ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

世界ミドル級王座統一戦 バーナード・ホプキンスvsオスカー・デラ・ホーヤ

2004年09月08日 | 海外試合(世界タイトル)
6月にWBOミドル級王座を獲得し、前人未到の6階級制覇を
達成したボクシング界のスーパースター、オスカー・デラ・ホーヤ。

しかしWBO王座は、WBAやWBC、IBFなどの団体に比べ
一段下のレベルだと見なす人が多い。今回、その3団体のベルトを
保持するバーナード・ホプキンスに勝てば、誰もが「真の王者」と
認めるだろう。無敗のフェリックス・トリニダードを破って株を大きく
上げたホプキンスは、今や現代最強とも称される強豪だ。IBF王座に
関しては、ここまで実に18度も防衛してきた。

ビッグマッチ特有の高揚感の中、まずは陽気なマリアッチに乗って
メキシコ系米国人のデラ・ホーヤが登場。続いて、何とフランク・
シナトラの「マイ・ウェイ」が流れ、ホプキンスがリングへ向かう。
こんなスローな曲で、しかも黒人のチャンピオンがシナトラの
スタンダード・ナンバーで入場してくるなんて、何とも不思議な光景だ。
雰囲気たっぷりのマイケル・バッファのリングアナウンスで会場は更に
盛り上がり、いよいよ世紀の対決のゴングが鳴った。

スーパー・フェザー級から上がってきたデラ・ホーヤにとって、
ミドル級に対応できる体を作ること自体がまず大変な作業だ。WBO王座を
奪ったフェリックス・シュトルム戦ではブヨブヨの体型で、いかにも
動きが重そうだった。微妙な判定で何とか勝ったものの、最強ホプキンスを
相手にすることを想定した場合、やはり悲観的な予想を立てざるを得ない
試合内容だった。何よりもまず、デラ・ホーヤがどんなコンディションに
仕上げてくるか、それが今回の試合の焦点だった。

そのデラ・ホーヤだが、前回に比べて体が絞れている。「今回はスーパー・
ウェルター級(1階級下)に近いウェートを作り、スピード重視で行く」と
戦前に語っていた通り、パンチにキレがある。コンディションは良好だ。
対するホプキンスも、デラ・ホーヤにスピード負けしないようにと考えたのか
いつもより細身の体を作ってきたようだ。しかし構えはどっしりしていて、
まさに王者らしく「迎え撃つ」スタイルだ。

序盤はデラ・ホーヤの積極性が目立つ。スピードがあり、手数も多い。
しかしホプキンスも少しづつ仕掛けてくる。ジャブのようにいきなり放つ
右ストレートが有効だ。4ラウンド、ホプキンスが接近してボディを叩く。
やはりパンチに重さがある。しかしデラ・ホーヤも手数で応戦し、ここまでは
よく戦っているなあという印象。これまで様々な強敵と対しながら、いずれも
五分以下の予想を立てられたことのないデラ・ホーヤだが、初めて「圧倒的
不利」の予想で挑んだこの試合、まさに「挑戦者」と呼ぶにふさわしい
果敢なボクシングを見せている。

ただ、中盤に入り、試合の流れそのものはホプキンスに傾いてきた。
デラ・ホーヤのパンチにびくともせずに前進、プレッシャーを強める。
1ラウンドから飛ばしてきたデラ・ホーヤは、心なしか少し疲れてきた
ようにも見える。対するホプキンスは、憎らしいほど冷静さを保っている。

8ラウンド、ついに手数でも明らかにホプキンスが上回り始めた。
デラ・ホーヤの動きが鈍ってきたのだ。そして9ラウンド。ホプキンスの
パンチが自在にヒットし出し、ロープ際で接近戦になった瞬間、ホプキンスの
ボディブローが炸裂、少し間をおいてデラ・ホーヤが崩れ落ちた。
立ち上がれずに10カウントを数えられたデラ・ホーヤ。初のKO負けだ。

初めてといえば、WBOを含む「4団体の統一王者」というのも、この
ホプキンスが史上初となる。スーパースターに全く危なげなく完勝した
ホプキンス、これでIBF王座は19度目の防衛だ。次はいよいよ、大台の
V20を目指す。本当に、本当に強いチャンピオンだ。

一方のデラ・ホーヤだが、完敗という結果にもかかわらず、僕の目には
非常に健闘していたように映ったし、決して彼自身の名を汚すような敗戦では
なかったと思う。WBO王座を獲り、形としては6階級制覇を果たした。
十分に富も築いた。ここで引退するなり、手頃な相手との試合を行うといった
選択肢もあったはずだが、あえてそれをせず、最強のチャンピオンに臆せず
立ち向かっていった。

個人的には、これまでその階級で一番組みし易いチャンピオンを選んで
効率的に6階級を制してきたという印象があり、ちょっとセコい奴だなあと
思っていたデラ・ホーヤだが、このホプキンス戦でむしろ印象が良くなった
感すらある。まだ引退はせず、本来の動きが出来るウェルター級あるいは
スーパー・ウェルター級に戻す計画らしい。今後もボクシンングシーンを
盛り上げる千両役者であり続けてもらいたいものだ。