戦争論

2024-01-08 11:13:11 | Book
名前だけは知っているが、読んだことのなかったクラウゼヴィツの戦争論。
現代の孫氏の兵法とも言われるが、戦争論というよりはナポレオン戦争論というべきだろう。
なぜ、国力も装備もそれまでのフランスと変わらないはずなのに、ナポレオン率いるフランス軍が圧倒的な強さをもちえたのかを、同時代人のクラウセヴィッツが分析したことに意味がある。
ナポレオン軍の強さは、
・愛国心による士気の高さ
⇒従来は職業軍人や傭兵主体のため、不利になるとさっさと逃げるが、市民兵は最後まで戦う。また、市民のよるゲリラ兵により、スペインは初めて連戦連勝のナポレオンを撃退した。
・徴兵制による圧倒的な動員力
⇒従来は職業軍人や傭兵主体のため、軍備拡充には莫大な費用がかかったが、市民兵はいくらでも徴兵できる。
・殲滅戦による敵軍事力の壊滅的な破壊
⇒従来は陣地取り合戦で両軍とも兵の損失を抑えていたが、ナポレオンは無制限の動員力を背景に敵兵力の殲滅戦を行った。
・戦力の一点集中
⇒勝敗は数で決まる。敵の主戦力を見極め、一点集中して壊滅させれば、残った敵軍は無力化する。
・防御の優位性
⇒時間とともに攻撃側は疲弊するが、防御側は戦力を保てる。戦わずに引き、敵戦力がピークを越えたときに叩く。
と分析している。そして、これらの視点からプロイセンの軍制改革を行った。プロイセンだけでなく他のヨーロッパ諸国もナポレオンの戦略戦術を徹底的に研究し、最終的にナポレオンは敗れ去った。

装備や武器はヨーロッパでは敵味方とも変わらないという前提条件や、当時の白兵戦と現代のミサイル戦では、クラウゼヴィツの理論は不十分だが、ベトナム戦争やアフガンでの米軍の撤退など、白兵戦主体の戦場では未だに十分通用する。

だが何よりも、本文中でも記載されているように、刻一刻と変わる戦争の手法に対して、偏見に囚われずに直視して冷静に分析したことこそ、クラウゼヴィツの名将たる所以なのだろう。

維新後の初期の日本軍は、ドイツの教官によりクラウゼヴィツの理論を叩きこまれたが、昭和になり、クラウゼヴィツの偏見に囚われずに現実を直視するという姿勢を失い、クラウセヴィッツの一要素でしかない愛国心を、たたひたすらに追求する独善的な精神論に陥るのは皮肉だ。


 
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