驚くほど冷静な徳山の表情が印象的だった。


果たして、このダブル世界戦のビデオを見返すことはあるのだろうか。
それは分からない。ただ、一つだけ言えるのは、僕はこの先もまだまだ
ボクシングを見続けていくのだろう、ということだ。

シリアス過ぎるものを直視したくない、そんな気分の時もある。
しかしその切迫感からは逃れることが出来ない。ボクシングとはある意味で、
見る側にもそういった切迫感を強いるスポーツでもあるのだ。


あるボクサーの引退

2003年06月21日 | その他
元日本ウェルター級チャンピオン、中野吉郎(よしお)選手が
引退を表明した。判定で敗れた日高和彦戦の直後だったという。

全戦績、29戦16勝(3KO)9敗4分。デビュー戦も判定負け、
連勝は最高でも4どまり。そんな男が日本タイトルを獲ったのである。
1度も防衛することなく敗れ、また返り咲くこともなかったが・・・。

実はこの選手には、個人的に忘れられない思い出がある。と言っても
つい最近のことなのだが、ファンレターらしきものを書いたことがあるのだ。
そんなことをしたのは生まれて初めてで、しかも次の週には返事が来た。
ボクサーから直筆の手紙をもらったのも、もちろん初めてのことだ。
そこには、実直で穏やかな性格そのままの文字と文章があった。

そもそも、僕はなぜこの人に手紙など出そうと思ったのだろうか。
自分でもはっきりした理由は分からない(以下敬称略)。

中野の試合を見たのはたった一度きり、あの日本タイトル戦だけである。
それまでに5度の防衛を果たしていた安定王者、加山利治に挑んだのだ。

加山はその前の試合で東洋太平洋タイトルに挑戦し、不甲斐ない敗北を
喫していた。失われた自信と信用を回復するために、ランク下位の中野が
手頃な挑戦者として選ばれた、という印象があった。中野はスピードも
強打もなく、打たれ強くもない。加山のKO防衛、というのがほとんどの
人の予想だったはずだ。僕もそうだった。と言うより、それまで中野という
選手の存在自体知らなかったのだ。

試合は中野が積極果敢に前進する形で始まった。しかしいかんせん迫力に
欠け、その姿は噛ませ犬の弱々しい抗いにしか見えなかった。いずれ加山に
捕まり、滅多打ちにされるシーンしか浮かばなかった。

ところが、その「いずれ」は訪れなかったのだ。ほとんど密着した状態から
中野の軽いパンチがヒットし続ける。加山は明らかにそのしつこい攻撃を
嫌がっている。何とか距離を取ってミドルレンジで強打を当てようとするが、
それも単発に終わり、また中野の強引な接近に遭い沈黙を強いられる。

最初は「こんなんで勝てるわけないよ」と薄笑いさえ浮かべてテレビを
見ていた僕だが、試合が進むにつれ、いつしか中野の勝利を祈っていた。
「勝てるはずない、でも勝てるかも、いや勝ってくれ!」何の縁もゆかりも
ない、ほとんど無名の地味なボクサーの戦いぶりに心を揺さぶられていた。

結局最後まで同じ展開が続き、判定は・・・文句なく中野!
気付けば目を潤ませている自分がいた。これは大番狂わせだ!
パンチがなくても、スピードがなくても、どんなに地味でも、諦めず
自分に出来ることを精一杯やり通せば、幸運が訪れることもあるのだ。
世界戦ばかりがボクシングではない。こんな所にも「奇跡」はあるのだ。

初防衛戦で王座を失った中野は、ブランクを作り、ジムを移籍したものの、
その後も戦いを続けた。もう一度チャンピオンに返り咲きたかったのか、
それとも自分の中で納得できていないものがあったのか・・・。

元日本王者だというのに、中野の試合が大きく扱われることはなかった。
そのことも僕の胸を打った。中野の栄光の時は、あまりにも短かったのだ。
加山戦後は、2年間で5戦してわずかに1勝。

しかし中野は日本チャンピオンとしてボクシング史にその名を残し、
またその存在は僕の心にも強く刻み込まれた。

強さって何だろう。「中野は強いチャンピオンだったのか?」と問われたら
答えに困ってしまうかもしれない。しかし「偉大さ」というのは、結局
それぞれの人の心の中でのみ決められるものではないだろうか。

つまり確かに言えるのは、僕にとって中野吉郎は決して忘れることの出来ない
偉大なボクサーであった、ということだ。

6・23、ダブル世界戦

2003年06月14日 | その他
今月23日に、横浜でダブル世界戦が行われる。WBC世界スーパー・
フライ級チャンピオン徳山昌守が川島勝重の挑戦を受けるV7戦。
そして前WBA世界ミニマム級王者の星野敬太郎が、WBC王者ホセ・
アントニオ・アギ-レに挑戦する。

今年は、国内の世界戦がやけに少ない。1月にシリモンコンと崔、
4月にラリオスと仲里。しかもいずれも名古屋ではテレビ放送が
なかったので、6月半ばにして今年初めて世界戦がテレビで見れる
ということになる。こんなことは今までなかったはずだ。


あまりに長いこと世界戦から離れていたので、試合まで10日を
切ったというのに、どうも僕の中で気持ちが盛り上がってこない。

徳山と川島の試合の構図は、はっきりとボクサー対ファイターである。
僅差とは言え、あのペニャロサを2度も下した徳山が、そんじょそこらの
ファイターに負けるとは思えない。要するに勝敗に対する興味が
あまり湧かないのだ。確かに川島は、元世界王者ヨックタイ・シスオーとの
打撃戦を制した経験もある強者だ。しかし彼の持ち味はあくまで接近戦で、
徳山のような世界レベルのアウトボクサーには、ひたすら空転させられる
絵しか想像できない。

というわけで予想は徳山の大差判定勝ちだが、川島がしつこく接近して
得意のボディから攻めれば、勝機がないわけではない。その場合、
小差の判定をものにする可能性もあるが・・・。


対照的に、勝敗の予想がつかず、また見るのが怖いのが星野の試合だ。
王者のアギーレは、完成度の高いハードパンチャー。以前星野が完封した
ガンボア小泉も強打者だが、レベルが一段違うと見ていいだろう。
つまり、いかに防御の堅い星野と言えども、アギーレの多彩な攻めに
対応し切れず、ついに凄惨なKO負けを喫するのではないか、という
イメージが浮かんできてしまうのだ。

もしアギーレにパンチ力がなければ、メキシコと日本のテクニシャン
対決として、単純に楽しみに待っていられたのだろうが・・・。
とにかく星野には、僕の予想を覆した勝利を願いたいものだ。