イングランド南西部の古都、ウィンチェスタ ー Winchester の名所、ウィンチェスター大聖堂 Winchester Cathedral、続きです。
アーチの奥が、ノルマン時代(11世紀初頭!)の建築部分です。(前回の記事参照)
上の写真の、左側の壁の向こうが「プレスバティリーpresbytery (内陣奥の司教席)」という、普通なら大聖堂の一番奥あたりにあるはずの部分なのですが、長いのが自慢のウィンチェスター大聖堂はちょっと違って、まだ続きがあります。
プレスバティリーの先には「レトロクワイヤ retrochoir 」という、イングランドの他の大聖堂ではあまり見られないおまけの部分があります。ここ☟
とんがりアーチの向こうに見えているのがプレスバテリーの内側です。
ウィンチェスター大聖堂の守護聖人は、おなじみの使徒聖ペテロと聖パウロと...聖スイザン Saint Swithun(誰?)。今回、ガイデッド・ツアーに参加するまで知りませんでした。
聖スイザンは、アングロ・サクソン時代のウィンチェスター司教で、司教在任中に、橋の上で割れた卵を元通りにしたという「奇跡」のために中世のヨーロッパ中に名前が知られた聖人だそうです。
ウィンチェスター大聖堂が中世有数の巡礼目的地だったのは聖スイザンゆかりの地だったためです。
聖スイザン詣での巡礼者にワサワサとおしかけられた大聖堂はわざわざ13世紀に聖スイザンを祀るための聖域、レトロクワイヤを増築してしまったのです。建築様式はそう言うわけで当時最新の「アーリー・イングリッシュ・ゴシック様式 (初期イングリッシュ・ゴシック)early English」
徒歩で長い時間をかけて聖地をめぐる中世の巡礼者たちの動機は篤い信仰心だけではなく、「御利益」めあてもあったのでしょうね。奇跡をおこした聖人ゆかりの地に詣でると、病気の快癒など何か得することが期待できたようです。
863年、大聖堂建設前に亡くなったスイザンの遺体(の一部)は大聖堂内をめぐりめぐって13世紀に9枚の金ぴか聖画(20世紀末の製作)のかかっている壁の下におさまったそうです。
壁の真ん中に開いているアーチ型の穴は「聖なる穴 Holy Hole」と呼ばれているそうです(笑えました...バチアタリ)。献金すれば穴の中に這いずり込んで聖スイザンのすぐそばで願い事ができるという、中世の巡礼者たちにとって大人気のありがたいパワースポットだったそうです。前にお花が供えてありました。
現代工芸作家が制作したカラッポの聖櫃です。☟写真を撮るのを忘れたので、観光ウェッブサイトから勝手に借りた写真です。
もともとこの場所にあった礼拝の対象である聖スイザンのレリック(遺物)がおさめられたシュライン shrine (聖域)は17世紀の清教徒革命の時に、カトリックの偶像や聖人伝などが大っ嫌いな清教徒軍に壊されてなかみ(遺骨の一部)はもち去られてしまったそうです。宗教改革後のその時はすでに英国国教会の大聖堂になっていたので、もう巡礼たちの礼拝の対象ではなくなっていたんでしょうけど。
有名な(それにしてはバカバカしい...バチアタリなことを言いました)「タマゴの奇跡」のエピソードにちなんだ金のタマゴ形の4本のロウソク立ての土台にちょっとさわって「家内安全」祈願をしてきました。信仰心がなくて申し訳なかったのですが。
ノルマン様式のトランセプトを出たあたりから、通路に敷き詰められたタイルの模様がステキです。
モダンでとってもオシャレでしょう?
マンチェスターでテキスタイルデザインを学んでいた頃、このタイルの模様をスケッチしたことがあります。
「伝統文様を模写して研究する」という課題のためです。ウィンチェスターから、マンチェスターに移った後も友人を訪ねてたびたびウィンチェスターに戻ってきていました。(大聖堂が入場無料だった時です)
ガイトさんによれば、通路のタイルは1963年に完成した複製だとか(私が生まれた年です)。
聖スイザンの聖域のあたりのタイル☟は、13世紀のオリジナルだそうです!大聖堂のウェッブサイトには「ハイヒールは脱いで拝観してください」と書かれていました。
もうひとつ、ウィンチェスター大聖堂で見逃せない私のおススメスポットは...
トランセプト北側 (入り口から見て左側)North trancept に入り口のある...
「クリプト cript (地下室)」!
盛夏の数週間以外、いつも雨水がたまっていて神秘的な雰囲気です。照明効果も秀逸です。
現在は見学デッキが設けられていて、いつでも見られます。
30年以上前はたしか水の引いた夏のあいだだけ、予約制でガイド付きのツアーに参加しないと見られなかったはずです。あ、というかその頃はトランセプトの大掛かりな修復期間中でしたので、入り口付近は立ち入り禁止だったかもしれません。
一番初めに建設が始まった、大聖堂に現存する最古の部分だそうです。
1079年建造のノルマン時代のクリプトに、Sound II という思わせぶりなタイトルがついたなぞの現代彫刻像が膝まで水に浸かって立っています。宗教的な思索にふけっているのかもしれませんが...まっぱだかなのが怪しげです。
ガイドさんによれば学校から見学に来た子供たちに「スマートフォンを見ている像」と言うと大ウケだそうです。実際は両手にためた水を見つめているそうですが、見学デッキからは遠すぎて見えません。
見学コースを案内してくれた人とは別の、クリプト専門のガイドさんです。ガイドなしでも入れます。
水が引く夏にはガイド付きでクリプトを順路に沿って歩くツアーもあるそうです。
見学デッキの後ろの壁には調節バルブのついた太い鉄の管がのびていました。ガイドさんに「これは水量を調節するパイプ?」とマヌケな質問をした私に「違う、水量は調節できないよ。これは堂内のセントラルヒーティングシステムだ」と教えてくれました。
そう言えば、大聖堂内はびっくりするほど暖かかったです!
以前(入場料をとる前)はもっとずっと寒かったような...?たしかに12ポンドの入場料をとられて寒かったら怒りたくなったかもしれませんが...外が寒かったので重ね着をしてきた暑がりの私には暖房が効きすぎでしたっ!