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キャタピラー

2010年08月21日 | か行 日本映画
冒頭、いきなりの日本兵の暴行シーンから始まる。戦争が起こした狂気のひとつだが、敵を徹底的に凌辱するのは、悲しいかな常套手段だ。敵を支配したはずの日本兵は、四肢を失った姿で帰ってくる。声を失い、顔には大やけど。

失ったものの代わりに、勲章をぶら下げてくる。生きた軍神とあがめられ、忠孝の誉れと褒めそやされる。中身はどうあれ、外見もどうでもいい。本当にやってきたことなど構わない。生きているた軍神だ。

何もできず、ただ食って寝て、食って寝て、食って寝る・・・・。ただそれだけ。そんなのを人間と言える?かつて夫に暴力をふるわれ続けた妻は、しびんを片手に、夫の尻を拭く。

外では軍神とあがめられ、献身的な妻の名誉を全身に受け、家の中では、食って寝る…。それこそすべてをそぎ落とした人間のサガのようなものすら感じる。

相変わらず、戦争は日本が連戦連勝。インドでもインドネシアでも、南方の島でも、日本が勝っていることしか伝わらない。毎日の食事は、粗末になるばかりだが、日本の常勝は揺るがない。。。

徐々に夫の態度が変わってくる。あれほどむさぼっていた妻の体を求めなくなる。その目は恐怖におののいているようだ。炎に追われ、動かない体を動かし、自分を痛めつける。まるで何かに追われているかのように。

そして、8月15日。。。戦争が終わったことが告げられる。いや、負けたことだ。そして・・・。

戦争の一面をそのまま切り取った力作。戦闘が戦争だけなのではなく、兵士を送りだす小さな村にもあまねくあった戦争の傷跡。傷ついた兵士だけが戦争を背負っていたのではなく、すべての人が背負わされた悲劇なのだということ。

それを何とかして表したいという気持ちがそのまま主人公の寺島しのぶさんに乗り移って、彼女が表現する一挙手一動が夫の感情も表しているようだ。

内容は見ていて「セプテンバー11」の中で今村昌平監督が撮った「聖戦などない!」というものを思い出した。今平監督の最後の作品だったと思う。戦争から帰ったきた兵隊。しかし精神を病んでしまったその帰還兵は、蛇が乗り移ったように人間性を失ってしまった話。

キャタピラーの久蔵は、自分がやってきたことにさいなまされる。唯一、それが救いになっただろうか。。。。


つうことで、今回は主人公の寺島しのぶさんと、監督の若松監督がおいでになり、舞台挨拶と相成りました。若松監督は「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」の時にもお話を伺ったが、年齢を飛び越えたエネルギーを感じた次第。今回もじかにお話が聞けるというんで、参上した。

それにあの寺島しのぶさんにもお目にかかれるというは、めったにない機会なので、先着のサイン会の整理券もゲットして、わくわく。

監督がおっしゃるには戦争に正義は絶対にない。どんな戦争にも。
戦争が生み出す悲劇は兵士だけにではなく、市井の人にも、その後も、いつまでも傷あとを残してしまうもの、自分が子供のころに見てきたものもある。そのことをキチンと描き残さなければならない・・・と思ったとのこと。

寺島さんを日本で一番モンペの似合う女性・・・とおっしゃってたが、まさに文字通りの体当たり演技に圧倒。役者は想像によって、役柄を全うするしかないが、それが伝わっていたのならとっても嬉しい・・との弁。十二分に受け取りました。

映画は、12日間で撮ったとか。その集中力たるや、すごい。ほとんどテストなしで、一発本番。何度もテストをするより、一発目の手垢の付かない演技こそが一番いい・・・とのこと。

実際の寺島さんは、お肌が本当にきれい。虫刺されなどないんだろうな・・と思うくらい(失礼!)の透き通るような肌にはうっとりだった。

いただいたサインはこちら。若松監督と並んでのサイン。




そしてとんでもないことをお願いしてしまったあたし。
かつて荒戸監督と、大西さんがいらっしゃって、「赤目四十八瀧心中未遂」で、お二人にサインをいただいたが、やはりこの寺島さんは秀逸。




