つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

珍しく最近の作品

2006-12-13 23:35:38 | ホラー
さて、時間の合間に読んでたので記憶がバラバラな第743回は、

タイトル:都市伝説セピア
著者:朱川湊人
出版社:文藝春秋 文春文庫(初版:H18)

であります。

お初の作家さん、の初短編集です。
デビュー作『フクロウ男』を含む全五編を収録。
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『アイスマン』……子供の頃、客引きの少女に連れられて『河童の氷漬け』を見にいった私。しかしそれは河童などではなく――。
なんじゃそりゃ? と言いたくなる、不条理系ホラー。オチも定番で、特に見るべき所はない。

『昨日公園』……幼い頃、遠藤は友達を見捨てた。あの公園で何度も生き返り、何度も死んだ町田を――。
いわゆる、時間の強制力に立ち向かうタイムトリップ物。むか~し読んだ、『はるかリフレイン』という漫画もそうだったが、変えられない運命に何度も立ち向かうという行為は非常に切ない。オチもひねってあり、非常に完成度の高い作品に仕上がっている。一押し。

『フクロウ男』……友人からある男に届いた手紙。そこには驚くべき告白が記されていた。都市伝説の主人公『フクロウ男』の正体は自分だと言うのだ――。
手紙による告白、といった体裁の話。一言で言ってしまえば、フクロウ男と名乗るサイコキラーの話なのだが、都市伝説を作り上げる過程を非常に丁寧に書いており、ラストまで綺麗につなげている。ミステリ的なオチも見事で、さすが新人賞受賞作といったところ。

『死者恋』……謎に包まれた画家・鼎凛子の家を訪れたフリーライターは、今まで語られることのなかった彼女の過去を聞き出すことに成功した。しかし、それは実に奇妙な話で――。
最初から最後まで、凛子がフリーライターに語りかける形式の物語。若くして死んだ天才画家に恋した話に始まり、ある友人の話、その息子の話と移る内に、不気味な空気が行間に漂いだす。ラストの一文はホラー的オチの見本。

『月の石』……死の淵にある妻を励ましつつ、藤田は今日も仕事に出かける。だが、このところずっと気にかかっていることがあった。電車から見えるマンションのベランダに見知った男がいつも立っているのだ――。
ネタ的にはホラーだが、非常に物悲しい雰囲気の話。最後のオチでさらに恐怖をあおるかと思ったが、さらっと終わっててちょっと拍子抜けした。

好きか? と聞かれると微妙なのですが、割と出来のいい作品が揃った短編集です。
タイトルの通り、セピア色という表現がしっくりくる、ノスタルジックな話が多かったかな。

ホラー嫌いでない方にオススメ。
作者と同年代の方は、かなり楽しめるのではないでしょうか。