つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

あぁよかった(笑)

2006-12-31 14:21:09 | 恋愛小説
さて、スリーセブンはどちらに? って計算しろと突っ込まれそうなの第761回は、

タイトル:蕎麦屋の恋
著者:姫野カオルコ
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H16)

であります。

いったい何冊目だ、このひと……と思ったらすでにこれが5冊目だった……(笑)
ここまで数読んでる作家は、意外と少ないからなぁ。
まぁ、おもしろいから読んでしまうんだけど。

さておき、本作は表題作を含む3つの短編が収録された作品集で、3作とも違った形の恋愛小説となっている。
では、各話ごとに。

「蕎麦屋の恋」
一 京浜急行に乗った男の章
山藤製薬経理部課長、秋原健一。算盤が得意で、妻子のいる平凡なサラリーマンだが、妙に女性に好意を持たれるタイプだった。
会社初の女性部長の笛子、暗算の出来るところに憧れた間宮恵理、取引のある広告代理店の室長沙耶など……仕事に、愛する家族。平凡だがごくふつうの生活の中で、ふと関係を持ってしまう姿が描かれている。

二 京浜急行に乗った女の章
大学を卒業し、務めていた三隅商事を退職し、調理師専門学校を経て、その学校の臨時講師のようなことをしている波多野妙子は、成長過程から炬燵に入って誰かと一緒にテレビを見る、と言うのが何よりの幸せだった。
だが、そうした気持ちが理解されることなく、30を超えてしまった彼女は、いつもの「快速特急」で見かける男と短い会話を交わす。

三 京浜急行を降りた男と女の章
ふとしたことで知り合った秋原と妙子。ある日、秋原から仕事が終わった後、逢う約束をする。
ただ「快速特急」に乗っている間でも話が出来れば……それくらいのことだったが、途中普段は降りない駅で降りたふたりは、近くの蕎麦屋で夕食を取る。

その店の座敷席で、妙子は誰かとテレビを見ながら食事をする……そんな幸せを味わい、秋原もそんな妙子の様子を大人の余裕を持って眺めていた。

なんか、ほっとするような感じのラストだったなぁ。
蕎麦屋っていつまでたっても出てこないからどうなんだ、と思っていたけど、こういう使われ方なのね、って妙に納得。
しかし、三部作の主人公の境遇と似た感じのヒロインだが、こちらは何となくハッピーエンドな終わり方なので、すっきりしていい感じ。

「お午後のお紅茶」
総合美容師を目指す小林くんは、緊張したり恥ずかしいことがあると足の指がまるまる癖がある、美しいものには性別を問わないバイセクシャルな青年だった。
そんな小林くんが、恋人の二階堂さんと入ったときが初めてのお店「ポプリ」で知った女主と、その料理のコンセプトに足がまるまるのだった。

2度の食事から行かなくなった「ポプリ」だったが、美容室の先輩との話が弾んでいたため、3度目の来店となったそこで、足の指だけでなく、手の指までまるまりそうに……。

皮肉に満ちたユーモアで、くすっとさせられる良品。
ラストのオチにつけたのも皮肉が効いていておもしろい。

「魚のスープ」
学生時代の友人から送られてきた旅行代金半額のチケットでスウェーデンに行くことになった江藤夫妻。
夫である「ぼく」は、妻の桜子とともにスウェーデンで友人である本城和……通称カズと言う女性の案内で6日間の観光をすることになる。

大学時代の微妙な思いを抱えながら、カズと接する「ぼく」だったが……。

これは珍しく穏やかであっさりとした短編で、最後に「ぼく」が気付く大学時代の「ぼく」とカズ、そして最終的に桜子との生活を、改めて心に固める「ぼく」と短いながらもすっきりとまとまったものになっている。

とは言え、やっぱり、らしいのは「蕎麦屋の恋」や「お午後のお紅茶」だろうなぁ。
特におもしろかったかのは「お午後のお紅茶」だね。
「蕎麦屋の恋」はハッピーエンドっぽいところが意外だが、これはこれでありかな。三部作のうちの2冊だと、こういう終わり方はしていないから、たまにはこういうのがあるのはうれしいかも。

それぞれオチがけっこうよくて、この作品集は比較的、誰にでもオススメしやすい作品が集まっているのではないかと思うね。