動物村の仲良し3人組の活躍で、今年の秋祭りは本物の「天狗の鼻」が奉納されて、近年に
はない盛り上りとなりました。3人組から「天狗の鼻」を見つけたいきさつを聞いた長老は、
若いころカラス天狗の指導で長老になるための修業をした体験談を語り始めました。
長老 :お前たちが生まれるず~っと昔の話じゃ。ワシは若い頃、富士山という日本一高い
山の麓にある森に棲んでいた。そこには多くの人間たちが参拝に来る「北口本宮富
士浅間神社」という大きな神社があって、そこへ参拝に来る人間の観察をしていた
のじゃ。ある日のこと、ワシに「カラス天狗」との出会いという大きな転機が訪れ
た。こうして長老としてここにおるのも、その森でカラス天狗と共に過ごした修業
時代があったからなのじゃよ。出会いは全くの偶然じゃったな~。
ミミ :長老にも若い時があったの?信じられない。それに長老になるための修業って何?
コン太:カラス天狗って、僕たちの知っている天狗さんとは違うの?
ポン吉:カラスと言うから、鳥の姿をしているのだろうな?空を飛べるのかな?
長老 :当然ワシにもお前たちのような若い頃があったのじゃぞ。信じてもらえんと思うが
な。ハッ、ハッ、ハッ! それではまずカラス天狗について説明をしよう。その方
が話の理解が早いかもしれんからな。
ミミ :信じられないけど信じるわ。お話の続きを聞かせてください。
長老 :天狗とは山の神様の使いなんじゃ。天狗には大天狗と小天狗がいて、お前たちがこ
の動物村で助けたのが大天狗様じゃ。ワシが若い時に森で出会ったのは小天狗で、
人間たちは「カラス天狗」と呼んでいた。カラスと名がついているが、カラスのよ
うに口は突き出ていない。むしろ鷲のくちばしに似ているし、背中には小さな羽が
生えていた。姿や動作は人間と同じで山伏の服装をしている。そして錫杖を持って
いる。ここに絵を書いておいたから、見れば想像できるだろう。
コン太:初めて見るけど、天狗さんとは全く違う顔だね。すごく怖い顔をしている。
3人組は長老の書いた「カラス天狗」の絵を食い入るように見ながら、初めて聞くカラス天
狗との出会いと長老の修行時代の話に、体を乗り出すように聞き入っています。
長老 :観察を終えたワシは木の上で昼寝をしていた。その時じゃった。ドン、と音がして
木が大きく揺れた。地震か、又は何か大きなものがぶつかったのだと思って下を見
たら、見慣れぬ人間のような者が木を駆け上がってきた。手を使わずにじゃぞ!
そんなことはワシにはできないし、駆け上がる様子が信じられなかった。これは危
険だと思ってその場から逃げようとしたが、急に揺れが止まった。下を見るとその
見慣れぬ者が地面の上に立っておった。どうやら途中で飛び降りたらしい。ワシに
は気付かなかったようなので、身を隠して暫く様子を見ることにしたのじゃ。その
時じゃった。
カラス天狗:木の上の若者よ。お前に頼みたいことがあるのだ。ここへ降りてきてくれ。私
はこの神社の神様を警護する役割を担っておる者でカラス天狗と申す。この森
で心身の鍛錬をしている。決してお前に危害を与えるものではないから安心し
なさい。
長老 :ワシはこの相手では、逃げてもすぐに捕まることは分かっていたから、恐る恐る、
言われるままに地上に降りたのじゃ。そして声をかけてきた者の顔を見て「ギャー」
と叫んでしまった。初めて見るその顔はこの絵のように鷲の口ばしのような鼻先を
もち、耳は大きくとんがっていて、背中に小さな羽を付け、杖を立ててワシを見下
ろしていたのじゃ。初めて見る顔で怖かった。
カラス天狗:私の顔が怖いか?何も恐れることはない、見慣れたら愛嬌のあるいい顔だと思
えるようになるさ。カラス天狗の仲間はみんなこんな顔をしているんじゃよ。
長老 :わかりました。あなたを信じます。ところで頼みとはどんなことなのですか。
カラス天狗:ここに巻物がある。これを麓にある「北口本宮富士浅間神社」におられる大天
狗様に渡して欲しいのじゃ。この巻物は私が修行を終えたことを記したもので、私
が大天狗になるために必要なものなのだ。
長老 :そんな大切なものはご自分で届けたほうがいいと思いますが?
