
プロ野球の長い歴史の中で、ヤクルト・巨人・阪神の3球団の
4番バッターを務めた唯一の人物、広澤克実氏の講演を聞いて来た。
氏はプロ野球に馴染みのない人でも知っている野村克也氏・長嶋茂雄氏・
星野仙一氏の3人のもとで部下として働いていた経験から
三者三様のリーダーシップや組織マネジメント術、人材育成方法など
企業人にも通ずる話を笑いとエピソードを交えて、汗が吹き出る程、熱心に語ってくれた。
演題「野球界におけるリーダー論~野村・長嶋・星野に学ぶ~」

氏は1962年(昭和37年)生まれ、茨城県出身。栃木県立小山高校を卒業後、
明治大学に進学。東京六大学リーグやロサンゼルスオリンピックで活躍し、
1985年にドラフト1位でヤクルトスワローズへ入団。野村監督のもと
4番打者として活躍。その後読売ジャイアンツを経て阪神タイガースへ移籍。
代打の切り札として活躍し、18年ぶりとなるセ・リーグ優勝に貢献。
現在は野球解説者として各種メディアで活躍している。

心から師匠と考えている野村・長嶋・星野3監督の話中心に
講演活動をしていたが、9年程前閃いて戦国3大武将
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の性格を表すホトトギスの話を
3人の承諾を取らずに勝手に3監督に置き換えて句を作った所、
大受けしたのでまずご紹介します。
(1) 野村克也氏
鳴かぬなら頭をつかってホトトギス!
(2) 長嶋茂雄氏
鳴かぬなら鳴くのと替えてよホトトギス!
(3) 星野仙一氏
鳴かぬなら気持ちで鳴かせるホトトギス!
これや良い閃きだ。言い得て妙。実際に3人と接していなければ言えない、
意味深な表現だ。皆さん、一生懸命奥にある本質を考えてみて下さい。

(野村克也監督)
・物事には必ず真実がある。ホトトギスはなぜ鳴くのか?
目的を持って鳴くはず。いつ鳴くのか?どこで鳴くのか?山か?森か?林か?
ホトトギスの習性を調べなさい。鳴く環境を整えるデータを調べなさい。
・1990年野村監督就任の前日キャンプに選手全員を集めて
こんな野球を私はやりたいと話があった。それ以前の日本の野球は
振って振って投げて投げて体で覚えろ、まずは走れという練習であった。
野村監督は練習とは何なのか考えたことがあるのか?
方法論を考えろ!答えが出たら行動しろ。失敗したら反省確認をして
練習しろ!目からウロコだった。
・広澤氏の基本は野村野球だった。右に出るものは無かった。
・真似ていけないのは女性。趣味が悪い(笑)
(長嶋茂雄監督)
・巨人に5年間お世話になったが長嶋監督から野球を教わった記憶が無い。
・長嶋さんは球場に来ると最初にスタンドを見る。
満員かどうか確認をしてミーティングルームで話をする。
・皆は何の為に野球をやっているのか?自分の名誉の為、
家族、お金の為ではない。3000万人(長嶋氏の個人的皮算用)の
巨人ファンの為だ。「3000万人の為に野球をやってみないか!」
・普通はチームの勝利の為、チームの優勝の為と言うが
長嶋さんは違う。ファンの為を考えて夢、希望、感動、元気
喜び、笑顔を与えることがプロだ。
・1994年広澤氏はFAの権利を得た。すると突然自宅にTELがあった。
「長嶋です。」最初はヤクルトの誰かのイタズラと思った。
「チョーさんか?元気?」と思わず言ってしまった。
しばらくして本人だと分かり、平身低頭。そうすると
長嶋さんは例の甲高い声で「いいの、いいの、それより会いたいの」
2週間後に会って最後に「トラチャン(広澤のニックネーム)おいで!」
・入団3年後広澤は大活躍し長嶋の勝利監督インタビューを
聞いていてほめられると思ったら、「今日は広岡がよく打った。」
3年経っても名前を憶えられていなかった。
・長嶋監督のエピソードは短時間では語りきれない程あるが、
ご本人の名誉の為、今日はお話できない。(笑)
(星野仙一監督)
・心技体の内、星野監督は心派だ。プロとプロは技体は横一線。
諦めないのは当たり前、諦める方に問題がある。最後は気だ!
・又氏は言葉を巧みに操る。言葉が大事だと言う。言葉力がある。
・星野の指導法は人のタイプによって色分けをする。
怒っても良いタイプ、殴ってもだいじょうぶなタイプ、褒めると
伸びるタイプ。広澤が監督に随分人を差別していたのでは?と
聞いたら「あれは差別ではない区別なんだ」と答えた。
・阪神のエース井川には350万円のピアジェの腕時計を
プレゼントして20勝を挙げさせた。
・今岡内野手の夫人は鬼嫁でその情報を星野が知り、
100本のバラの花を送った。夫人は感激し、星野監督の為に
ガンバレと今岡を激励し首位打者を取った。
・ある時星野は広澤に「トラ前へ出て来い!」
そして皆の前で蹴りを入れられた。その試合は出ていなかったのに。

今日は3人の良い所のみを話していると前置きをしながら
3人の共通点を揚げた。
(1) 頭が良い。 (知恵・アイディアがある。)
(2) 自分から何かを発する力がある。
(3) 吸収する力がある。
・盗塁王の福本(阪急)を刺す為にクイックモーションを考案した。(野村)
・8回、9回のピッチングローテーションを考えて
勝利の方程式を作り上げた。(長嶋)
・7回、8回、9回の投手分業制を確立した。(星野)

そして最後に明治大学の恩師、島岡吉郎名物監督について
あんな事があった。こんな事があったと熱の込もった話があった。
愛称は「御大」。鉄挙制裁も辞さない熱血監督として知られていた。
その逸話はここではとても書ききれる内容ではない。
唯素晴らし指導者であった。
今の広澤の心境は「鳴かぬなら自分を見つめ直すホトトギス」
汗を拭き拭き一気に話しぬいたアットいう間の90分であった。