前回に続いて、秋田市営バスの座席の話。今回は新塗装車両の座席の「形状」について。
※前回の記事を先にお読みいただいたほうが、多少は分かりやすいかと思います。
※各タイプとも、最後列の5人掛けは形状が異なるため、それ以外の席についてまとめます。
前回も触れたように、秋田市交通局が1986年以降に導入した車両の座席は、グレードが高いものだった。
「ハイバックシート」と呼ばれる背もたれが高いものであり、体を包み込むような整形が施された「バケットシート」に近いような構造でもあった。(この辺りの定義はあいまいなんでしょう)
リクライニングしてもおかしくなさそうな見かけもののもあったが、リクライニングはしない。
また、旧塗装当時の2人掛け席は、1人掛けの幅を広げただけの構造だったが、新タイプでは背もたれが1人分ずつ独立したものが基本になった(一部例外あり。後述)。座布団は色が違うだけでくっついたまま。
といっても、全部の車両が同じ形状の座席ではなく、座り心地も違った。
これは、車両メーカーの違い(結果的には座席メーカーの違いなわけだが)や製造年によるもの。
※以下、車両の導入は「年度」であり「年式」ではありません。
※背もたれの高さの比較には、窓との位置関係が参考になりますが、車両メーカーや車種によって窓の高さやサイズが異なるため、単純に比較できるわけでもありません。
まずはこれ。
(前回の再掲)293号車
(前回の再掲)277号車の2人掛け。背もたれはそれぞれ独立し、座布団はくっついている
形状ではこのタイプが最多。
1986年度と1988~1994年度までに導入されたいすゞ製と日産ディーゼル製、1992、1993年度の三菱製の計56台で採用された。1995年以降、三菱と日産ディーゼルでは後述の別タイプに変更されたが、いすゞは1994年を最後に新車導入がなかったので市営バスのいすゞ製路線バスは27台すべてがこのタイプだったことになる。
布地は、格子柄とワンステップ用チェックの2タイプが存在。
全国的には現在でも、少し豪華な路線バス(公営事業者とか観光地路線・中距離路線とか)ではたまに見かけるタイプ。
【2020年4月4日追記】2019年頃の時点で、箱根登山バスの新しそうな三菱エアロスターで、同型と思われる座席が使われていた。いすゞ・日野は、モデルチェンジにより標準仕様での座席の形状自体が変わってしまったが、三菱ではまだ現役のようだ。
従来と比べると座布団も厚くなっているが、背もたれが高くて厚いのが一目瞭然。まさに「ハイバックシート」。以下で紹介する他のどのタイプよりも分厚く感じられる。
背もたれは肩までカバーし、若干カーブを描いている。上部の中央付近には横方向に縫い目がある。
座り心地は、ふかふかして、背中を均一にホールドする感じ。他のタイプよりも経年でヘタりやすいようで、時が経つと座り心地がスカスカしたりシルエットも若干柔らかく(?)見えてしまうような気がしなくもない。
1992年度の日産ディーゼル製(276~278号車のどれか)
肘掛けは固いプラスチック製。
背もたれの裏側にある取っ手(1つ後ろの席の人がつかむための)が、他の多くのタイプでは金属部分に設置されているのに対し、これは布地の部分にあるのが特徴的。そのためか、経年でネジが取れかけていることが、他より多いような印象もある。
座席を支えて床や壁に固定する金属フレームは、いすゞと日産ディーゼルでは白、三菱製では黒と異なる。
このタイプの座席で特筆すべきは、1993、1994年度のワンステップ車の2人掛け席。
1994年度のいすゞワンステップ(126~129号車のどれか)。1人掛けは布地が違うだけ
1993年度に導入された日産ディーゼル「JP」シリーズは、初のワンステップバスとして注目を浴びた。
マスコミでも報道され、乗降のスムーズさとともに、2人掛け席のことが取り上げられていた。
