ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC&IBF世界ヘビー級TM レノックス・ルイスvsマイク・タイソン

2002年06月08日 | 海外試合(世界タイトル)
WBC・IBF世界ヘビー級タイトルマッチは、王者のレノックス・
ルイスが元統一王者の挑戦者マイク・タイソンに8回KO勝ち、王座を守った。
これは実に順当なことだ。タイソンは実に5年振りの世界挑戦であり、しかも
ここ数年の試合では、勝つには勝つのだがどうも煮え切らない戦い振りが目立って
いたのだから。全盛期の動きには程遠いタイソンと、長らく世界のトップを張って
きたルイス。普通に考えれば勝敗の予想は容易につくはずだ。

にもかかわらず、試合前に「タイソンのKO勝ち」を予想する人が意外に多いのが
僕にとっては驚きだった。おそらくそういう人たちも、客観的にはやはりルイスの
勝利を予想していたはずだ。これはあくまで「希望的観測」というやつだろう。
そんな夢のような期待をさせるほど、全盛時のタイソンの残像は未だに多くの人の
心に住み着いているのである。

しかしタイソンは敗れた。1ラウンドこそ果敢に攻め込んでポイントを奪った
ものの、以降はほぼ一方的にやられ、まさに完敗を喫してしまった。しかし
ファンは、ルイスの強さを称えるよりもむしろ、タイソンの衰えを嘆いた。
曰く「全盛期のタイソンならルイスなんて目じゃない」。確かにそうだったかも
しれない。しかしそれはあまりに都合の良すぎる仮定だ。間違いなくタイソンは、
自分の愚かさによって貴重な時間を棒に振ったのである。そういった精神的な
弱さによる損失も含めて、ボクサー、マイク・タイソンは存在しているのだ。

かわいそうなのは勝利者であるはずのルイスである。ホリフィールドにも勝った。
9度も世界王座を守った。一度はラクマンに不覚を取ったがすぐに借りを返した。
そしてついにタイソンをも倒して、これでヘビー級現代最強の称号はルイスのもの
になったはずだった。しかし未だにヘビー級は、すでに衰えを露呈したタイソン
中心に語られているのである。一体この先、誰を倒せばいいのか。誰に勝てば、
ヘビー級最強の名を手に入れられるのか。ルイスが本当の意味での「勝者」と
なる日は、果たして来るのだろうか・・・。

しかし今回、タイソンの戦う姿勢に感動を覚えたのもまた事実だ。今まで僕は、
タイソンは衰えた自分を世間や自分自身にさらけ出すのが嫌で、様々な騒動を
起こして現実から逃げているのだと思っていた。それがこの試合では、一貫して
クリーンなファイトに徹した。試合前はルイス陣営と乱闘騒ぎを起こしたりして
いたが、ゴングが鳴ってからは、懸念されていた暴走行為も全くなかった。
そして極めて「誠実に」、自らの衰えを全世界に示して見せたのだ。

考えてみればそれはボクサーとして至極当然の行為であり、こんなことに感動
するのも変な話なのだが、かつてヘビー級ボクサーとして最高の栄誉に浴し
ながら、数々の事件によりその名に自ら泥を塗ったマイク・タイソンが、
さらに汚れることなく、潔く正々堂々と散っていった様は見事だった。

契約上、両者の再戦はほぼ間違いなく行われるはずだが、結果は恐らく、いや
十中八九、今回と同じようなものになるだろう。重要なのはむしろ結果よりも、
タイソンがいかに高貴に自らの時代の終焉を宣言するか、である。タイソンには
今回と同じく、再戦でもクリーンファイトに徹してもらいたい。そこでの敗北は
決して恥ではなく、僕は拍手をもって偉大な元王者を見送ることになるだろう。
「今までお疲れさま、そしてありがとう」と・・・。