ぶしつけなことを重々心得ながら、恥も外聞もなく、このパンフにも名前を書いていただいた。
変なお願いにこころよく応じてくださった寺島さん、ありがとうございました。
このパンフはすごいですよ。3人のサイン入りです。



ハスの上に書いていただきました。


重たい映画でしたが、こういうのは絶対に必要です。
文化庁の援助はいつも断られる・・・とぼやいておられましたが、国の金で作るようになっちゃおしまいだ!!との意気や相変わらず。まだまだパワフルな作品を作っていただきたいものです。

◎◎◎◎●

「キャタピラー」

製作・監督 若松孝二
出演 寺島しのぶ 大西信満 吉澤健 粕谷佳五 増田恵美 河原さぶ 石川真希 地曵豪 ARATA 篠原勝之 小倉一郎


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10 コメント

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Unknown (KLY)
2010-08-22 23:36:02
初日舞台挨拶の日、若松監督、寺島しのぶさん、大西信満さん、クマさんのサイン入りパンフというか書籍?が販売されたので、それまた私らしくもなく買ってしまいました。(笑)っていうか若松監督が壇上から買え買えうるさいんだもん。(爆)

最後の反骨精神の人かもですね。今回も自分でお金出してるんだから、最悪家を売ればいいだけだとおっしゃってますし。誰にお金出してもらってるわけじゃないから好きなように好きなものを作るだけだとも言ってました。

恐らくこの作品は興行的にはヒットしません。商業的には今やテレビ局の製作委員会参加は必須ですから。でもこんな人が居なくなったら日本の映画界は終わります。sakuraiさんの言うとおり、まだまだパワフルな作品を撮ってほしいですし、次回作はもう取り掛かっているといってました。寺島さんにもオファーするそうですよ。
>KLYさま (sakurai)
2010-08-23 10:51:55
せっせと売り込む姿もまた監督らしかったです。
これで寺島さんが賞取らなかったら、地味に公開されて終わりだったかもしれませんが、こうやって全国回って行脚する姿に敬服です。
それもひとえに、自分の撮りたい映画を撮るため!ですもんね。
そうそう、自分の好きなようにやるためにこうやってるんだとも言ってましたが、そういい切れるって凄いですよね。
国から金もらうようになっちゃ、おしまいだ!とも。
まだまだがんばってもらいたいのですが、あの姿を見たら、まだ当分大丈夫だろうなあ・・・と感じました。
寺島さん! (KON)
2010-08-23 13:46:39
長らくお会いしたい女優さんだった寺島さんに今回ついに!そのお姿は毅然とした美しさに満ちていました。媚びない立ち振る舞いは想像通り、そしてあのすっとした膝!素敵!
映画は、監督さんが思い描く全てを映し出した、とても誠実な作品だと思いました。寺島さんの熱演はそれに全て応えていたと思います。
そして、久蔵役の大西さん!あの難役をよくぞ・・。体の不自由さ・男としてのどうしようもなさ、つのる恐怖を主に目で饒舌に語っていました。夫婦2人の時々距離が近づく瞬間も強く伝わってきました。戦争はもちろん、それと同じくらい夫婦・人間についての映画ですね。
色々物議を醸す作品ではありますが、私は単純に好きです。人間が好きでなければこういう映画は撮れないような気がします。
寺島しのぶさん♪ (mezzotint)
2010-08-23 21:07:35
わあ~サインですか!
いいなあ~♪こちらでの舞台挨拶は
何と大きな大阪市中央公会堂に100人。
なもので、サインなんか到底無理(涙)
最前列をゲット出来ただけでラッキー
って感じでした。私もずっとファンだった
寺島さんに会えただけで感激でした。
銀の熊ちゃんも見せてもらいました。
若松監督は予想以上の多くの観客に
大変感動されておりました。個人での
独立プロでの活動はかなり御苦労もある
そうなので、集客率が多いことで良かった
と思います。私も一冊購入しました。
寺島さんが、今後も監督とタッグを組み
たいとおっしゃっていたのが印象深いです。
モンペも似合うけど、素顔の寺島さんも
素敵ですよね!
>KONさま (sakurai)
2010-08-24 07:57:21
ほんとに寺島さんには、オーラがありましたね。
並みの女優さんとは、一線を画していると肌で感じました。
監督の描きたいもののパワーに対して、それを受け止めることができる役者の存在がとっても重要なんだろうな・・・と感じます。
それを見事に受け止めて、ぶちかました!ってう風かなあ。あの受賞も納得ですね。
予告でみた、トロフィー持って、「見たか!」みたいな勝利の表情が好きです。あの表情が許せる数少ない人だなあ・・・と。
大西さんも、すごかったですね。
入り込み過ぎる役者さんだそうですが、そのキャラが見事でした。
あたしも好き!と大きな声では言えませんが、好きです。
>mezzotintさま (sakurai)
2010-08-24 08:20:42
いや、あたしもサイン会なんて柄じゃないんですが、前売り券を早々に買って、サイン会も余裕に整理券を取れたんで、いただきました!
いやーー、よかったです。
ぶしつけなお願いもこころよく聞いていただきまして、感激でございました。
一応若松監督もよいしょしてきましたよ。