その2人掛け席
隣り合う座席が、背もたれ1つ分くらい前後にずれて設置されている。(通路側の席が後方に寄っている)
他のタイプでは、座布団部分は2人分が一体化しているが、こちらでは座布団も別々というか、1人掛け席と同じ椅子(おそらく幅はやや狭いけど)をずらして並べている形なのだろう。
1993年12月10日付広報あきた1300号では、「隣同士に座ったお客さんの肩やひじかふれないよう、座席を前後に少しずらして配置するなどの心配りもなされています。 」と紹介している。
ほかにも通路側に着席する人がいる状態で、窓側の席から通路に出入りする時も、いくぶんスムーズになる目的があったと思われる。
翌1994年度のいすゞ製ワンステップ車でも、同じものが設置された。
市営バスの大型車やワンステップ車の導入はこれっきりだったし、ツーステップの中型車には波及せずに終わった。
Wikipediaの「日本のバスの座席」の項目を見ると「オフセットシート」というのが説明されていて、それが、このずれた2人掛け席のことだった。
日産ディーゼルJPシリーズというのは、福岡の西鉄の廃止鉄道路線代替バスのために開発されたバスが元祖。(それを一般商品化した際、真っ先に買ったのが秋田市交通局だったとか)
その時にオフセットシートが考案されてJPシリーズで商品化され、さらに他のメーカーやバス会社にも波及したようだ。(となると、特に秋田市交通局が要望してオプションで採用されたわけでもなさそうだ)
しかし、現在では、オフセットシートを採用しているバス会社はあまりないようだ。
心理的に窓側席に入りにくくなり、窓側に座る客が減るという弊害があるためだそうだ。
以上、長くなったけど、このタイプの座席は製造元が判明している。
航空機、鉄道、バスの座席で高いシェアを誇る、富山市にある座席メーカー「天龍工業」の製品。おそらく「MS100」というシリーズの1種かと思われる。
同社製のバス用座席には、円形の「テンリュー工業」または横長の「天龍工業株式会社」というシールが貼られていることがあり、中央交通の座席も(形状は違うが)同社製が多いようだ。
市営バスでは最多だったこの座席だが、譲渡された中央交通で今なお使われている車両がいくつかあり、今でもヘタったこの座席に座ることはできる。でも、先は長くなさそう。
次に、説明の都合上、少数派の1つを先に紹介。
(前回の再掲)1986年導入日野ブルーリボン204号車
1986年度導入の日野ブルーリボン202~204号車の3台にだけ設置されていたタイプ。
座り心地などは記憶にないが、背もたれは低めで、角度が大きいようだ。
肘掛けが複雑な形状だが、これは前年度の日野レインボーで設置されていたものと同じ(パイプの色は違う)。
(前年度の再掲)192号車
だから、日野製車両で優先的に使われていた座席メーカーの製品かもしれない。
他の日野製車両では、こんな座席。
板張りの床が懐かしい1989年度導入226号車(板張り床は1989年度まで)
日野製中型車レインボーだけに設置されていたタイプ。1988~1991年、1994年導入の21台。
交通局では、日野製中型車は東営業所に集中配置していた(中央営業所にはわずかだけ配置)。そのため、東営業所担当ダイヤをよく利用していた人にはなじみ深い席である一方、大型車や中央営業所の中型車が走る路線・ダイヤだけを利用していた人には、あまり縁がない席だったはず。
天龍工業製と比べると背もたれが薄くてより高く、スリムな印象。(写真は晩年の白いカバーが被せられた後なので、やや分かりづらいですが)
窓の部分に背もたれが飛び出ているのがはっきりと分かり、首や頭までもカバーする。
背もたれは途中で厚さが変わる。肘掛けは固いゴム風でカギ型
座り心地は天龍工業よりは硬めで、悪くなかった。
