カマキリ: 次から次へと人間が寄って来て、ウルサイったらありゃしない。
そんなに私が珍しいのかな~?私じゃなくて、彼岸花を写しに来たんでしょ。
彼岸花を写しなさいよ。モ~、そんなに近くまで寄って来ないで!
彼岸花 : 人間って、面白いわね。さっきまで私たちに夢中になっていたくせに、カマキ
リさんを見つけた途端、私たちのことはそっちのけよ。
フフフ、あの人、うまく焦点が合わないって、ぼやいているわ。
カマキリ: カメラの焦点が合わないって?だったら写すのを諦めたらどうなの?
しつこいわね。近寄るなって、言ってるのに・・・
彼岸花 : アラ、写されるのが嫌なら、サッサと私たちの中に潜り込めばイイじゃないの。
こんなにたくさん咲いているんだから、すぐに隠れることが出来るわよ。
カマキリ: それがイイわね。じゃあ、あなたのそばに行くわ。ヨイショ、ヨイショ。
彼岸花 : なんだか、足元がおぼつかないわね。どうしたの?
カマキリ : どうしたも、こうしたも、あなたの花びらってフニャフニャしているから、私の
重さを支えきれないみたい。地面に落っこちそうで怖いわ。
彼岸花 : ちょっと~、あなたは何のために羽根を付けてるの?飛びなさいよ。
カマキリ: アッ、そうだった。私って飛べるんだったわね。すっかり忘れてた。
彼岸花 : さっきから、人間がカメラを近づけて来るのが嫌だ、嫌だって言いながら、
本当はまんざらでもなかったんじゃないの?モデル気分を楽しんでいたり
して。だから、ジッと同じ場所に留まっていたんでしょ。
カマキリ: ばれちゃったか。実はそうだったのよ。脚光を浴びるって、気分がイイものな
のね。辺り一面を赤く染めて咲く彼岸花さんを目当てに、たくさんの人間た
ちが押し寄せて、あなたたちの写真をジャンジャン撮っているから、ちょっと
羨ましいなって思っていたのよ。
ところが、最初に私を見つけた人が私を写し始めた途端、次から次にいろん
な人が私を取り囲み始めたものだから、ついつい、いい気分に浸っていたの。
照れ隠しに、自分の気持ちとは裏腹なことを呟いちゃったってわけ。
彼岸花 : やっぱり、そうだったのね。だけど、あなたの気持ちも分かるわ。注目される
って嬉しいことよ。私たちが注目を浴びるのは花が赤々と咲き揃う、この時
期だけなの。1年のうちで、たった1週間だけ。
でも、それでいいの。この1週間の賑わいの後には静寂が戻り、また来年、
きれいな花を咲かせるために、私たちは青々とした丈夫な葉っぱを伸ばす
の。養分を蓄える時期をゆったりと過ごすのも悪くないわ。
脚光を浴び続けるって、きっと苦痛なんじゃないかな。
カマキリ: 苦痛ね~。私は今、初めて脚光を浴びたわけだから、そこのところはよくワカン
ナイ。とにかく、今日はイイ気分に浸れてよかったわ。じゃあ、そろそろ飛んで
行くわね。バイバ~イ!