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アマデウス ディレクターズ・カット

2003年07月19日 | あ行 外国映画
ある夜、一人の老人が自殺を図った。病院に担ぎ込まれたその人はアントニオ・サリエリ。かつて、ウィーンで一世を風靡した作曲家。自分はかのモーツァルトを殺したと言い張っている。一命を取り留めた彼のために神父がやってきた。そして、老人は話し始めた。自分の壮絶な過去を。

かたや音楽の天才、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト。幼い頃から神童振りを発揮し、天才作曲家として活躍していた。一方、凡庸なる人々の代表、アントニオ・サリエリ。サリエリはモーツァルトの曲を誰よりも評価し、その才能に憧憬の念を抱いていた。しかし、実際のモーツァルトは猥雑で下品で幼稚な唾棄すべき男だった。誰よりも音楽を愛していると自負するサリエリにとって、なぜ、神はあのような男に才能を与えたのかと呪った。凡庸な自分に与えられたのはその才能を理解する力だけ。

憧れと尊敬は、軽蔑と憎しみに変わった。サリエリの周到な計画がはじまった。

おなじみ、84年にアカデミー賞8部門受賞したアマデウスに、未公開シーン20分を付け加えたディレクターズ・カット版だ。数えてみると、今から20年近くの前の作品なのだが、古さは一切感じられない。初めて見たときの衝撃そのままでよみがえった。トム・ハルスと妻役のエリザベス・ベリッジにはその後、あまりお目にかかっていないが、これほどのはまり役はなかったのだろう。

昔のヨーロッパの何が面白いかって、汚さと猥雑さ、これに尽きる。改めて見ると、何ともいえない汚らしさが私をひきつけるのかもしれない。何度見ても面白い。しかし、新たな発見をしないといけない。未公開シーンはモーツァルトの人物像を膨らませる役目を果たしてはいたが、大きなウェイトを占めていたのはコンスタンチェ。童顔に不釣合いな大きな胸。そのアンバランスな面白さに目を奪われたが、なんだこんなシーンがちゃんとあったのね、と納得させられた。不世出の天才の妻だったという自覚一切なし。この妻にしてこのモーツァルトありだったのかもしれないと改めて感じた。

真の天才モーツァルト。その才能は天賦のものだった。貧乏暮らしをし、世間の人に受け入れてもらえず、妻にも見放された人生。でも、彼は彼の役割を果たすために生まれ、そして死んでいった。彼の音楽をこの世に生み出すため。私の勝手な解釈だが、彼にとって貧乏なんてそんなに苦であったとは思えない。曲を作り上げることが彼にとって生きることだったのではと思う。その周りを一人、おろおろしていたサリエリ。凡人の私も彼の気持ちが痛いほどわかる。うーーん、不朽の名作は、やはり、名作だった。

「アマデウス ディレクターズ・カット」

原題「AMADEUS Director’s Cut」 
監督 ミロシュ・フォアマン
原作・脚本 ピーター・シェーファー 
出演 F・マーリー・エイブラハム トム・ハルス 2002(1984)年 アメリカ作品


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