ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

六人の僧と妖怪

2013-04-08 08:19:52 | 日記


 むかし、布教と修行のため、托鉢をしながら全国を行脚している六人のお坊さんがい

ました。ある村の入り口まで来たとき、『妖怪の出没につき、よそ者は入るべからず』

と書かれた立て看板を見つけました。六人のお坊さんが実情を知るために村へ入ると、

人っ子ひとり見当たらず、シ~ンと静まり返っていました。

一軒、一軒に声を掛けましたが誰も出てきません。途方にくれている六人の前に、ひと

りの男が困惑した顔つきをして現れました。


村長 :私は村長です。村の入口に置いた立札を見なかったのですか?お坊様たちに

     災難が降りかかってはいけないので、妖怪が来る前に、この村を立ち去って

     ください。

一の僧:私たちは皆様の苦悩を救済するために行脚しています。お役に立ちたいので、

     どうか私たちの身なりだけで判断せずに、事情を話していただけませんか。

村長 :分かりました。そこまで言われるならお話します。この村にまもなく妖怪が

     やってきます。今日は子供を生贄として差し出す約束の日なのですが、子

     供は村の宝です。差し出すわけには行きません。村人全員を村外に退避さ

     せました。妖怪は子供を差し出さねば村を破壊すると言っています。

     そこで子供の身代わりに私が生贄になるつもりで、ここに残ったのです。

     妖怪には目が三つあって、体は見上げるほど大きく、口は子供を一口で飲

     み込むぐらいの大きさです。そして手も大きく、お坊様たちなら片手で三人

     ぐらい一度に掴んでしまうでしょう。恐ろしい妖怪です。

二の僧:その妖怪はいつごろ出てくるのですか?