あたし、監督の名前を大仰に出すのは、あんまり・・・と思っているのですが、若松監督は別格。
このくらいの確固たる意志を持った人ならわかるんですが、しようもない映画で、最後の最後に自分の名前を大きく出したり、止めたりする人には、ぜひこういう映画を見ていただきたい!と思います。
sakuraiさん (xtc4241)
2010-08-25 11:19:08
こんにちは(いま8月25日11:05頃です)

はじめてコメントします。
キャタピラー、まだ観てません。
若松監督の映画では「連合赤軍」を観ました。
そのなかで、主人公が自己批判しろと言われて、
自分の顔をぼこぼこに殴りつけるシーン、そして、
その無残な主人公の顔がいまでも僕の頭に焼き付いています。
とても、リアルな痛さが伝わってくる映画でした。
若松監督の映画は人間の見てはならない残酷さや、
愚かさについて過酷に突きつけてくるといった感じです。
僕はいままで、たじろいでいましたが、この「キャタピラー」、
sakuraiさんのブログで、観ようと思い直しました。
「カティンの森」と同様に、怠惰になっている僕の感性にカツを入れてくれると思います。

観たら、もう一度訪問するかもしれません。
>xtc4241さま (sakurai)
2010-08-26 22:22:09
こんばんわ。
コメントありがとうございます。
「実録 連合赤軍」の中でも、あのシーンは強烈でしたね。
とことん役者を追いつめて、彼らのうちから何かを引き出そう・・・という気持ちが伝わってきました。
なんでしょうねぇ。戦争の愚かさと、あの狂気が生み出した唾棄すべきもの。そして戦争はいつまでも終わらない・・。私たちに、何ももたらさない。そんなことを思わせる映画でした。
ぜひ、ご覧になってください。
Unknown (ケント)
2010-08-28 16:34:43
映画創りっていうのは、そもそも道楽ですから。映画会社がいくつか潰れたのも、そもそも不動産バブルの余禄がなくなったからですからね。
そう言う意味では、バックボーンのない若松さんはよく頑張っていると思います。
直接関係ないけれど、「赤目四十八瀧心中未遂」実に素晴らしい映画でしたな。
>ケントさま (sakurai)
2010-08-30 20:25:44
若松監督の映画って、内容はもちろんなんですが、その心意気に応援したくなる!という気持ちになります。
そう思わせる数少ない監督さんになってしまいましたかね。
おぉぉ!「赤目・・」ご覧になりましたか!
あれは素晴らしかったですよね。
あのときも監督さんにお会いできたんですよ。
あの時から、寺島さんってすげーーと感じた次第です。

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