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自縄自縛日記

吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』

2018-05-27 10:03:29 | 政治

吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書、2017年)を読む。

本書の特徴はふたつある。ひとつめは、太平洋戦争において日本政府および日本軍の組織的な判断が、物資および技術の面から根本的に間違っていたこと。ふたつめは、そのような大きな話の中に置かれた兵士が具体的にどのような影響を受け、か弱い人間として生命を危機にさらされたかということ。

戦病死者の大部分は、まともに判断すれば敗戦が明らかになった1944年以降であった。そのうち兵士に限っても、死の最大の原因は、戦闘による戦死ではなく、餓死を中心にした戦病死だった。とは言え、餓死とひと言で片づけるわけにはいかない。マラリアなどの感染病、精神病、自殺なども飢えや過労と結びついていた。戦力にならなかったり、足手まといとなったり、逃げようとしたりすると自軍に殺された。国際法で認められていたにも関わらず、相手軍への投降も許されなかった。それらの描写は凄惨極まりない。

具体的に不足した物資は兵器だけではなかった。靴の糸も革もなく、靴そのものもないため、足がぼろぼろになる。最後の命の綱とも言える飯盒がない。背負う背嚢がない。虫歯が蔓延していたがそれを治す歯科医がおらず、口の中がぼろぼろになる。自動車も重機もない。体重の3-4割が限界であるところ半分か体重と同じくらいの荷物を持って、行軍を強いられた。逃げるためには死しかなかった。それが皇軍というものであった。

もちろんわたし達は、小説や漫画や映画や体験記などを通じてその惨状の断片は知っている。しかしここまで体系的・具体的にまとめられると、あまりの恐ろしさに震えてしまう。知っているようなつもりでいて、実は何にも知らなかったということに気付かされる。


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