ルイスvsタイソン、いよいよ明日ゴング

2002年06月07日 | その他
いよいよ明日である。未だに、本当に実現するのかなあ?と思っている。
何度も話が浮かんでは消え、ファンはすでに待つことに慣れすぎてしまった。
明日、ついにヘビー級現代最強が決定する。WBC&IBF世界ヘビー級
タイトルマッチ、王者レノックス・ルイスと、挑戦者マイク・タイソン。
20世紀中にとっくに行われていたはずの「幻のカード」が実現するのだ。

未だにヘビー級と言えばタイソン、であるが、実際に無敵の強さを発揮した
のは80年代の後半で、90年代にチャンピオンであった期間はわずか1年。
それでもなお、ヘビー級の新世代がなかなか台頭して来ないこともあって、
タイソンの存在感は飛び抜けている。小柄な体で次々と豪快なKO劇を生み
出したタイソンは、現役にして半ば「伝説」の人でさえあるのだ。

一方のルイスは、90年代を通じて、イベンダー・ホリフィールドと共に
ヘビー級の中心人物であり続けたが、それでも決して「主役」であったとは
言い難い。戦績、王座の防衛回数などを比べても、それほどタイソンに劣って
いるとは思えないにもかかわらず、だ。優れたボクサーではあるが、いかんせん
華がないのである。これはもう本人には責任のないことではあるが・・・。

王座を失い、裁判や収監ざたを繰り返してもなお知名度の衰えないタイソンと、
どれだけ実績を積み上げてもタイソンと並び称されないルイス。これは決して
実力の差に比例しない、と僕は思う。ボクシングを超えた支持を得たいのなら、
ボクサーの規格からはみ出なければならない。リング内外で狂気じみた人間性を
表すタイソンに対し、ルイスはあくまで「優秀なボクサー」。この違いだろう。

実際、これだけタイソン、タイソンと騒がれているにもかかわらず、ファンや
評論家の過半数はルイスの勝ちを予想しているのである。知名度はあっても
タイソンはすでに「過去の人」であり、長らく世界のトップで戦ってきた
ルイスに分があるのではないか、という見方が大勢を占めているように思う。

両者の共通点は、精神面のもろさである。どちらも過去に、格下相手に油断し
無残なKO負けを喫したことがある。いくら全盛期を過ぎた選手とは言え、
タイソン相手にルイスが気を抜くとは考えられないが、もう一つ心配なのは、
タイソンの「狂気」にルイスがビビッてしまわないか、ということである。

試合中にキレて、あのホリフィールドの耳を噛みちぎったことを筆頭に、
数々の常軌を逸した行動をとってきたタイソンが、今度の試合でも何か
とんでもない事をしでかすのではないか。そう思ってルイスが怯えてしまえば、
パンチを出す手も縮こまり、逆にタイソンの強打をまともに食らってしまう
可能性も高くなる。この狂気も、今やタイソンの「武器」の一つなのである。

とは言え、やはり僕はルイスの勝利を予想する。強打者には持ち前の慎重さを
発揮し、距離を取ってアウトボクシングにも徹することの出来るルイスである。
ルイスが丁寧にジャブを突き続け、それに邪魔されて中に入れないタイソンが
イラつき、試合を投げてしまうのではないだろうか。そしてもちろんルイスも
非力なボクサーではないので、KOで試合を終わらせてしまう可能性もある。

問題はいかにタイソンが全盛期の動きを取り戻し、またメンタルな部分でも
冷静にルイスに対処できるかだが、冷静になったタイソンに「怖さ」はなく
なってしまうし、楽な試合ばかり重ねてきた最近のタイソンが、いきなり
全盛期の強さを見せることもまずないだろう。

ただ、ボクシングというのはやってみなきゃ分からない部分も多々あるので、
実際戦ってみたらタイソンの方がはるかに格上だった、なんてこともないとは
限らない。とにかく明日が楽しみだ。結果はともかく、両者ともいい状態で
リングに上がってくれることを願うばかりである。