WBC・IBF世界ヘビー級タイトルマッチは、王者のレノックス・
ルイスが元統一王者の挑戦者マイク・タイソンに8回KO勝ち、王座を守った。
これは実に順当なことだ。タイソンは実に5年振りの世界挑戦であり、しかも
ここ数年の試合では、勝つには勝つのだがどうも煮え切らない戦い振りが目立って
いたのだから。全盛期の動きには程遠いタイソンと、長らく世界のトップを張って
きたルイス。普通に考えれば勝敗の予想は容易につくはずだ。
にもかかわらず、試合前に「タイソンのKO勝ち」を予想する人が意外に多いのが
僕にとっては驚きだった。おそらくそういう人たちも、客観的にはやはりルイスの
勝利を予想していたはずだ。これはあくまで「希望的観測」というやつだろう。
そんな夢のような期待をさせるほど、全盛時のタイソンの残像は未だに多くの人の
心に住み着いているのである。
しかしタイソンは敗れた。1ラウンドこそ果敢に攻め込んでポイントを奪った
ものの、以降はほぼ一方的にやられ、まさに完敗を喫してしまった。しかし
ファンは、ルイスの強さを称えるよりもむしろ、タイソンの衰えを嘆いた。
曰く「全盛期のタイソンならルイスなんて目じゃない」。確かにそうだったかも
しれない。しかしそれはあまりに都合の良すぎる仮定だ。間違いなくタイソンは、
自分の愚かさによって貴重な時間を棒に振ったのである。そういった精神的な
弱さによる損失も含めて、ボクサー、マイク・タイソンは存在しているのだ。
かわいそうなのは勝利者であるはずのルイスである。ホリフィールドにも勝った。
9度も世界王座を守った。一度はラクマンに不覚を取ったがすぐに借りを返した。
そしてついにタイソンをも倒して、これでヘビー級現代最強の称号はルイスのもの
になったはずだった。しかし未だにヘビー級は、すでに衰えを露呈したタイソン
中心に語られているのである。一体この先、誰を倒せばいいのか。誰に勝てば、
ヘビー級最強の名を手に入れられるのか。ルイスが本当の意味での「勝者」と
なる日は、果たして来るのだろうか・・・。
しかし今回、タイソンの戦う姿勢に感動を覚えたのもまた事実だ。今まで僕は、
タイソンは衰えた自分を世間や自分自身にさらけ出すのが嫌で、様々な騒動を
起こして現実から逃げているのだと思っていた。それがこの試合では、一貫して
クリーンなファイトに徹した。試合前はルイス陣営と乱闘騒ぎを起こしたりして
いたが、ゴングが鳴ってからは、懸念されていた暴走行為も全くなかった。
そして極めて「誠実に」、自らの衰えを全世界に示して見せたのだ。
考えてみればそれはボクサーとして至極当然の行為であり、こんなことに感動
するのも変な話なのだが、かつてヘビー級ボクサーとして最高の栄誉に浴し
ながら、数々の事件によりその名に自ら泥を塗ったマイク・タイソンが、
さらに汚れることなく、潔く正々堂々と散っていった様は見事だった。
契約上、両者の再戦はほぼ間違いなく行われるはずだが、結果は恐らく、いや
十中八九、今回と同じようなものになるだろう。重要なのはむしろ結果よりも、
タイソンがいかに高貴に自らの時代の終焉を宣言するか、である。タイソンには
今回と同じく、再戦でもクリーンファイトに徹してもらいたい。そこでの敗北は
決して恥ではなく、僕は拍手をもって偉大な元王者を見送ることになるだろう。
「今までお疲れさま、そしてありがとう」と・・・。
ルイスが元統一王者の挑戦者マイク・タイソンに8回KO勝ち、王座を守った。
これは実に順当なことだ。タイソンは実に5年振りの世界挑戦であり、しかも
ここ数年の試合では、勝つには勝つのだがどうも煮え切らない戦い振りが目立って
いたのだから。全盛期の動きには程遠いタイソンと、長らく世界のトップを張って
きたルイス。普通に考えれば勝敗の予想は容易につくはずだ。
にもかかわらず、試合前に「タイソンのKO勝ち」を予想する人が意外に多いのが
僕にとっては驚きだった。おそらくそういう人たちも、客観的にはやはりルイスの
勝利を予想していたはずだ。これはあくまで「希望的観測」というやつだろう。
そんな夢のような期待をさせるほど、全盛時のタイソンの残像は未だに多くの人の
心に住み着いているのである。
しかしタイソンは敗れた。1ラウンドこそ果敢に攻め込んでポイントを奪った
ものの、以降はほぼ一方的にやられ、まさに完敗を喫してしまった。しかし
ファンは、ルイスの強さを称えるよりもむしろ、タイソンの衰えを嘆いた。
曰く「全盛期のタイソンならルイスなんて目じゃない」。確かにそうだったかも
しれない。しかしそれはあまりに都合の良すぎる仮定だ。間違いなくタイソンは、
自分の愚かさによって貴重な時間を棒に振ったのである。そういった精神的な
弱さによる損失も含めて、ボクサー、マイク・タイソンは存在しているのだ。
かわいそうなのは勝利者であるはずのルイスである。ホリフィールドにも勝った。
9度も世界王座を守った。一度はラクマンに不覚を取ったがすぐに借りを返した。
そしてついにタイソンをも倒して、これでヘビー級現代最強の称号はルイスのもの
になったはずだった。しかし未だにヘビー級は、すでに衰えを露呈したタイソン
中心に語られているのである。一体この先、誰を倒せばいいのか。誰に勝てば、
ヘビー級最強の名を手に入れられるのか。ルイスが本当の意味での「勝者」と
なる日は、果たして来るのだろうか・・・。
しかし今回、タイソンの戦う姿勢に感動を覚えたのもまた事実だ。今まで僕は、
タイソンは衰えた自分を世間や自分自身にさらけ出すのが嫌で、様々な騒動を
起こして現実から逃げているのだと思っていた。それがこの試合では、一貫して
クリーンなファイトに徹した。試合前はルイス陣営と乱闘騒ぎを起こしたりして
いたが、ゴングが鳴ってからは、懸念されていた暴走行為も全くなかった。
そして極めて「誠実に」、自らの衰えを全世界に示して見せたのだ。
考えてみればそれはボクサーとして至極当然の行為であり、こんなことに感動
するのも変な話なのだが、かつてヘビー級ボクサーとして最高の栄誉に浴し
ながら、数々の事件によりその名に自ら泥を塗ったマイク・タイソンが、
さらに汚れることなく、潔く正々堂々と散っていった様は見事だった。
契約上、両者の再戦はほぼ間違いなく行われるはずだが、結果は恐らく、いや
十中八九、今回と同じようなものになるだろう。重要なのはむしろ結果よりも、
タイソンがいかに高貴に自らの時代の終焉を宣言するか、である。タイソンには
今回と同じく、再戦でもクリーンファイトに徹してもらいたい。そこでの敗北は
決して恥ではなく、僕は拍手をもって偉大な元王者を見送ることになるだろう。
「今までお疲れさま、そしてありがとう」と・・・。