秋田市営バスでは、日野製でも大型車は別のタイプの座席(前項と次項で紹介)が設置されていたが、京都市営バスの大型車ではこれが使われていたので、別に中型バス専用の座席というわけではないのだろう。
現在は1991年度の車両の一部が残っている。(1994年度車はオートマが扱いづらかったのか、譲渡後に早期廃車)
1992年度の日野製・ワンロマ仕様285号車
1992年度に、1986年以来となる日野製大型車ブルーリボンが導入された。「秋田八丈」塗装の貸切兼用(ワンロマ)車が4台(283~286号車)。
貸切兼用という性格からか、ひときわ豪華な座席が採用された。
一見すると天龍工業製にどことなく似ている(後ろの取っ手の取付位置とか)が、同一ではない。
背もたれは上部が厚く、両端が前にややせり出していて、ヘッドレストのような趣き。座ると、肩の辺りが包まれるような感じ。座り心地がとても良いというわけでもなく、他のタイプ並みか。
2席だけある1人掛け席は少し幅が広いか
肘掛けは2辺をカバーするカギ型で、プラスチックの表面に数本のライン(浅い溝)が入る。他の2辺はシート生地で覆われている。
ワンロマだから特別な席なのかと思いがちだが、翌1993年度に導入された路線専用仕様の4台(294~297号車)でも、同じタイプが採用された。
※したがって、1992年度車と1993年度車の違いは、塗装と座席の数程度だったことになる。
1994年度以降は、ワンステップ大型車と中小型だけが導入され、日野製大型車はなし。無駄に豪華な感じがしなくもないこの座席は、2年間8台だけの採用に終わった。
現在もわずかに(1992年度と1993年度のうち1台ずつはよく見かけるけど、他は…?)残っている。
忘れてはいけないことに、市営バスの3代目小型バスも、日野製である。1993年度と1994年度にレインボーRBが、モデルチェンジがあって1995年度、1996年度にリエッセの計7台が導入された。
これらの座席は、布地は当時の中型・大型車と同じものだったが、形状は旧塗装時代と同じと思われる、低くて薄い背もたれのものだった。
肘掛けには座席と同じ柄の布地が張られていて、この点だけは無駄に豪華だったものの、他のバス会社でも同じ仕様の座席があるようなので、市営バスの特注ではなかった模様。
ちなみに、弘南バスに多数在籍するリエッセでは、普通乗用車みたいな立派な(背が高くてどっしりした)座席を採用している。
【2018年5月24日追記】リエッセの後継車種「ポンチョ」でも、市営バスの小型車とほぼ同じ、低い背もたれの座席が、取り付けられている。肘掛けは中型・大型と同じプラスチック。
(再掲)60号車車内
レインボー2台は、緑とエンジの格子柄。譲渡後に男鹿営業所に転属し、ローカル路線を走っているらしい。
リエッセ5台は、水色と濃いピンクの末期の布地に代わり、背もたれの取っ手が斜めに付いていた。現在も秋田市内で運用中。
以上が日野製限定の座席でした。
【2022年10月27日追記・日野製バスの座席のメーカーについて憶測。日野自動車はトヨタ系列。トヨタグループには「小糸製作所」があり、航空機や鉄道の座席を作っている。したがって、トヨタグループの縁で、同社製の座席を採用していた可能性があると思う。】
1986年度と1988~1991年度までの三菱製15台の座席。(1986年の208号車と1991年の267号車は記憶が定かではないのですが、おそらくこれ【2022年10月27日追記・267号車は確実にこのタイプの座席だった。自分でそう記録していました】)
230号車。他と比べると、質素?(右の座席が小さく見えるのは、設置位置がずれていて遠近感のため)これもフレームが黒い
背もたれは途中でくぼんで厚さが変わっているものの、高さは旧塗装時代並みに低い。肘掛けだけは妙に立派で、幅が広めでゴム風の材質。
色あせた頃の256号車
