思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

ドイツ人ジャーナリストのリップは、戦闘が行われているドンバスの現地から動画レポートを送った。だが・・・・

2023-09-08 | 社会批評
【本物のプリンセス】
2022年の2月にロシア軍がウクライナの内戦に介入してから、ドイツ人ジャーナリストのアリーナ・リップは、戦闘が行われているドンバスの現地から、動画レポートを送って、SNSで知られるようになっていた。西側諸国は、すぐに情報統制を始めて、ロシアの報道が入ってこないようにした。西側諸国でパンデミックの頃から視聴者が増えていたRTなどは、検閲がないテレグラムでさえもアカウントを消されたりした。主流メディアでは、ロシアが一方的に侵略してきて、市民に残虐行為を行っていると報道し続けていた。ドンバスは、2014年からずっとウクライナ軍に攻撃され続けていて、ボロボロになった集合住宅がたくさんあったのに、それがすべてロシア軍が破壊したと報道していたのだ。
その中で、アリーナ・リップは、ドンバスから、人々がロシア国旗を掲げてロシア軍を歓迎している画像や、ドンバスの人々が、攻撃したのはウクライナ軍だと言っている画像、ロシア軍が侵攻する前からボロボロに破壊されていた建物などを見せていた。30前の若いきれいな女の子が、危険な戦闘地域からレポートしている。彼女は、父親がロシア人、母親がドイツ人で、ロシアの血が半分入っている。ロシアについて事実と違うことが言われて、信じられているのを見て、彼女の血がこうせずにはいられないのだと言っていた。
SNSを通して現地の真実を伝えるジャーナリストたちは、西側諸国ではメチャメチャに叩かれる。アリーナ・リップも、銀行口座を止められてしまい、ドイツ語圏からの寄付金が受け取れなくなってしまった。その上、ドイツのメディアでは、ロシアの情報工作員だと言われて、誹謗中傷あることないことを書かれまくっていた。アリーナ・リップは、そういう記事をまたテレグラムにアップして、またこんなことを書かれたといって、冗談にしていた。
その彼女が、ドイツのテレビ局のインタビューを受けたのだ。どうせ侮辱的な質問をされて、悪く受け取れるような部分だけを切り取って報道されるのは、わかっていた。同じくロシアに住んでいて、ドンバスの真実を報道し続けているドイツ人ジャーナリストのトーマス・レーパーは、「俺だったら、質問の答えのすべてを報道するという条件でなければ、インタビューなんて応じないけれど、アリーナの勇気はあっぱれだ」と言っていた。彼女は、メディアがどんな風にインタビューを歪曲するのかを見せたいのだと言っていたそうだ。それで、そのインタビューがテレビで放映される一日前に、テレグラムから、カットしていないインタビューの動画をシェアしていた。
トーマス・レーパーは、そのインタビューの動画を見て、インタビュアーの質問があまりにひどいものなので、とても全部見ていられなかったと書いていた。17分ほど見て、それ以上は見られなかったと。こういうインタビューはパンデミックの頃に何回か見たけれど、まるで極悪犯罪者の審問みたいなやつだ。去年まで駐日ロシア大使を勤めていたガルージン大使が、ブチャの虐殺事件について日本のテレビのインタビューを受けた動画も見たけれど、あれもそんな風だった。インタビューなんていうものじゃない。詰問という以上に精神的拷問だ。
アリーナ・リップは、そんなインタビューを何時間にもわたって受け、質問に堂々と答えていたようなのだけれど、昨日、テレビで放映されたのは、その長いインタビューを切り刻んで編集して、元の意味とはまったく違うようにしたのを5分ほど流しただけだったそうだ。その放送があった翌日の今日、その放送への答えとして、彼女は短いメッセージ動画をテレグラムにアップしていた。自然の中のきれいな川の流れに足をひたしているショートパンツ姿のアリーナ・リップが、「あの番組を見て、私が言えることは、ここロシアは美しいっていうことよ」と言っていた。一分もないその動画で、彼女はただ、ロシアの自然の美しさだけを語っていた。しかし、彼女がひどく傷ついているのは、はっきりとわかった。これまでもメディアにひどいことを書かれたことは何度もあったけれど、彼女はいつも冗談にして面白がっていた。だけど今回は、もう冗談にすることもできないくらい、打ちのめされているのがわかった。しかし彼女は堂々として、ロシアの自然の美しさについて語っている。ここにいられることが幸せだと。
その動画には短い文章がついていて、「真実はいつも光を浴びるし、愛と光を勝ち得るのよ。あなたたちが平和とともにありますように。あなたたちのプリンセス」と書いていた。「プリンセス」と言ったのは、ドイツのテレビ番組のタイトルが「偽情報のプリンセス」というものだったからだ。番組の放映がある前には、アリーナはそれについて、「見て、私、プリンセスにしてもらったわ!」と笑い事にしていた。それでその番組のあとで、「あなたたちのプリンセス」と書いていたのだけれど、打ちのめされながらも堂々として、ロシアの自然の美しさを語っているアリーナ・リップは、本物のプリンセスのオーラを放っていた。
とことん打ちのめされて、なおも希望を失わないで毅然としている人は、本物の高貴さのオーラを放つのだ。ありったけの希望をすべて手放して、もうどこにも希望がないはずなのに、それでも真実が光を浴びることを信じ続けている。その信念は、何の根拠もないがゆえに、人間の高貴さそのものの力を持つ。
最初からわかっていたことなのに、どうしてそんなインタビューなんか受けたのかと、何人もの人もがコメントしていた。だけどそれゆえに、彼女の勇気の前に頭を下げるしかない。そんな経験をするために、彼女はこんな試練に身をさらすことになったのだろうか? 真実のために身を犠牲にするような体験を通して、人は本物の高貴さを得るものなのかもしれない。
 
1人、木の画像のようです
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