作家の田辺聖子さんが亡くなったのが
確か2週間ほど前だった。
私自身は決して熱心な読者ではなく
読んだ著作もわずか数冊に過ぎないのだが
以来、何かにつけて田辺さんの本を斜め読みしている。
自宅の本棚に「乗りかえの多い旅」という文庫本があった。
たぶん家人が買い求めたエッセイ集だが
何となくタイトルに惹かれてパラパラと拾い読みをしてみた。
人生はよく旅に例えられるけれど
田辺さんはそれを「乗り換えの多い旅」と表現している。
乗りかえとは何か・・・
例えば一生懸命に仕事をしていても以前のように能率があがらない。
思うような傑作が書けない、才能に限界を感じる。
それは小説家として一つの節目で
乗っている列車の「乗りかえ時」の合図だと言うのだ。
それに気づかず今までと同じようなペースで漫然と仕事をしていると
乗りかえるべき列車は発車してしまい
暗いホームにたった一人で取り残されるハメになると説く。
つまりは時代に置いてきぼりを食らうのである。
確かに若さや美貌、才気などを一生持ち続けて終点に着くのは至難の業で
本来なら途中で別の列車に乗り換えるべきなのだが
人はそれに気づかかないのか、あるいは気づきたくないのが
いつまでも停まったままの列車にしがみついて
暗闇で絶望に打ちひしがれる。
確かに私にも覚えがある。
10年ほど前から少しずつ仕事が減り始めたのが兆しだったが
それに気づかず相変わらずの放蕩無頼の日々。
次々と番組が終わり、もともとなかった貯金もたちまち底をつき
一気に苦境に立たされてしまった。
フリーランスに浮き沈みは付きものとは言いながら
今から思えばあれがまさしく「乗りかえどき」ではなかったろうか。
すべては私の不徳のなせるわざではあるが
有為転変は世の習い、田辺さんの言葉がつくづく身に沁みる。
これからも乗りかえ時は続くのだろう。
たとえば病気、離婚、倒産や破産、肉親の死・・・
人生はまことに「乗りかえ」の多い厄介な旅なのである。
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