とんびの視点

まとはづれなことばかり

テロ等準備罪・共謀罪 どっちが嘘?

2017年02月12日 | 時事
アメリカ社会、荒れてますね。トランプ大統領が就任して、社会の分断が進んだようです。異なる意見がない社会は危険だ。しかし異なる意見が社会を分断するのも危険だ。異なる意見が対話できる。それが成熟した社会だろう。日本もあやうい状況だ。

たとえば、あなたが法案について賛否を尋ねられたとする。

一つ目は次のようなものだ。テロ組織などを対象にした法案で、国際組織犯罪防止条約の締結に必要なもの。組織が犯罪の計画と準備を行っていることが確認できれば、犯罪として処罰できる。この法律がないと東京オリンピック・パラリンピックが開けない。大切な法律だ。あなたは賛成するだろうか。テロは未然に防げそうだ。オリンピック・パラリンピックも開ける。悪い話ではない。そう思い、多くの人が賛成するかもしれない。

二つ目。治安維持法の現代版とも言える法案だ。治安維持法は、戦前、日本社会を戦争に向かわせるために効力を発揮した。権力が国民を監視し、思想・信条の領域に足を踏み入れてくる。思想や良心の自由を保証した憲法十九条に反する、違憲の可能性すらある。どうだろう。あなたは反対するだろうか。戦争に向かう社会はいやだ。自分がしていることを監視されるのもごめんだ。自由に考えること、何かを信じることを禁止する。まるで独裁国家だ。多くの人が反対するにちがいない。

もうわかっていると思う。二つは別々の法案ではない。一つの法案に対する二つの説明だ。いわゆる「テロ等準備罪」「共謀罪」。前者が安倍政権や与党の説明。後者が反対する野党の説明だ。この法案が今国会で成立するかもしれない。与党は衆参ともに過半数の議席を確保している。採決に持ち込めば数の力で通せる。安保法制のときを思い出そう。今回もかならずや強行採決をするだろう。

どこかで起こった地震や津波をテレビで見るように、拱手傍観していてよいのだろうか。「なりました」「なっています」。あらゆることを自然現象のように「なる」という言葉で語ってしまうのか。法律を作ることは、社会のルールを作ることだ。社会とは私たちの生活する時であり場である。自分が従うルールが作られようとしている。そのルールの内容や過程に関心をもたないのは「主」の放棄だ。民が「主」であることを放棄する。

民は仕事や日々の生活に忙しい。法案の内容を詳しく知り、国会の議論の矛盾をつくような時間はない。しかし十分な時間がないことを、何もやらない理由にしてはいけない。憲法十二条。この憲法が国民に保障する自由および権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。この言葉、真に受けてみるのもよいだろう。自分たちの社会のルール作りに関心をもってよい時節だ。

関わろうと決めることで、私たちは選択を迫られる。法案に賛成するのか反対するのか。でも、その説明は政権と野党ではまったく異なる。すべてを理解するほど時間はとれない。中身がわからない中で選択を迫られる。中身がわからなくても賛成する。それは安倍政権の言葉を鵜呑みにすることだ。中身がわからないのに反対する。それは反対する野党の言葉を鵜呑みにすることだ。前者は安倍政権を信じていると言うかもしれない。後者は安倍政権を信じられないと言うかもしれない。「信じる・信じない」という言葉を使うことをやめよう。思考を放棄することになる。

ニュースなどで議論を追いかけるのは必要だ。しかし複雑な内容や意味不明なやり取りに引きずられ、うまく考えられないかもしれない。「信じる・信じない」で決めつけるのでもない。すべてを理解してから判断するのでもない。そのあいだに市井の民ができることはないか。不断の努力が少しでもできるような何かだ。

安倍政権については次の言葉が本当か調べてみよう。「テロ等準備罪がなければ、国際組織犯罪防止条約を締結できない」「この法律がなければ東京オリンピック・パラリンピックが開催できない」。テロ等準備罪がなくても、国際組織犯罪防止条約を締結できるなら、安倍政権は嘘をついていることになる。この法律がなくてもオリ・パラが開催できるなら、安倍政権は嘘をついていることになる。

野党側については三つだ。テロ等準備罪が治安維持法につながるようなものか。つながらないなら嘘になる。憲法十九条に反する違憲立法と言えるものか。言えないなら嘘をついたことになる。権力が国民を監視することになるか。ならないなら嘘になる。

これだけ両者の説明が異なる。どちらかが嘘をついているはずだ。あるいは真実を述べていないと言ってもよい。(もう一つの真実を述べているといってもよい。しかしそうなると、それはトランプのアメリカと同じ社会だ)。最初の言葉で真実を述べない人は、他の発言も同じように真実を述べていないはずだ。そう推論するのが思考というものだ。

日々の瑣末な議論に惑わされてはダメだ。まずは最初の説明の言葉をしっかり吟味する。そして嘘があれば、声をあげよう。そんな不正義を日本社会や日本人は好まないのだと。武士道に反すると。ぜんぜん美しくないと。
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