「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

ヌエボ・クスカトラン市の現場で考える

2011-01-20 23:04:20 | 中米防災協力(プロジェクトBOSAI)
前日とは打って変わり、朝から昼過ぎまでは現場へ。

首都サンサルバドルから30分ほど車で行った、
ヌエボ・クスカトラン市をチームで訪問、現場を見させてもらう。
エルサルバドルは一義的な担当ではないが、拠点を置く国であり、
何より、「現場に通ってナンボ」の精神を忘れてはなるまい。

四国ほどしかない国内に300近くあるMunicipal(ムニシパル)。
市と呼ぶにはいささか小さい感はあるが、習わしにしたがって市と呼ぼう。
プロジェクトが展開されている2県5市の一つだが、
現場に出るのは今回が初めて。

市役所と言うには小さすぎるオフィスで、市長と市議F氏も同席の下、
内務省市民防災局の連絡員として市に配属されたB女史によるブリーフィング。
最後はお決まりの(!)「これが足りないのです!」リストの紹介。

「プロジェクトBOSAIは小切手帳ではないぞ!」とは思いつつも、
そのリスト&見積書も受け取るのも、国際援助というものか……。

市長には、プロジェクトのジャンバーと帽子を提供。
これも、プロジェクトの活動の潤滑油ということ、なのであろう。
いろいろと思うところはあるが、何せこちらはまだ4ヶ月。
黙って成り行きを見ていた。

その後、3か所のコミュニティを案内される。

首都から車で30分余と聞けば、
その首都に通う者が住む近郊住宅地、というイメージがあるだろう。
確かにそういう場所もない訳ではない、が、
案内してもらった3つのコミュニティは、そのいずれも、
「こんな場所に家を構えるのかよ……」というところばかり。

5万図から見る限りは、マクロ的に見れば、
地形条件がどうしようもなく厳しい、というほどの場所ではない。
全体的に山地がちなエルサルバドルゆえ、この程度の傾斜なら、
海岸沿いの平地部分を除けば、全国いたるどころでぶつかるようなもの。

だが、細かいところではがけ地は幾らもあり、かつ、そのがけ地に、
低所得者層の住宅が、それこそへばりつくように建っている。
小手先の避難論議も出来ない訳ではないが、
立地そのものに問題があることは、誰の目にも明らか。

日本の無償資金協力には「防災・災害復興支援無償」のスキームはあるが、
幸か不幸か、エルサルバドルはその適応基準からは「卒業」しており、
この制度を使うことは出来ない。

とすれば……。

中長期的に見れば、防災移転しか選択肢はあり得ないということに、
住民が気付いていない訳はないだろう。
とはいえ、具体的に何をすればよいかを問うた時、
方法論を持っているか、実行できるかという点は、甚だ疑わしい。

その点に、我々の存在意義がある訳だが、
どこの世界でも「言うや易し、行うは難し」。
だが、それでしっぽを巻いて逃げてしまっては、
何のためにここにいるのか、という話になるのみ。

近くの学校も訪問させてもらう。
何人かの先生は、BOSAIに真剣に取り組んでくれているとのこと。
何よりに思うし、彼ら彼女らに使ってもらえる教材を用意してナンボという話。

やるべきことはともかく多いが、その分、やりがいもある話。
がんばらねば、の一つであった。

帰りがけ、スタッフ8名中7名がそろっていたということもあり、
中華レストラン「Royal」に寄り、専門家3人がスタッフにごちそう。

車中での専門家3人の議論を思い出す。

「みえる化からカイゼンへ」の流れが、
しっかりとループとなっているコミュニティはどのくらいあるのだろうか。

定期的に「みえる化」、つまりはDIGやタウンウォッチを行い、
問題点を洗い出して共通認識を作っておいた上で、
「カイゼン」つまり被害軽減に向けての具体的な対策を行い、
さらに「みえる化」してさらなる問題点を洗い出し……。

「組織作り」「リスクマップ作り」「計画作り」「避難訓練」という、
一連の流れはプロジェクトの計画に明記されている。
だが、ちょっとでもBOSAIをかじれば誰でもわかることだが、
同じ「リスクマップ作り」一つをとっても、中身のあるものとないものがある。

いかにして、中身あるものを作るか。そのノウハウを移転させるか。
やはり、課題は大きい。

ループを作りやすいのは風水害。
しかし、地震や津波、火山噴火といった低頻度のものには、
また別の仕掛けが必要なのかもしれない。

あのトヨタは、「なぜ?」を5回繰り返せ、と社員を教育していると聞く。
それに比べると、「旅の坊主」の考え方の、まだまだ浅いこと……。

帰宅後、スカイプにて大学のN事務局長と話をする。
任期延長が認められる可能性を聞いてみるも、
悲しいかな、そこは地方のオーナー企業、
「そういう話を持ち出すだけで、裏切り者扱いされるよ」との
ご忠告をいただく。

年男の今年、
これから先の人生をどう組み立てていくか、
思案のしどころ、ということ、らしい。



                             (1月25日 アップ)