ワイ・カーファイ『再生號/Written by』(2009年)を観る。広州の書店で、20元くらいだった。
香港。家族が乗った自動車が、交通事故に遭う。父(ラウ・チンワン)が亡くなり、娘は視力を失う。母(ケリー・リン)は泣いて暮らす日々。息子はどうすることもできない。ある日、母を慰めようと、娘は「父だけが生き残ったパラレル・ワールドで、フィリピン人メイドとともに暮らす」小説を書き始める。しかし、その母と息子も、不意に落ちてきたベランダの下敷きになり、即死する。一方、パラレル・ワールドでは、視力を失った父が、絶望しながらも生きていた。世話をしてくれたフィリピン人メイドも、ベランダの下敷きになり、即死する。
ふたつの世界は、お互いに重なりあい、時には幽霊となって行き来する。それも、すべて物語世界が干渉し、創出したからである。やがて、片方の世界では、ひとり残された娘が絶望し、自殺しようとする。いくつもの世界で、自殺を選び、あるいは回避する。
死者も生者にとってともに生きる存在だ、というメッセージ性が強い小品。おとぎ話でもあり、さほど錬度が高いものとも思えないのだが、さて、これは絶望した者にとって救いになるだろうか。自分の心には届かなかった。
ラウ・チンワンは、複雑な感情をいくつも併せ持つ表現が実に上手い。ケリー・リンとともに、ジョニー・トー作品の常連でもある。それというのも、監督のワイ・カーファイは、ふたりが出演する『MAD探偵』をはじめ、ジョニー・トーとの共同監督作品や脚本参加作品を何本も製作している。
●参照
○ジョニー・トー+ワイ・カーファイ『MAD探偵』(ラウ・チンワン主演、ケリー・リン出演)
○ジョニー・トー+ワイ・カーファイ『フルタイム・キラー』(ケリー・リン出演)
○ジョニー・トー+ワイ・カーファイ『ターンレフト・ターンライト』
○ジョニー・トー『奪命金』(ラウ・チンワン主演)
○ジョニー・トー『暗戦/デッドエンド』(ラウ・チンワン主演)
○ジョニー・トー『デッドエンド/暗戦リターンズ』(ラウ・チンワン主演)
○ジョニー・トー『文雀』(邦題『スリ』)(ケリー・リン出演)
○ダニー・パン『追凶』(ラウ・チンワン主演)