ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

犬山城と城下町

2015-09-14 08:21:14 | 日記



愛知県犬山市にある国宝犬山城。現存する日本最古の木造天守閣として有名で、多く
の観光客が来ます。しかし、昭和年代には40万~50万人だった入場者数は平成5年ご
ろから低迷し始め、平成15年には19万人台までに落ち込みました。
そこで、官民が総力を結集して観光客誘致の努力を始めたところ、その成果が表れて
平成19年ごろからV字回復し、昨年は久々に40万人を越えたそうです。そんな城下町に
京都在住の友人を連れた老夫婦がやって来ました。

夫: 駐車場の誘導係が随所に居てくれたお蔭で、順調に駐車することができたよ。

妻: 犬山と言えば4月第1土・日曜日に行われる「春の犬山祭」よね。

夫: 江戸時代から続く針綱神社の祭礼で、381回目にあたる今年の祭りの人出は15万
    人だったそうだよ。各町内を出発した高さ約8メートルの車山13輌のうち12輌が針
    綱神社前に集結して、からくり人形を披露した後、城下を巡行し、日没後は車山に
    365個の提灯が灯されて練り歩いたらしいね。

妻: 私も朝から晩まで見物した時のことをよく覚えているわ。14年も昔の事だけどね。

友: 私は京都に住んでいるから祇園祭の鉾を見慣れているけど、あちらは「稚児」、ここ
    は「からくり人形」が乗っているのね。

夫: そうそう、同じ形式のものは岐阜県高山や愛知県有松が有名だよ。曳山の呼び方
   は「鉾」「山車」・「屋台」など各地で違うらしいね。犬山では「車山」と書いて「ダシ」
   と読ませるんだ。

友人と共に、名物の「鮎雑炊」と「きしめん」で腹ごしらえをして、犬山城に登りました。
狭くて急こう配の階段に苦労しながらも各階の展示物を楽しみ、天守閣からは眼下に
流れる木曽川を始め、四方に広がる眺望を堪能しました。

夫: 階段がキツかったね。年のせいかな?

妻: きっと、そうよ。ネェ、あの辺りに数人いる黄色いTシャツ姿の人が気にならない?
   Tシャツの背中に「写真をお撮りします」と書いてあるわ。

そんな会話をしている三人のそばに、黄色いTシャツの男性が一人、近づいて来ました。

男性: こんにちは!写真とります隊です。よろしかったら、写真をお撮りしましょうか?

夫: ぜひ、お願いします。このカメラで。

男性: こちらの位置がベストポジションですよ。ハイ、チーズ!

妻: ありがとうございました。アラ、あちらでも外国の方が喜んでポーズをとっているわ。

友: 向こうから声を掛けてくれるから頼みやすいし、嬉しい「おもてなし」ね。

お城を出た三人は本町通りを歩くことにしました。最初に立ち寄ったのは「城とまちミュ
ージアム」です。この建物には記憶があります。以前は一階の中央にカラクリ車山がド
ンと展示されていたと思いますが、今は城下町のジオラマが置いてあります。ボランテ
ィアさんからお祭りの歴史や小牧・長久手の戦い等の詳しい説明を受けました。

夫: 以前、この建物内にあった祭りの車山は「どんでん館」という新しい建物に移動し
   たんだって。あとで「どんでん館」にも行ってみようよ。

妻: ボランティアさんの説明が「立て板に水」だったわね。とてもよく理解できたわ。

友: ホントね。あれほど説明の上手な人は滅多にいないんじゃないかしら。

以前あった電信柱が無くなり、道幅にゆとりができた通りをそぞろ歩き、「どんでん館」
にやってきました。「どんでん」とは車山を豪快に方向転換することです。ここには4輌
の車山が展示されています。二階には犬山祭りで子どもが着る「金襦袢」が展示され
ていました。数百万円かかると言われる豪華な刺繍が自慢です。

夫: 金襦袢は嫁の実家が贈ることになっているので、「車山のある町の男には嫁にや
   るな!」と言われているんだって。今も変わらないのかな?

妻: この金襦袢を着た子どもを父親が肩車して、誇らしげに立っていた姿を思い出すわ。

夫: こんなに豪華な刺繍だもの、みんなに見てもらいたいのは当然だ。貴重な文化財
   だよ。

友: 実は私、日本刺繍を習っているのだけど、こんなに立体的な金刺繍を見たのは始
   めてよ。豪華さが半端じゃないわ。重そうだけど、これを子供が来てお囃子を演奏
   するのね。

「どんでん館」を出た三人はお城の方へ後戻りして、「からくり展示館」に入りました。
からくり人形の仕掛けの説明や実演が行われています。

夫: からくり人形は技術立国・日本の礎になっているんだよ。室町末期に渡来した「ぜ
   んまい仕掛けの時計」の仕組みに驚いた当時の人が分解し、自分で作り始めた。
   そこから「からくり人形」が生まれ、現在の自動車、さらにはロボットへと続いていっ
   たんだね。

妻: 茶運び人形の実演と解説も興味深かったわ。からくり人形の動きは歯車に様々な
   工夫をして生み出された物だったのね。ぜんまいを利用して、ここまで緻密なもの
   を作り上げた日本人の応用力と技術と遊び心には、改めて驚かされるわ。

友: 近くで見た人形のお顔の表情が素敵だったし、からくりの仕組みも学べて満足よ。
    できれば、もっと広い範囲を歩いて見たかったけど、時間切れね。春のお祭りの
    時に再訪して、車山で繰り広げられる「からくり」と金襦袢を着た子供達を是非見
    たいものだわ。

短い滞在時間にもかかわらず、犬山の町に対する好感度が一気に上昇した一行です
が、その要因のひとつがボランティアさんたちとの「ふれあい」。訪れる観光客への「お
もてなし」を心がけて行動する地元の人々の努力は、着々と実を結び始めていると感じ
ました。
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