街角で、白衣姿に戦闘帽を被った傷痍軍人が2・3人で立っている様子をよく見かけた。 戦争で手足を失った姿を見せながら、道行く人たちから金銭を貰っていた。 「我々はあの恐ろしい戦争で-------」と戦争の悲惨さをメガホンで叫び、ときにはアコーデオンを弾きながら軍歌などを歌っていた。
また、汽車の中で車両を渡り歩き、乗客から寄付を募っていた。
昭和33年ごろの年末、ボクは上野発青森行き夜行急行列車に乗った。 列車は郷里へ帰る人々で超満員であり、秋田駅近くまで通路に立たなければならなかった。 向かい合わせの4人座席の人々は、互いに都会での仕事や郷里の話などをして、なかなか寝付けない様子だった。
ボクが立っているすぐそばの座席に、白衣に戦闘帽と一見して傷痍軍人と分かる人がいた。 彼はうとうとしながら、独り言を言い出した。 「オレのことを偽物呼ばわりする者がいる。 オレは傷痍軍人だ。 偽物ではない」と。 彼は偽物と言われ、単なる乞食と思われ、傷ついていたのであろうか。
ボクの村にも片足を失った元軍人がいた。 彼は座ったまま下駄を作ったり、ポンせんべいを焼いて生計を立てていた。