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自縄自縛日記

梯久美子『原民喜 死と愛と孤独の肖像』

2019-01-19 10:17:23 | 思想・文学

梯久美子『原民喜 死と愛と孤独の肖像』(岩波新書、2018年)を読む。

広島で被爆したあとの詩集『夏の花』(1949年)における原民喜の詩を評価して、徐京植は、「壊れている」とみた。それこそが壊れた現実を映し出すものとして。

「テンプクシタ電車ノワキノ
馬ノ胴ナンカノ フクラミカタハ
ブスブストケムル 電線ノニオイ」

この評伝を読んで痛切なほどに伝わってくるのは、原民喜という詩人がまた「壊れている」人でもあったということだ。愛とか絶望とか寂しさとか、そのようなものを、詩作というモードチェンジ時だけでなく、生まれてから自死を選ぶまで体現した。

戦時において原が書いた詩もまた、モードチェンジにより何かを殊更に強調するものではなく、静かな日常における自分の感性のみを信じた表現であった。著者はそれを、「非日常の極みである戦争に対する、原の静かな抵抗であった」とする。

●参照
徐京植のフクシマ
梯久美子『狂うひと―「死の棘」の妻・島尾ミホ』


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