背もたれ上部は幅が狭くなっている。縫い目は2本。
2本の縫い目の効果かホールド感があって、座り心地はそれほど悪くはなかった。
このタイプの座席の車両で中央交通に譲渡されたものは、現在はすべて廃車になったらしく、もう座ることはできない。
このタイプの座席の車両で最悪だったのが、座席の間隔が極端に狭くきゅうくつだったこと。座席自体が直接の原因ではないのだが、このためにこの当時の三菱のバスはあまり好きになれなかった。(後日別記事にて)
交通局としてもこのことは問題として把握していたのだろうか、1992年度(この年は三菱の中型車を7台も購入)と1993年度には、いすゞや日産ディーゼルと同じ天龍工業製のものが設置され、座席の間隔も、そして居住性も他社並みになった。
前回の通り、1996年度が市営バスとしては最後の新車購入で、その前年の1995年度から、突如として座席の布地が変わった。
上記の通り、小型バスではレインボーからリエッセへモデルチェンジしたタイミングと重なったのは、偶然だろうか。
小型バス以外は少数の中型車だけの導入で、1995年度に三菱エアロミディ4台(130~133号車)、1996年度に日産ディーゼル製5台(134~138号車)の計9台。
どちらも1994年度までなら天龍工業製の分厚い座席が設置されるはずだが、そうはならなかった。中型車では布地とともに形状も新しくなったのだ。
131号車
座布団は1994年までと同じようだが、背もたれがかなり薄くなった。昔のタイプに近い薄さ。
高さは同じくらいで、途中で角度がついて縫い目もある。
肘掛けは2面タイプになり、表面にラインが入っていて、1992・1993年度日野大型車のものとよく似ている。
座席を支えるフレームは、以前同様、三菱では黒く、日産ディーゼルは白。
おそらく、これも天龍工業製で、今製造されているいすゞの車両で標準で付いている座席と同じもの(肘掛けは別タイプ)だと思う。
また、1986年以降、タイプを問わず(小型車は別)一貫して採用されていた、2人掛け席の背もたれが独立していたものも、旧塗装時代と同じ、2人分が一体化したものに戻った。
(前回の再掲)色は違っているがくっついている
総じて、グレードダウンしたととらえられる変化だった。
しかし、座り心地はさほど悪くなく、背もたれが高い分だけ昔よりいいし、薄い分ヘタりも出にくいようだ。この程度が、市内完結の路線バスの身の丈に合った座席なのかもしれない。
最終導入となった1996年度の日産ディーゼル製では、さらに新たな座席が登場した。
中ドアより前にあった2席が、窓を背にして座る横向きの3人掛けに変更された。※1995年度の三菱の車両では、ここは従来通りの前向き1人掛け2席
中ドア-2人掛け-肘掛け・ポール-1人掛け-前向き1人掛け-前ドアの配置
最近のバスでは、これと同じような部分的な横向き座席がよく見られるが、当時としては全国的にも珍しいほうだったかもしれない。
以前から、ここはタイヤスペースや中ドアの戸袋の関係で、やや座りにくい座席だったし、横向きにすれば1人多く座れるし、足の悪い人でもスムーズに使えるかもしれない。その辺の配慮だったのだろう。
今は、ここを優先席とするバス会社が多いが、市営バスでは特にそうではなかった(この頃は「善意の席」の制度も消滅していた?)。
座席の布地は、2人掛けの通路側と同じ、濃いピンク(赤)系統の柄。肘掛けは、中ドア側がパイプに布地を巻いただけで、他は皮張り風なのがおもしろい。降車ボタンの取り付け方も、当時としては目新しかった。
座り心地は座布団は他の席と変わらないようだが、背もたれが硬くて垂直に近くて良くない。(右側の1人掛けは窓の位置の関係でとても分厚い背もたれなのだが、左側2人掛けと座り心地の違いはない)
以上、座席の形状をまとめてみました。
