わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

また、微妙な映画を見てしまいました『ヴィクトリア女王 最期の秘密』

2017-10-21 | Museumsとイベント
「Victoria and Abdul(ヴィクトリアとアブドゥル)」作家シャラバニ・バスによる、実話を元にした本、「ヴィクトリアとアブドゥル:女王の最も親しい秘書の真実の物語(Victoria and Abdul: The True Story of the Queen's Closest Confidant)」の映画化です。予告がとても面白そうだし、実話を基にした女王とインド人召使との友情が描かれるというのも興味深い。Rotten Tomatoesでの評判も高いし、なにしろ名優ジュディ・デンチがヴィクトリア女王を演じるとなれば、外れはないだろうと安心して劇場に足を運んだのですが…


 英国領インド州アグラの刑務所吏員アブドゥル・カリームは、一番背が高いという理由で、女王の在位50年を祝うゴールデンジュビリーで、インドの感謝を示すための特別な金貨を差し出す役を仰せつかります。女王とは決して目を合わせるなと言われていたにも関わらず、思わず平伏して女王の足にキスしてしまったアブドゥルは、女王に強い印象を植え付けました。

 前半は、孤独な女王が、ハンサムなインド人青年と友情を育くみ、笑顔を取り戻す一方で、この二人に振回される王子や側近達がコメディー調で描かれ、美しい風景や豪奢な宮殿内、絢爛なドレスと軽妙な会話で楽しかったのですが、女王がアブドゥルが結婚していたことを知って激高する辺りから、話が妙な方向に… 



 女王激高の理由は、アブドゥルの語った「インドの大反乱」に関する話が大ウソだったと知ったからもありますが、私にはそれ以上に、彼が結婚していると言ってなかったから、と、思えました。実は、女王は、アブドゥルの語る異国やコーランの世界、ウルドゥー語に憩いを見出していただけではなく、老いらくの恋だったのか。女王はすぐに後悔して、アブドゥルに妻を連れてくるよう命じ、ますますイスラムへの興味をつのらせていきます。

 今のイギリスやその周辺国での移民状況や、ISISによるテロ、イスラム教徒への恐れや嫌悪の状況を考えると、このタイミングで、女王がイスラム教に入れ込んでた映画を持ってくるとは、なんか小賢しいものを感じる。ターバンを巻いてるし、服装や容貌では正にインド人っぽいのに、実はモスリムとか、この時代はまだ厳格に別れてなかったのかな?

 インドから呼び寄せたアブドゥルの妻が黒いブルカを脱いで顔を見せるまでの息をのむ表情や、彼女が丸顔でぽっちゃり型の「絶世の美女」ではなかったと分かった時には、安堵の表情(と私は感じた)を浮かべます。なんだか、この辺りから映画は生臭く、女王の寵愛と、それをやっかむ息子のバーティー(後のエドワード7世)達のドタバタが、気軽く笑えない状況になってきます。

 輪をかけるのが、アブドゥルが家族を呼び寄せ、立派な一軒家を与えられた一方で、一緒にインドから呼び寄せられたモハメドの末路。インドに帰りたいと言い続けていたのに、顧みられないままに寒い屋根裏部屋で弱って亡くなってしまいます。最初はコミックリリーフだったモハメッドの寂しい埋葬は、陽光にあふれていた映画前半とは対照的に薄寒いグレーの空の下でした。元々はアブドゥルより高位のモハメッドの哀しい末路には、身につまされました。だって私は、先生が贔屓する可愛いクラスメートや、上司がちやほやする美人の同僚を、羨ましく思ってた方なので。

 ヴィクトリア女王は、ぞっこんだった御主人のアルバート公と結婚する前にはメルバーン子爵、亡くなってからは使用人のジョン・ブラウンを厚遇しすぎて周囲を辟易させましたが、ブラウンの死後に寵愛したのが、このアブドゥル。女王は彼を「ムンシー(精神的な師みたいな意味らしい)」と呼んで特別扱いします。ナイトの称号を与えると言い出した時には、周りは女王の精神状態を疑い始め、宮殿の使用人が一斉に辞めると言い出しても、女王は態度を変えません。一方でアブドゥルも、女王の寵愛を盾に横柄に振る舞い、周りから憎悪されるようになります。

 その女王も高齢には勝てず、臨終を迎えます。自分が死ぬ前にインドに帰れという女王の忠告は受け入れず、アブドゥルは最期まで女王に付き添いました。女王の死の直後、アブドゥル一家は家から追い出され、二人の友情を証明する女王からの手紙を全て燃やされてしまいます。インドに帰った彼は、英国に行く前の明るくハッピーな男とは別人でした。彼は女王の死後、8年後に42歳で亡くなりました。因みにWiki先生によれば、彼の妻はインドへ帰る航海中に亡くなったそう。

 カワイ子ちゃんを贔屓して、能力に見合わない重職に付け、贅沢を許すのは、男の権力者だけじゃないってお話でしたが、この頃のアメリカは、ハリウッドの大物プロデューサーのセクハラで持ち切り。日本語でも「まくら営業」って言葉があるじゃありませんか。最初に警鐘を鳴らしたモデルさんが称えられるのは解るけど、そのあと続々と出てきた、私も、私も組が「勇気ある」とか言われてるのは解んないなぁ… この件については、後日。


女王とアブドゥル

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