先ごろ亡くなったソール・A・クリプキがヴィトゲンシュタインの思想を解釈した『ウィトゲンシュタインのパラドックス』(ちくま学芸文庫、原著1982年)。
最初は退屈だったのだけど、次第に核心に迫っていくテキストにはやはり惹き込まれる。たとえば、感覚を伴う言説を他人に拡張使用しようとする。「痛み」と言うことは簡単だが、「彼は痛みを持っている」という言説を共有することには絶望的なほどの困難がある(「痛みの振舞」へと至るとしても)。ヴィトゲンシュタインは、痛みにもだえる人に対する「私」の振舞も、その人の内的状態について「私」が説明しようとする如何なる試みも、拒絶する。
つまりヴィトゲンシュタインは言語の論理を追求していたと同時に倫理を説いていたということか。確かに「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」という有名な一文も倫理的。ちょっと驚いた。
●ヴィトゲンシュタイン
古田徹也『言葉の魂の哲学』
ノーマン・マルコム『ウィトゲンシュタイン』
合田正人『レヴィナスを読む』
柄谷行人『探究Ⅰ』
小森健太朗『グルジェフの残影』を読んで、デレク・ジャーマン『ヴィトゲンシュタイン』を思い出した