Sightsong

自縄自縛日記

松井正文『カエル―水辺の隣人』、科学映像館『かえるの話』

2009-11-05 00:19:41 | 環境・自然

松井正文『カエル―水辺の隣人』(中公新書、2002年)を気分転換に読む。幼少時には田舎に居たので、カエルと生活空間で共存するのは当然であったし、近くの小川ではカエルの卵をよく見た。オタマジャクシも素手で捕まえていた(と、ここまで書いて、力加減を調節できなかったためのイヤ~な想い出が脳裏に甦った。あああ!)。一方いまでは、街に暮らしていて、普段はカエルを見ることがまずない。去年ヴェトナムで食べたカエルは旨かったな、という程度。たいへんな落差だ。もちろん子どもの成長にはそんな里山のほうがいいに決まっている。罪深き大人で申し訳ない。

気軽に読んだ本書だが、実は結構な奇書だ。系統的にカエルの種類や特徴を説明してはいるものの、あまりにも多様であるため、それぞれ異なるカエルのことを、嬉しそうに、憑かれたように、話し続けている感じである。カエルを語らせるにはカエル狂いに限る、といったところか。

ヒキガエルは、自分の生まれた池までの道筋の臭いを覚えており、毎年、自分の生まれた池に集まる。
タゴガエルは、地下を流れる伏流水に卵を産む。5月の繁殖期、京都の東山では、渓流の岩の隙間や穴の中で鳴くため、声はすれども姿が見えない。
ツチガエルはアリをよく食べる。捕らえると放つ、毒性が高く嫌な臭いの粘液は、アリをもとにしてつくられている。
○石垣島のハナサキガエルは、大型と小型の2タイプに分かれている。どうやら、最初分化して別々に島に侵入し、お互いが生きていくために分化の程度を高めたらしい。
○西表島のアイフィンガーガエルは、オタマジャクシのときに母親の肛門を付いて刺激し、無精卵を産み出させて、それを食べて育つ。
○南米のソバージュネコメアマガエルは、乾燥しないよう、皮膚から液体を出し、手足で体になすりつける。これがプラスチックの服になり、完璧な防水加工となる。
アフリカツメガエルは、年中産卵が可能であり、誘発するホルモンを注射すれば、卵を産ませることができる。妊婦の尿にはそのホルモンが含まれるため、妊娠判定に使われていた。
○オーストラリアのカモノハシガエルは、雌が受精した卵を飲み込み、オタマジャクシは母親の胃の中でしばらく過ごす。母親は消化しないよう1月半の間、飲まず食わず。そして母親の口のなかまで出てきて変態し、子ガエルになり、ジャンプして外界に旅立つ。
○アフリカ産のヒキガエルには、卵を対外に生み出さない、哺乳類のような胎生の種類もいる。

と、ごく一部でもこんな具合である。ちょっとカエルを食べたくなくなるが(どうせそんな機会はあまりない)、身近に感じられることは確かだ。

科学映像館が配信している無声映画『かえるの話』(1938年、十字屋)(>> リンク)も、カエルを身近に感じさせてくれる作品である。春のヒキガエルの産卵、アカガエルの産卵。水田の畦道に卵が産みつけられ、やがて卵塊から多数のオタマジャクシがでろでろと外界にデビューする。その後、アオガエルが小川べりに産卵。モリアオガエルは木の上に産卵する。

モリアオガエルの名前は、その特殊な産卵習性のために広く知れ渡っているようだ。本州では地域によっては多いが、四国や九州の記録は疑わしく、何度も探しに行くのだが、見つけたことがない。特殊な産卵習性とは、木の上に白い泡状の卵を産むことである。あまりに有名なので、天然記念物とされている地方もあるが、決して珍しいカエルではなく、京都市内では金閣寺や銀閣寺にもたくさんすんでいる。
 大きなアマガエルという感じのカエルで、とくに雌は雄にくらべ著しく大きく、雄では平均体長が57ミリメートルなのに、雌では72ミリメートルもある。足だけでなく、手の指の間にもみずかきが比較的よく発達しており、これを木登りに役立てる。4月から7月頃、池や水田、ときに防火水槽の近くからさえ、カララ・カララ・・・・・・コロコロと鳴いて雌を呼ぶ雄の姿が見られる。
」(上述書)

戦前の映像であり鮮明ではないが、たとえばモリアオガエルにしても、水かきをひけらかしながら木登りをする姿も、泡の卵も、よく見ることができる。それに何と言っても、田んぼや、コンクリートで覆われていない小川の様子は、本当に嬉しいものである。

●科学映像館のおすすめ映像
『沖縄久高島のイザイホー(第一部、第二部)』(1978年の最後のイザイホー)
『科学の眼 ニコン』(坩堝法によるレンズ製造、ウルトラマイクロニッコール)
『昭和初期 9.5ミリ映画』(8ミリ以前の小型映画)
『石垣島川平のマユンガナシ』、『ビール誕生』
ザーラ・イマーエワ『子どもの物語にあらず』(チェチェン)
『たたら吹き』、『鋳物の技術―キュポラ熔解―』(製鉄)
熱帯林の映像(着生植物やマングローブなど)
川本博康『東京のカワウ 不忍池のコロニー』(カワウ)
『花ひらく日本万国博』(大阪万博)
アカテガニの生態を描いた短編『カニの誕生』

●カエル・ジャズ
ロル・コクスヒル『Frog Dance』
マッツ・グスタフソン+バリー・ガイ『Frogging』


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。