なあむ

やどかり和尚の考えたこと

杣寺に嫁して―矢口セツ子句集―

2014年11月03日 09時46分56秒 | ふと、考えた
前回の記事『紅葉の意味』の最後に付け加えた句「燃えて散る さだめも 深山紅葉かな」の作者は矢口セツ子さん。
今年3月に88歳で他界された、真室川町大沢長泉寺ご住職のご母堂でした。
60歳過ぎから始められたという句作は、才能が開花したと云うべきか、数々の受賞歴を連ねておられます。
ご逝去の知らせでお邪魔した際、ご遺体の祭壇に

  杣(そま)寺に 嫁して悔いなし 吾亦紅(われもこう)

の句を拝見してから、その句に惹かれ、是非他の句も拝読したいと願っていました。
この度、長泉寺方丈様より手作りの句集を頂戴し全句を拝読したところです。
1050余の句はどれも名句ばかりと拝読しましたが、その中でも私の心に響いた数句を紹介したいと思います。

  息子いて 嫁いて孫いて 注連(しめ)飾る

  注がれて 鋼(はがね)びかりの 甘茶仏

  子はいつか 住職たりし 竹の秋

  聞き流す ことも一芸 ところてん

  逆らわぬ ことも手の内 いぼむしり

  引き際の 今がしおどき 夏つばめ

  ひとことの 言えぬはがゆさ 蜆貝

  言い切って 心むなしき 秋の風

  丸き背を 丸め直して 草むしる

  何なくも 曾孫七人 菊根分け

  小春日の あればみちのく 捨てられず

  ぐち聞くも 介護のひとつ 窓は雪

そして、東日本大震災を詠んだと思われる句

  追悼の 黙祷ながし 春の海

等々、心に残る句を数多く遺されました。

お元気な頃は、毎日本堂の拭き掃除と草むしりの日課であったと伺いました。
お若い頃に詠まれたという和歌があります。

  老いるまで 拭かせたまえと 願いつつ 今日も御堂の 床を拭きぬく

田舎の寺にはこのような、名も知れぬ、しかし自分のつとめを果たしきった寺族様方がいらっしゃいます。そのような方々によって寺は維持されてきました。
セツ子様を代表として、感謝の気持ちでいっぱいです。





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