粟生田弓『写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン』(小学館、2016年)を読む。
六本木のZen Foto Galleryで、北井一夫さんに、すごく面白いから読んだ方がいいよと薦められた。迂闊にも本書の最終章まで気が付かなかったのだが、このギャラリー名は、Zeitと似たZen、そしてドイツ語表記のFotoを使うなど、ツァイト・フォト・サロンからインスパイアされたものなのだった。Zen Foto代表のマーク・ピアソン氏は日本在住の英国人であり、ツァイトを立ち上げた故・石原悦郎さんから木村伊兵衛の貴重なプリントを購入もしている。
つまり、日本の写真家が日本人以外の眼によって正当に評価され、そのプリントを売買するということが、石原さんが行ってきたことのひとつの象徴的な結実なのでもあった。写真が、報道の手段や、単なる印刷原稿としてのみ評価されていた時代にあって、石原さんは、オリジナルプリントを額に入れて展示し、販売する場として、ツァイトを作った。
商売という意味では暴挙だったのだろう。しかし、結局は、当初から共鳴した北井一夫さんもプリント販売を主な収入源とするようになり、森山とアラーキーを嚆矢として日本人の若手写真家を売りだすことにも成功した。これが石原さんの蛮勇とも言えそうなヴァイタリティによってこそ実現したのだということが、本書を読むとよくわかる。パリに渡り、アンリ・カルティエ=ブレッソン、ロベール・ドアノー、アンドレ・ケルテス、ブラッサイら伝説的な写真家たち、またプリンターのピエール・ガスマンと実に人間的な交流をしているところの描写など、まるでドラマのようで、とても面白い。
石原さんが2016年2月に亡くなったあと、小泉定弘さん(同級で音楽仲間でもあったらしい)も、北井一夫さんも、ツァイトや石原さんのことを話してくださった。大きな存在だったのだな。またお話を伺ってみたい。