あとは車両の中での座席の「配置」についても、少々取り上げたいと思っています。
※前回の記事を先にお読みいただいたほうが、多少は分かりやすいかと思います。
※各タイプとも、最後列の5人掛けは形状が異なるため、それ以外の席についてまとめます。
前回も触れたように、秋田市交通局が1986年以降に導入した車両の座席は、グレードが高いものだった。
「ハイバックシート」と呼ばれる背もたれが高いものであり、体を包み込むような整形が施された「バケットシート」に近いような構造でもあった。(この辺りの定義はあいまいなんでしょう)
リクライニングしてもおかしくなさそうな見かけもののもあったが、リクライニングはしない。
また、旧塗装当時の2人掛け席は、1人掛けの幅を広げただけの構造だったが、新タイプでは背もたれが1人分ずつ独立したものが基本になった(一部例外あり。後述)。座布団は色が違うだけでくっついたまま。
といっても、全部の車両が同じ形状の座席ではなく、座り心地も違った。
これは、車両メーカーの違い(結果的には座席メーカーの違いなわけだが)や製造年によるもの。
※以下、車両の導入は「年度」であり「年式」ではありません。
※背もたれの高さの比較には、窓との位置関係が参考になりますが、車両メーカーや車種によって窓の高さやサイズが異なるため、単純に比較できるわけでもありません。
まずはこれ。
(前回の再掲)293号車
(前回の再掲)277号車の2人掛け。背もたれはそれぞれ独立し、座布団はくっついている
形状ではこのタイプが最多。
1986年度と1988~1994年度までに導入されたいすゞ製と日産ディーゼル製、1992、1993年度の三菱製の計56台で採用された。1995年以降、三菱と日産ディーゼルでは後述の別タイプに変更されたが、いすゞは1994年を最後に新車導入がなかったので市営バスのいすゞ製路線バスは27台すべてがこのタイプだったことになる。
布地は、格子柄とワンステップ用チェックの2タイプが存在。
全国的には現在でも、少し豪華な路線バス(公営事業者とか観光地路線・中距離路線とか)ではたまに見かけるタイプ。
【2020年4月4日追記】2019年頃の時点で、箱根登山バスの新しそうな三菱エアロスターで、同型と思われる座席が使われていた。いすゞ・日野は、モデルチェンジにより標準仕様での座席の形状自体が変わってしまったが、三菱ではまだ現役のようだ。
従来と比べると座布団も厚くなっているが、背もたれが高くて厚いのが一目瞭然。まさに「ハイバックシート」。以下で紹介する他のどのタイプよりも分厚く感じられる。
背もたれは肩までカバーし、若干カーブを描いている。上部の中央付近には横方向に縫い目がある。
座り心地は、ふかふかして、背中を均一にホールドする感じ。他のタイプよりも経年でヘタりやすいようで、時が経つと座り心地がスカスカしたりシルエットも若干柔らかく(?)見えてしまうような気がしなくもない。
1992年度の日産ディーゼル製(276~278号車のどれか)
肘掛けは固いプラスチック製。
背もたれの裏側にある取っ手(1つ後ろの席の人がつかむための)が、他の多くのタイプでは金属部分に設置されているのに対し、これは布地の部分にあるのが特徴的。そのためか、経年でネジが取れかけていることが、他より多いような印象もある。
座席を支えて床や壁に固定する金属フレームは、いすゞと日産ディーゼルでは白、三菱製では黒と異なる。
このタイプの座席で特筆すべきは、1993、1994年度のワンステップ車の2人掛け席。
1994年度のいすゞワンステップ(126~129号車のどれか)。1人掛けは布地が違うだけ
1993年度に導入された日産ディーゼル「JP」シリーズは、初のワンステップバスとして注目を浴びた。
マスコミでも報道され、乗降のスムーズさとともに、2人掛け席のことが取り上げられていた。
その2人掛け席