村長 :陽が沈みかける頃にやってきます。いま太陽が西の高いところにありますが、

     あそこに見える大杉のてっぺんあたりまで沈むと、間もなくやって来ます。

三の僧:村長さん、仔細は分かりました。私たちが妖怪を退治しましょう。あなたには

     あとで頼みたいことがあるかもしれません。それまでは家の中で休んでいて

     ください。

四の僧:さて皆さん、何かいい知恵はありませんか?時間があまりないようですよ。

五の僧:妖怪は自分の力を過信しているから、かなり油断しているのではないでしょう

     か。そこがつけ目ですね。

六の僧:おそらく天上界の嫌われ者が悪さをしにやってきたのでしょう。二度と人間界

     に降りて来ないように、少し痛い目に合わせる必要があるかもしれませんな。


 それから暫く、お坊さんたちは相談していましたが、なんとか結論が出たようです。

そして、村長を呼び戻して何やら指示を出したところ、村長は勇んで走り去りました。


一の僧:私が子供に変装して、広場の木に縛られたふりをして立ちます。妖怪は生贄が

     子供だと思い、安心してかがみこんで私をつかもうとするだろうから、その

     瞬間にゆるく結んでおいた縄を解いて、裏山に逃げます。

二の僧:妖怪は生贄を追いかけてくる。そこがつけ目ですね。

三の僧:村長の話では、あの裏山は石灰岩でできているので大変もろく、鍾乳洞の穴が

     あちらこちらにあるので子供たちには入山を禁止しているそうだ。

四の僧:妖怪の体重ならば、自分の重さで穴が開いて鍾乳洞に落ちるかもしれないね。

五の僧:問題は三つの目だ。焦点をぼやかすためには、二つの目を使えないようにしな

     いといけないな。だが、逃げた生贄を追いかけさせるために、ひとつだけは

     目を残すことにしよう。

六の僧:弓で狙うのは不確実だから、槍で突くことにしよう。私と二の僧がむしろを

     かぶって生贄役の後ろに隠れ、妖怪が油断して生贄をつかもうとかがみこん

     だスキに二つの目を同時に突くんだ。大きな眼だというから確実に突けるぞ。

     突いた後は三人で裏山に逃げるんだ。必ず怒って追いかけてくるだろうから、

     勝負はそこからだ。


 こうして準備を整え、妖怪の出現を待ちました。太陽が大杉のてっぺんにかかった時、

妖怪が現れました。そして、のっし、のっし、と村の広場に近づき、木に縛られた子供

を見つけるとボギャ~!と一声叫んでかがみ込み、手を伸ばしました。

その時、むしろの中から二本の槍が飛び出し、確実に二つの目の玉を突いたのです。

妖怪があまりの痛さにボギャ~と泣き叫んでいる間に、三人の僧は全速力で走り出しま

した。妖怪は三人を追いかけますが、一つ目では焦点が合わないので、なかなか捕ま

えることができません。すると裏山から大声が聞こえて、山に登っていく三人の姿が

見えました。実は別の三人の僧なのですが、妖怪には判断できません。

超人的な速さで妖怪は山の三人に追いつきましたが、捕まえようとしたまさにその時、

妖怪の重さで足元に大きな穴があき、洞窟に転げ落ちました。その瞬間を待っていた

村長と村人が火のついた松明を一斉に洞窟へ投げ入れました。

洞窟の底でボギャ~と大きな声が聞こえましたが、その後は全く静かになりました。

村人は「エイエイオー!」と勝どきをあげて喜びを表しました。


村長 :お坊様がたのお陰で村に平和が戻りました。何とお礼を申し上げたらよいので

     しょうか。

一の僧:妖怪は洞窟の穴を伝って逃げたかもしれないが、もう人間界には来ないで

     しょう。

二の僧:これからも、村の子供たちが健やかに育ち、村の平和が続くことを願って、

     私たち六人がそれぞれ一体ずつ『わらべ地蔵』を作って置いていくことに

     しましょう。


 六人の僧は祈りを込めて六体の『わらべ地蔵』を作り、村を立ち去っていきました。

村人は僧たちの祈りがこもった六地蔵を村の入口に並べて、その前を通るたびに手を

合わせ、感謝しました。今もこの六体の『わらべ地蔵』は当時と変わらぬ姿で、村人

たちを見守っています。

お地蔵様は子供たちが野の花を摘んで、お供えしてくれるのがとても嬉しいようです。

メデタシ、メデタシ。

おしまい。
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篠笛伝説

2013-04-04 07:55:57 | 日記



 昔むか~しの話です。篠笛作りの名人で、上手な吹き手でもある与助という若者が、

都から遠く離れた山里に住んでいました。与助は今年も良質な篠竹を探しに、雪の残る

山に入りました。良い篠竹が生える山は藪だらけなので、まむし、スズメバチなどに出

くわすことがないこの時期が一番安全なのです。


与助:さて、曲がりがなくて質の良い竹はどこだ。コンコン、コンコン。


節の間隔が40cm以上、内径が12mm位で、真っ直ぐなものが良いとされる篠竹は、

たくさん集めても使えるのは1割程度。山の中では叩いたときの音だけが頼りです。

使えそうな篠竹を見つけると目の高さより少し下で切り取り、長いまま持ち帰ります。


与助:今年は良い竹が見つかったぞ。これなら音色の良い篠笛ができそうだ。

    さあ、竹はしっかり束ねたし、背負って帰るとしよう。どっこいしょ。

    あれ、動かないぞ。やけに重いな。どうしたんだろう?


