安部公房『密会』(新潮社、1977年)を読む。
ブックオフに「純文学書き下ろし特別作品」シリーズの函入りハードカバー版があったので(105円!)、大学時代に文庫で読んで以来、久しぶりに再読してみた。
ある日、妻が救急車で連れ去られる。探しに行った病院で男が踏み込んだ世界は、あらゆる場所が盗聴され、医者、事務員、患者が暗黙の了解のもと創りあげている性の世界だった。男は盗聴側にまわり、患者の少女を連れだし、病室を覗き、やがて、地獄から逃れることができないことに気付く。
はじめて読んだときにはあまりにも飛躍したSF世界ゆえ切迫感を持たなかったが、あらためて、このエログロに呆然とする。とても一気に読み続けることができない強度なのだ。安部公房の想像力は途轍もないものだ。そして、<性>が地獄と一体の関係にあることも、吐きそうなほどに迫ってくる。ああ怖ろしい。
●参照
○安部公房『方舟さくら丸』再読
○安部公房の写真集
○安部ヨリミ『スフィンクスは笑う』
○勅使河原宏『燃えつきた地図』
○勅使河原宏『おとし穴』
この「純文学書下ろし特別作品」というシリーズ、何が「特別」なのかわかりませんが結構好きで、大江健三郎、遠藤周作、筒井康隆などなどずいぶん買い込みました。
初期のころはクロース装にカラー印刷のカバーが付き、その上に半透明のビニールカバーをかけて箱に入っていました。まさに十二単。そのうち、この「密会」あたりからビニールカバーがなくなり、『方舟さくら丸』になると、カバーもなくなり、ただの箱入りになりました。このあたりを最後に(大江健三郎も安部公房もここで出さなくなったので)このシリーズを買うのはやめてしまったのですが、それから先はただのカバー装にまで落ちぶれましたね。
最近の出版社の台所事情が現れていて、なんか悲しいですね。
「純文学書き下ろし特別作品」、自分にとっては、筒井康隆『虚構船団』が思い出深いです。