隣り合う座席が、背もたれ1つ分くらい前後にずれて設置されている。(通路側の席が後方に寄っている)
他のタイプでは、座布団部分は2人分が一体化しているが、こちらでは座布団も別々というか、1人掛け席と同じ椅子(おそらく幅はやや狭いけど)をずらして並べている形なのだろう。
1993年12月10日付広報あきた1300号では、「隣同士に座ったお客さんの肩やひじかふれないよう、座席を前後に少しずらして配置するなどの心配りもなされています。 」と紹介している。
ほかにも通路側に着席する人がいる状態で、窓側の席から通路に出入りする時も、いくぶんスムーズになる目的があったと思われる。
翌1994年度のいすゞ製ワンステップ車でも、同じものが設置された。
市営バスの大型車やワンステップ車の導入はこれっきりだったし、ツーステップの中型車には波及せずに終わった。
Wikipediaの「日本のバスの座席」の項目を見ると「オフセットシート」というのが説明されていて、それが、このずれた2人掛け席のことだった。
日産ディーゼルJPシリーズというのは、福岡の西鉄の廃止鉄道路線代替バスのために開発されたバスが元祖。(それを一般商品化した際、真っ先に買ったのが秋田市交通局だったとか)
その時にオフセットシートが考案されてJPシリーズで商品化され、さらに他のメーカーやバス会社にも波及したようだ。(となると、特に秋田市交通局が要望してオプションで採用されたわけでもなさそうだ)
しかし、現在では、オフセットシートを採用しているバス会社はあまりないようだ。
心理的に窓側席に入りにくくなり、窓側に座る客が減るという弊害があるためだそうだ。
以上、長くなったけど、このタイプの座席は製造元が判明している。
航空機、鉄道、バスの座席で高いシェアを誇る、富山市にある座席メーカー「天龍工業」の製品。おそらく「MS100」というシリーズの1種かと思われる。
同社製のバス用座席には、円形の「テンリュー工業」または横長の「天龍工業株式会社」というシールが貼られていることがあり、中央交通の座席も(形状は違うが)同社製が多いようだ。
市営バスでは最多だったこの座席だが、譲渡された中央交通で今なお使われている車両がいくつかあり、今でもヘタったこの座席に座ることはできる。でも、先は長くなさそう。
次に、説明の都合上、少数派の1つを先に紹介。
(前回の再掲)1986年導入日野ブルーリボン204号車
1986年度導入の日野ブルーリボン202~204号車の3台にだけ設置されていたタイプ。
座り心地などは記憶にないが、背もたれは低めで、角度が大きいようだ。
肘掛けが複雑な形状だが、これは前年度の日野レインボーで設置されていたものと同じ(パイプの色は違う)。
(前年度の再掲)192号車
だから、日野製車両で優先的に使われていた座席メーカーの製品かもしれない。
他の日野製車両では、こんな座席。
板張りの床が懐かしい1989年度導入226号車(板張り床は1989年度まで)
日野製中型車レインボーだけに設置されていたタイプ。1988~1991年、1994年導入の21台。
交通局では、日野製中型車は東営業所に集中配置していた(中央営業所にはわずかだけ配置)。そのため、東営業所担当ダイヤをよく利用していた人にはなじみ深い席である一方、大型車や中央営業所の中型車が走る路線・ダイヤだけを利用していた人には、あまり縁がない席だったはず。
天龍工業製と比べると背もたれが薄くてより高く、スリムな印象。(写真は晩年の白いカバーが被せられた後なので、やや分かりづらいですが)
窓の部分に背もたれが飛び出ているのがはっきりと分かり、首や頭までもカバーする。
背もたれは途中で厚さが変わる。肘掛けは固いゴム風でカギ型
座り心地は天龍工業よりは硬めで、悪くなかった。
