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自縄自縛日記

川本博康『東京のカワウ 不忍池のコロニー』(科学映像館)、日本野鳥の会のカワウ文献

2009-04-13 00:18:23 | 環境・自然

科学映像館が、川本博康『東京のカワウ 不忍池のコロニー』(1996年)(>> リンク)という短編記録映画の配信を開始している。これが非常に面白い。

東京近辺には、2つの大きなカワウのコロニーがある。浜離宮と、この不忍池だ。実はこれには大きな変化を伴う経緯があった。『関東地方におけるカワウの集団繁殖地の変遷』(成末ら、1997年)(>> リンク)を一読してからだったので、さらに興味深く映像を観ることができた。

それによると、1930年代まで、千葉市の大厳寺羽田の鴨場の2か所にコロニーがあった。羽田のコロニーは、空港の離着陸のためにマツが伐採され、1940年代以降は消滅した。また大厳寺のコロニーは、京浜工業地帯の造成とともに生育環境が悪化し、1971年にゼロとなった。これらに代わってコロニー化したのが、不忍池であり、浜離宮であった。なお、浜離宮では鴨猟を行わなくなったが、市川市行徳の新浜鴨場ではカワウの追い出しを行っていたため、繁殖を継続することはなかった。

映像では、凄いエピソードが示されている。何万羽もの生育を誇った大厳寺(不忍池は千羽)では、糞を農業肥料として使うためにカワウ保護をしていたというが、それに加え、カワウが樹上から落す食べかけのハゼ、カレイ、コハダなどを住民がせっせと拾い、動物の餌にしていたというのである。現在はカワウは居ないが、境内には当時を懐かしんでカワウ像が設置されているようだ。ちょっと見物に行きたくなるところだ。

不忍池のコロニーの様子も面白い。初めて知ったことだが、カワウが止まる樹の場所は個体毎に決まっていて、巣を作るときの材料の取り合い以外には、場所をお互いに尊重している。それを考慮して、現在不忍池の中の島に作られている人工の樹(鉄芯にグラスファイバーと樹脂)は、枝の間隔などが設計されているという。日中、カワウたちは三番瀬まで魚を捕りに出かけて行くが、夕方戻ってきても、自分の定位置は奪われていない、という案配。

そういえば、10年だか20年だか前、カワウの糞で不忍池の水質があまりにも悪化したので(樹はとうの昔に糞のため枯れて人工になっている)、水を掻き混ぜて水中の酸素濃度を高める取り組みをしているという報道があって、現に池でもそのような看板を見たのだが、その後どうなっているのだろう。昔は近くに住んでいたので、よく歩いていく場所だったのだが。

さらに映像では、水面から飛び立つときの特徴(足を交互ではなく同時に水面を叩く)、嘴や足びれの特徴、繁殖期の変化(目の下が赤くなり、熱帯の鳥によくあるようにメスの気を惹くダンスをする)、などを楽しげに紹介する。雛に餌をあげるときの様子が凄くて、ばくりと雛の頭を親がくわえ、雛は親の喉の奥から吐き出された魚を食べる。結構大きくなってもこれをやっていたりして、親離れできない子どもを見ているような気になってくる。

最近不忍池に足を運んでいないし、行っても池などじろじろ見たりしないのだが、俄然その気になってきた。少なくとも三番瀬や新浜鴨場は近くだから、今度の機会にはカワウが目当てになるだろう。

ところで、70年代までに激減したカワウだが、その後かなり増加し(砂町や上尾、木更津の小櫃川河口にもコロニーができている)、いまでは内陸河川でのアユなどの漁業被害が多くなっている。このあたりは、日本野鳥の会が2003年に行ったシンポジウムの報告書『河川に生きるカワウと人との共存の道を探る』(>> リンク)を読むと、おぼろげに状況が見えてきた。漁業者の不満を「ガス抜き」するために銃によるカワウ駆除が行われるが効果は概して小さいこと、駆除をやりすぎて銃弾の鉛による汚染が心配されること、などがあるようだ。実は、ダムや堰を建設したこと、護岸工事によって環境の多様性が失われてしまったことなどによる影響にこそ、言及する必要があることも示唆されている。

●科学映像館のおすすめ映像
『沖縄久高島のイザイホー(第一部、第二部)』(1978年の最後のイザイホー)
『科学の眼 ニコン』(坩堝法によるレンズ製造、ウルトラマイクロニッコール)
『昭和初期 9.5ミリ映画』(8ミリ以前の小型映画)
『石垣島川平のマユンガナシ』、『ビール誕生』
ザーラ・イマーエワ『子どもの物語にあらず』(チェチェン)
『たたら吹き』、『鋳物の技術―キュポラ熔解―』(製鉄)
熱帯林の映像(着生植物やマングローブなど)

●カワウ関連の場所
新浜湖干潟(行徳・野鳥保護区)
盤洲干潟 (千葉県木更津市、小櫃川河口)
○盤洲干潟の写真集 平野耕作『キサラヅ―共生限界:1998-2002』
とくに三番瀬
三番瀬は新知事のもとどうなるか、塩浜の護岸はどうなるか
三番瀬(5) 『海辺再生』
猫実川河口
三番瀬(4) 子どもと塩づくり
三番瀬(3) 何だか不公平なブックレット
三番瀬(2) 観察会
三番瀬(1) 観察会
『青べか物語』は面白い


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