Kantele-Suomiho-Fuga

フィンランドと音楽(カンテレ、音楽療法)をキーワードに!

音楽療法士のひとりごと-音楽の魔力?

2008-03-05 22:01:33 | 音楽療法
その1
療養型通所施設に通うAさんは、リクライニング車椅子使用、経管栄養、傾眠、意思疎通・アイコンタクト困難、要介護度5。ところがあるとき音楽療法に参加し、ピクっと身体が反応した。家族に話すと「母は音楽が好きだったんです」とのこと、早速元気な頃に聴いていた音楽を持ってきてもらった。歌謡曲、唱歌、演歌、クラシックと様々なジャンルを聴いていたらしい。BGMにその音楽をかけると、顔つきもよく心地よさそうにしているとナースから報告を受ける。

再び音楽療法の日、私が「北国の春」と言ったら、Aさんも「北国の春」と言っている。ナースも私も「エッ~」、お互い目で合図しながら歌を進めると、「かえろかな、か~えろ~かな」と歌っているではないか! 目もあいている、握っているナースの手を握り返している、足でリズムをとっている・・・。「すごい。Aさん聴こえてる? もっと大きな声で歌って」と声かけしたら、「はい、歌いましょう」と返事。そしてもう1曲、<早春賦>を一緒に歌った。

今まで音楽療法にあまり縁の(興味も)なかったナースたちが、「音楽ってすごい!」を実感。それ以後送迎車では行きに帰りに添乗ナースが歌いかけているようで、日に日にAさんの発語はふえ、歌声も大きくなり、覚醒がよくなっている。


その2
重度認知症のBさんは小グループのメンバー。言葉をもたないし、音楽にもほとんど反応しない。ところが<雪>を歌い終わり、隣のCさんが「うちの猫はチャチャマル」と叫んだら、「ハハハ、面白い」と声を上げて笑った。アシスタントの介護スタッフも私もびっくり。「Bさんちは犬か猫がいたの?」と聞くと、「猫、チャチャマル」と繰り返す。声が出ただけでもすごいこと、もう一度<雪>を歌い始めたら、今度は一緒に歌っている。音楽のスイッチが入ったかしらと、次々歌を提示。<湯島の白梅><黒田節>のそれぞれ1番を完璧に歌い、<夕焼け小焼け>では「懐かしいわね」と涙ぐむ。

後日、面会にきた息子さんに話すと、「母は元気な頃は歌ばかり歌っていたんです。一瞬でも取り戻してくれたなら、本当に嬉しいです」。それからBさんは、私の顔を見るとニコニコした表情で手をふっている。Bさんの反応は音楽療法では持続しているので、それを何とか日常につなげようと、フロアスタッフと連携しながら1日10分の《生活リハビリ・音楽編》を行なっている。


その3
Dさんは老健施設・認知症フロアから、系列の認知症グループホームへ移ったばかり。徘徊がひどく、誰もが落ち着いた生活ができるのかと心配していた。Dさんが移動してすぐの<音楽療法・歌の会>、「先生、ご無沙汰しております。わたくしこちらにまいりました。またよろしくお願いいたします」とすっかりマダム。そして1時間着席してずっと歌っていた。今までの様子をよく知っている私は信じられない光景! Dさんは「歌が好きで好きでたまらない。こんなに歌えて幸せ」との感想、老健施設では皆さんの歌声を伴奏に元気よく歩き回っていたから、ほとんど歌う暇はなかったはずだが・・・。入所して1か月たつが、少人数のグループホーム生活があっているようで、顔つきもよく落ち着いている。音楽療法の日は楽しみにしてくれて、歌集を配ったりキーボードの用意をして待っていてくれるDさん。


音楽療法士の私は、《音楽の力》 に敬服している。演奏家だった頃には感じなかった<音楽の魔力&威力>を毎日、それも何度も実感している。