カラス天狗:確かに定められた修行は無事に成し遂げたが、自分ではまだまだ修行が足りな
いと思っているのだ。これから直ぐに自分が納得するまで更に修行を続けたい。
大天狗様にはそのように伝えて欲しい。頼むぞ。
長老 :分かりましたこの巻物を渡して、修業に出たことを伝えればいいのですね。とこで
大天狗様になるための修行とはどのようなことをしているのですか?
カラス天狗:野山を駆け巡り、滝に打たれ、岩場で座禅を組み、自分の心の中にこの富士山
に宿る神々の霊力を蓄えるのだ。修行で得た霊力をお前の体で試してみよう。お前
を空中に浮かしてみせるぞ。「オン・アビラ・ウンケン・ソワカ、エイッ!」
長老 :ワー、体が浮いた。そして動いた。変な気持ちだ。高くしないでね。怖い~。
カラス天狗:驚かせて悪かったな。これは私が修行で得た霊力の一端だ。神様の使いである
ことは信じてもらえたかな。
長老 :信じます。この巻物はしっかりと大天狗様に届けます。それでは次の修行を終えた
らカラス天狗さんはあの真っ赤なお顔と長い鼻を持つ大天狗になるのですか?
カラス天狗:その通りだ。じゃが、今の私はまだまだ大天狗になるには修業が足りないと思
っておる。だから自分が納得するまで修業を続けたいのじゃ。北口本宮富士浅間神
社には大天狗様を目当てに多くの人間たちが自分の健康、家族の幸せ、そして世の
中の安念を願って訪れている。その人間たちの期待に応えてあげねばならない。そ
のためにはまだまだ修行が必要なのじゃ。
長老 :私は動物村の長老となることが定められた家に生まれました。でも信頼される長老
とは何なのか、自分にその力があるのか、いつも自問自答している毎日ですが、答
えがまだ見つかりません。私を弟子にして頂けませんか?そして、長老になるため
の修業のご指導をお願いしたいのです。
カラス天狗:よく分かった。ワシの修業の合間を見て、動物村の長老としての修業を始めよ
う。神社の本殿に大天狗様と小天狗の私の額がかかっている。修行の準備ができた
ら、私の額に声を掛けなさい。こうしてお前の前に姿を見せるから、共に修行に励
もう。必ずこの修行でお前の探している答えが見つかるはずだ。大天狗様に巻物を
渡したら、ワシとの修行の許しを得ておくとよいだろう。
長老は頼まれた巻物を大天狗の住む神社へ届けに行き、直接大天狗様に渡し、そしてカラス
天狗との修行の許可を得たそうです。それからの長老の修行は過酷なものでしたが、長老は
最後まで頑張り、修了の巻物を授けられたということです。話は終わりました。聞き終えた
3人組は改めて長老への尊敬の気持ちを強く持ちました。
ミミ :長老が何故物知りなのか、何故フクロウ博士のような鳥とも話せるのか、不思議に
思っていたけど、その時の修行で得たものなのね。長老がいる限りこの動物村は安
泰ね。
コン太:霊力で体が浮かされたと言っていたね。体が浮くなんて経験したことがないけど、
体が浮いたらどんな感じなのだろう。僕も経験したいな。
ポン吉:大天狗さんは本当に厳しい修行をしてきているのね。でも動物村に迷い込んできた
大天狗さんは、居眠りをして道を間違えたと言っていたぞ。修行のやりすぎで体に
疲れが残っていたのかな。ハッハッハッ!
コン太:怖い顔だから、僕たちを安心させるために、お芝居をしたんじゃないか。それにし
ても、長老に修行時代があったなんてね。今日は良い話が聴けて良かった。僕らの
知らない世界がまだまだいっぱいあるね。
不思議な体験には慣れている3人組ですが、長老の修業体験談には興奮しました。3人組の知
りたがりやの好奇心がますます盛り上がってきました。
※北口本宮富士浅間神社を参拝すると、どこでも天狗さまのお面が奉納されていますよ。
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