男雛:久々に明るい場所に出されて、いささか眩しい思いをしておったが、ようやく慣れ
てきたぞ。そなたはどうじゃ。
女雛:眩しさには慣れてまいりました。ですが、暗い場所に置かれている時は退屈な
らものんびりと気ままにしておりましたのに、このように晴れがましいところに
出されてすまし顔を続けるのが、少しばかり苦痛になっているところでございま
す。
男雛:そなたの気持ちも解らぬではないぞ。しかしながら、そう長いことではない。また、
近いうちに暗い場所に連れて行かれるはずだから、今しばらくの辛抱じゃ。
女雛:さようでございますね。では、とびきりのすまし顔を続けることに致します。
男雛:それにしても、あそこに座って我らを見ている女の子の笑顔には降参じゃ。
女雛:ほんに、あどけなく可愛らしい笑顔でございますこと。私どもはあの娘の母親に連
れられてこの家にやって参りましたが、あの娘は母親以上に私どものことを気に
入ってくれているようでございますわ。
男雛:母親も我らを大切にしてくれたが、あの娘はさらに大切にしてくれそうじゃな。
女雛:あのつぶらな瞳をご覧下さいませ。純真無垢な眼差しが美しゅうございますね。
あの娘には辛いことが降りかからないように祈りとうございます。
男雛:そちはすっかり母親の気持ちになっておるようじゃ。だがな、人生、良いことばか
りではないはず。むしろ、辛いこと・悲しいこと・苦しいことに出会った時にこ
そ、逃げたり取り乱すことなくきちんと向き合って、冷静な判断をし、くじけな
いで前に進もうとする芯の強さを、あの娘には身につけて欲しいと思うぞ。
女雛:さすがでございます。まことにご立派なお考えで。まもなく私どもはまた暗い場所
に連れて行かれますが、再びあの娘に会う日が楽しみでございますね。
男雛:そうじゃ、その時はどのような表情を見せてくれるのであろう。次に会う時のことが
今から待ち遠しくてたまらぬわ。肩が凝ってきたが、あと少しの間、威厳のあるす
まし顔を続けることにしようぞ。
女雛:ハイ、頑張ります。