秋田市営バスでは、日野製でも大型車は別のタイプの座席(前項と次項で紹介)が設置されていたが、京都市営バスの大型車ではこれが使われていたので、別に中型バス専用の座席というわけではないのだろう。
現在は1991年度の車両の一部が残っている。(1994年度車はオートマが扱いづらかったのか、譲渡後に早期廃車)
1992年度の日野製・ワンロマ仕様285号車
1992年度に、1986年以来となる日野製大型車ブルーリボンが導入された。「秋田八丈」塗装の貸切兼用(ワンロマ)車が4台(283~286号車)。
貸切兼用という性格からか、ひときわ豪華な座席が採用された。
一見すると天龍工業製にどことなく似ている(後ろの取っ手の取付位置とか)が、同一ではない。
背もたれは上部が厚く、両端が前にややせり出していて、ヘッドレストのような趣き。座ると、肩の辺りが包まれるような感じ。座り心地がとても良いというわけでもなく、他のタイプ並みか。
2席だけある1人掛け席は少し幅が広いか
肘掛けは2辺をカバーするカギ型で、プラスチックの表面に数本のライン(浅い溝)が入る。他の2辺はシート生地で覆われている。
ワンロマだから特別な席なのかと思いがちだが、翌1993年度に導入された路線専用仕様の4台(294~297号車)でも、同じタイプが採用された。
※したがって、1992年度車と1993年度車の違いは、塗装と座席の数程度だったことになる。
1994年度以降は、ワンステップ大型車と中小型だけが導入され、日野製大型車はなし。無駄に豪華な感じがしなくもないこの座席は、2年間8台だけの採用に終わった。
現在もわずかに(1992年度と1993年度のうち1台ずつはよく見かけるけど、他は…?)残っている。
忘れてはいけないことに、市営バスの3代目小型バスも、日野製である。1993年度と1994年度にレインボーRBが、モデルチェンジがあって1995年度、1996年度にリエッセの計7台が導入された。
これらの座席は、布地は当時の中型・大型車と同じものだったが、形状は旧塗装時代と同じと思われる、低くて薄い背もたれのものだった。
肘掛けには座席と同じ柄の布地が張られていて、この点だけは無駄に豪華だったものの、他のバス会社でも同じ仕様の座席があるようなので、市営バスの特注ではなかった模様。
ちなみに、弘南バスに多数在籍するリエッセでは、普通乗用車みたいな立派な(背が高くてどっしりした)座席を採用している。
【2018年5月24日追記】リエッセの後継車種「ポンチョ」でも、市営バスの小型車とほぼ同じ、低い背もたれの座席が、取り付けられている。肘掛けは中型・大型と同じプラスチック。
(再掲)60号車車内
レインボー2台は、緑とエンジの格子柄。譲渡後に男鹿営業所に転属し、ローカル路線を走っているらしい。
リエッセ5台は、水色と濃いピンクの末期の布地に代わり、背もたれの取っ手が斜めに付いていた。現在も秋田市内で運用中。
以上が日野製限定の座席でした。
【2022年10月27日追記・日野製バスの座席のメーカーについて憶測。日野自動車はトヨタ系列。トヨタグループには「小糸製作所」があり、航空機や鉄道の座席を作っている。したがって、トヨタグループの縁で、同社製の座席を採用していた可能性があると思う。】
1986年度と1988~1991年度までの三菱製15台の座席。(1986年の208号車と1991年の267号車は記憶が定かではないのですが、おそらくこれ【2022年10月27日追記・267号車は確実にこのタイプの座席だった。自分でそう記録していました】)
230号車。他と比べると、質素?(右の座席が小さく見えるのは、設置位置がずれていて遠近感のため)これもフレームが黒い
背もたれは途中でくぼんで厚さが変わっているものの、高さは旧塗装時代並みに低い。肘掛けだけは妙に立派で、幅が広めでゴム風の材質。
色あせた頃の256号車
背もたれ上部は幅が狭くなっている。縫い目は2本。