 与助が振り返って見ると、一匹の熊が竹の束を手で押さえています。早々と冬眠から

目覚めたようです。そして、こちらを睨んで唸り声を上げ、いまにも飛びかかろうとし

ていました。

与助は慌てることもなく、懐から愛用の篠笛を取り出してゆっくりと吹き始めました。


♪ヒャラーリ ヒャラリコ ヒャリーコ ヒャラレロ 
         ヒャラーリ ヒャラリコ ヒャリーコ ヒャラレロ  ♪


 すると、不思議なことに熊はその場にうずくまり、篠笛の音色に聞きほれて、そのまま

スヤスヤと眠り込んでしまいました。熊が寝ている間に、与助は篠笛を吹き鳴らしながら

里へ戻って行きました。この噂は瞬く間に広まり、与助は熊を眠らせる笛の名手として都

にまで知られるようになりました。

その頃、都では乱暴な赤鬼と青鬼が出没して人々を困らせていました。誰もが怖がって

退治しようとしません。ある日、熊を眠らせた笛の名手がいるとの噂を聞いた領主は山

里から与助を呼び寄せました。


領主:与助よ、お前の笛の音で赤鬼と青鬼を退治してもらえぬか。それができたらお前

    の望みを何でも叶えてやろう。力を貸してくれ。

与助:出来るかどうかわかりませんが、都の人が困っているのを見過ごすことはできま

    せん。赤鬼と青鬼が出没する場所に案内してください。

領主:おお、引き受けてくれるか。早速、家来に案内させよう。


 こうして、与助は赤鬼と青鬼が出没する辻を見下ろす大きな松の枝に腰掛け、笛を構

えて待ちました。そこへ赤鬼と青鬼が鈴のついた鉄の棒で地面を叩きながらやってきま

した。

ジャランジャランと響く音に怯えて、人々は家の奥で息をひそめて震えていました。


赤鬼:今日はどの家で飯を食おうかのう。おっ、決めた。あの屋敷にしよう

青鬼:うん、あの家には美しい娘がいると聞いておる。その娘に酌をさせてうまい酒

    を飲もうではないか。


 赤鬼と青鬼が鉄の棒で屋敷の門を壊そうとした途端、後ろから「やめろ!」という声

が聞こえました。赤鬼と青鬼が振り向くと、大きな松の枝に篠笛を構えた若者が腰掛け

ています。


赤鬼:若造、わしらに命令するとは良い度胸だ。わしは命令されることが大嫌いじゃ。

    この鉄の棒で松の枝をへし折ってお前を叩き落としてやる。

青鬼:わしらの邪魔をしたな。お前も命知らずじゃのう。叩き潰してやるわ。

与助:お前たちが悪さをするのも今日が最後だ。二度と都に来ることなどできないと

    思え。


与助はゆっくりと篠笛を吹き始めました。

♪ヒャラーリ ヒャラリコ ヒャリーコ ヒャラレロ 
         ヒャラーリ ヒャラリコ ヒャリーコ ヒャラレロ  ♪


 篠笛の音色を聞いたとたん、赤鬼と青鬼はまぶたがトロンと落ち、腰が砕けて座り込

み、しんみりと聴き始めました。そして道の真ん中で大の字になって寝てしまいました。

与助の指示で耳に栓をして屋敷の影で様子を見ていた家来たちはここぞとばかりに、

赤鬼と青鬼を縛り上げました。そして大八車に乗せて、そのまま船まで運び、沖合の無

人島に連れて行きました。無人島を離れるまで、与助は篠笛を吹き続けたのです。

この島は鬼ヶ島と名付けられました。こうして都には以前の平穏な暮らしが戻ってきた

のです。


領主:与助、お手柄じゃったな。望みがあれば申してみよ。

与助:それでは、申し上げます。私の大好きな篠笛をお祭りの時に使っていただきたい

    のです。厄災を遠ざける篠笛の音は都に平穏をもたらしてくれる事でしょう。

    この音色を都の人々に親しんでもらえるなら、これほど嬉しいことはありませ

    ん。


篠笛がお祭りに欠かせなくなった背景には、こんなお話があったとか。

ガッテン、ガッテン。
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春風 吹く日に

2013-04-01 08:00:39 | 日記


ぽっかり 浮雲 どこ行くの?


私にゃ まったく わからない

吹いてる風に 聞いてごらん


風さん 風さん 教えてよ

あの雲 どこまで 連れてくの?


私にだって わからない

行き先なんて 知るものか


何だか 冷たい返事だね

今日は ご機嫌ななめかな?


いやいや そういうわけじゃない

どっちに吹くかと 聞かれても

私に 意志などありゃしない 

何かに 押されているだけさ


気ままな風だと 人は言う

そよ風 追い風 好かれても

強風 突風 嫌われる

私は いったい どうすりゃいいの


風さん 風さん わかったよ

気まぐれなのは あなたじゃなくて

あなたを動かす 見えぬもの


だったら なんにも気にせずに

いつものように 吹いててね
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