2本の縫い目の効果かホールド感があって、座り心地はそれほど悪くはなかった。
このタイプの座席の車両で中央交通に譲渡されたものは、現在はすべて廃車になったらしく、もう座ることはできない。
このタイプの座席の車両で最悪だったのが、座席の間隔が極端に狭くきゅうくつだったこと。座席自体が直接の原因ではないのだが、このためにこの当時の三菱のバスはあまり好きになれなかった。(後日別記事にて)
交通局としてもこのことは問題として把握していたのだろうか、1992年度(この年は三菱の中型車を7台も購入)と1993年度には、いすゞや日産ディーゼルと同じ天龍工業製のものが設置され、座席の間隔も、そして居住性も他社並みになった。
前回の通り、1996年度が市営バスとしては最後の新車購入で、その前年の1995年度から、突如として座席の布地が変わった。
上記の通り、小型バスではレインボーからリエッセへモデルチェンジしたタイミングと重なったのは、偶然だろうか。
小型バス以外は少数の中型車だけの導入で、1995年度に三菱エアロミディ4台(130~133号車)、1996年度に日産ディーゼル製5台(134~138号車)の計9台。
どちらも1994年度までなら天龍工業製の分厚い座席が設置されるはずだが、そうはならなかった。中型車では布地とともに形状も新しくなったのだ。
131号車
座布団は1994年までと同じようだが、背もたれがかなり薄くなった。昔のタイプに近い薄さ。
高さは同じくらいで、途中で角度がついて縫い目もある。
肘掛けは2面タイプになり、表面にラインが入っていて、1992・1993年度日野大型車のものとよく似ている。
座席を支えるフレームは、以前同様、三菱では黒く、日産ディーゼルは白。
おそらく、これも天龍工業製で、今製造されているいすゞの車両で標準で付いている座席と同じもの(肘掛けは別タイプ)だと思う。
また、1986年以降、タイプを問わず(小型車は別)一貫して採用されていた、2人掛け席の背もたれが独立していたものも、旧塗装時代と同じ、2人分が一体化したものに戻った。
(前回の再掲)色は違っているがくっついている
総じて、グレードダウンしたととらえられる変化だった。
しかし、座り心地はさほど悪くなく、背もたれが高い分だけ昔よりいいし、薄い分ヘタりも出にくいようだ。この程度が、市内完結の路線バスの身の丈に合った座席なのかもしれない。
最終導入となった1996年度の日産ディーゼル製では、さらに新たな座席が登場した。
中ドアより前にあった2席が、窓を背にして座る横向きの3人掛けに変更された。※1995年度の三菱の車両では、ここは従来通りの前向き1人掛け2席
中ドア-2人掛け-肘掛け・ポール-1人掛け-前向き1人掛け-前ドアの配置
最近のバスでは、これと同じような部分的な横向き座席がよく見られるが、当時としては全国的にも珍しいほうだったかもしれない。
以前から、ここはタイヤスペースや中ドアの戸袋の関係で、やや座りにくい座席だったし、横向きにすれば1人多く座れるし、足の悪い人でもスムーズに使えるかもしれない。その辺の配慮だったのだろう。
今は、ここを優先席とするバス会社が多いが、市営バスでは特にそうではなかった(この頃は「善意の席」の制度も消滅していた?)。
座席の布地は、2人掛けの通路側と同じ、濃いピンク(赤)系統の柄。肘掛けは、中ドア側がパイプに布地を巻いただけで、他は皮張り風なのがおもしろい。降車ボタンの取り付け方も、当時としては目新しかった。
座り心地は座布団は他の席と変わらないようだが、背もたれが硬くて垂直に近くて良くない。(右側の1人掛けは窓の位置の関係でとても分厚い背もたれなのだが、左側2人掛けと座り心地の違いはない)
以上、座席の形状をまとめてみました。
あとは車両の中での座席の「配置」についても、少々取り上げたいと思っています。