迷宮映画館

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歩いても 歩いても

2008年09月24日 | あ行 日本映画
ダイコンのきんぴら、枝豆とみょうがの寿司ごはん、じゃがいもサラダ、トウモロコシの天ぷら、豚の角煮、白玉・・・・・どれもおいしそう。。。
音がいい。しゃきしゃきとみょうがを切る音に、てんぷらのはじける音。

あれもこれも作りたい。たまに来る家族に、食べさせたい。多いかもしれないなんて構わない。せっせと作る母の姿が痛いほどにわかる。

今日は、15年前に死んだ長男の命日。出来の良かった長男になにかと比べられてきた弟と、明るい姉の家族が一年に一度、自然と集う日になっていた。

弟はいまだに権威を振りかざしてしまう父親とは、折り合いが悪い。自分は失業中の身、子連れの女性と結婚をして、なんとなく居づらいのだが、今日ばかりはそうも言ってはいられない。

せっせとご馳走を作って、何かと気を使う母だが、時折毒を吐いたり、とげが出てくる。でもそれくらい許してもらって、何が悪い。外に出て働いたことなどありません。夫の浮気もちゃーんと知ってますが、文句の一つも言いませんでした。大事な長男亡くしても、恨み言もいえない。でも、そうやって生きてきた。

旦那は昔の人。愛想もないし、「先生、先生」と言われて、尊敬されてきた。いまさら回りにあわせる気もないし、それをする術も知らない。だったら、無調法だと言われても、自分の城にこもっていたほうがいい。

そんな年寄りの夫婦の家に集った家族の一日を淡々とたどる。

もう、どれもこれもわかりすぎるくらいにわかる。私の両親は、家に二人で住んでいる。祖父が亡くなって14年ほど経つので、それからずっと二人だ。商売をやってた母は外交的で外面のよさはぴか一だ。たまに帰ると、ご馳走作ってあれやこれやと迎えてくれる。

一方、父は田舎の先生様で、権威が大事で生きてきた。コンビニの袋提げて歩くなんて、かっこ悪くてできない・・・。はずだったが、退職してから買い物袋提げて歩いているのを見て、人間変われば変わるもんだと、思った。

口下手で、無調法で、愛想もなく、いまさら愛想振りまくのは勿体無いかして、とっとと自分の部屋に引っ込んでしまう。私は昔から父親と居るのは苦手だったが、子供たちは(父にとっては孫たち)うるさく言わない父の周りで、ぐだぐだゲームをしたり、漫画本を読んでるのが、実家に行った時の風景だ。周りにたむろしている孫たちをうるさがりもせず、穏やかな顔をしている父を見ると、自分の知ってる父ではない・・・と思ってしまう。

わたわたと過ごして、さっさと引き上げてくるが、「お前らが来ると、調子が狂う」とか、「うるさくてかなわん」とか言いながら、帰り際に必ず「また来い」と一言言う。

さーっと潮が引いた後、二人がどんな風に過ごすのかはわからないが、静かに、静かに過ごすんだろうなあ。

ごく普通の、何のとりえもない、これと言った面白い逸話もなさそうだが、それでも十分に生きてきた70有余年。父と母の姿と重なって仕様がなかった。

◎◎◎◎

『歩いても 歩いても』

監督・原作・脚本 是枝裕和
出演 阿部寛 夏川結衣 YOU 高橋和也 田中祥平 野本ほたる 林凌雅 寺島進 加藤治子 樹木希林 原田芳雄 田中智也 田中啓介 工藤美友里 田村光弘 高橋義治 堀江ゆかり


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10 コメント

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歩いても・・・♪ (圭一朗)
2008-09-27 05:53:23
 落ち着いた 心に沁みる映画でした。

僕も 亡くなった母のことを思い出してしまいました。
家族が帰ってくると 余るほどいっぱいご馳走をつくって 笑顔で迎えてくれました。
父親は どこもそうですかねぇ・・・
でも 本当は 仲間に入りたいんですよ。

 飲み会で、「歩いても~♪」と歌ってしまいました。
>圭一朗さま (sakurai)
2008-09-27 12:17:55
何がどうした、劇的なことが起こった、、、というわけでもないのですが、なんかいろんなことがよくわかる、うんうんと頷いている自分がいました。
よくできてたと思います。
監督の意図するところを樹木希林が、見事に表わしていたと思います。
やっぱ父親はそういうもんですかね。
なんといっても樹木希林! (mezzotint)
2008-09-28 00:20:01
sakuraiさん
今晩は
樹木希林のお母ちゃん、ほんまにいいですよね。
漂々とした感じで、ぐさりと鋭い言葉を吐く。
嫌みなんだけど、嫌みじゃない(笑)
こんなお母ちゃんいますよね。きっと彼女も
普段こんな感じなのかな?なんて思ったり。
娘役のYOUとの掛け合いも良かった!
そしてこの作品を作った是枝監督も素晴らしい!
何気ない日常の風景を撮るのは至難のわざかも
しれませんね。
>mezzotintさま (sakurai)
2008-09-29 08:26:39
ここまでやってきたんだから、文句の一つを言ってもばちあたんないべ、と。
いや、ばちなんか怖くもない。閻魔さまの前でも、ちょっといやみで、さらっと毒を吐きそうですよね。
後ろの方で見てたおばちゃんたちに、やけに受けてましたよ。
監督の独特の作りは、いつも目を引きますが、これは秀逸でした。
お寿司は枝豆とみょうがだったんですか (あるきりおん)
2008-10-23 21:23:26
私もこんな風に「おばあちゃんち」で過ごしていました。そんなことを思い出しながら見てました。
sakuraiさんの文章を読んでいたらまた角煮が食べたくなりました。
週末は実家に帰ろうと思います^^;
>あるきりおんさま (sakurai)
2008-10-23 22:28:21
あの映画見たあと、一度やりました。
枝豆とみょうがごはん。夏の終りの味がしました。
今度は角煮を作ろうかな。
親の顔が見たくなる映画でしたね。
Unknown (Bianca)
2008-12-15 22:08:11
どこの親もこの通りなんでしょうか?私の家は父と母が入れ替わっていて、母が無愛想なんです。ご馳走を並べるどころかお茶さえ入れてくれません。映画のこんな父親を許す母親は二人で一組になっています。父親がうっとおしいのなら、母親はそれを助長しているのでしょう。そして自分ひとりでいい子になって、子供たちの人気を独り占めする。ずるい女だと思います。
>Biancaさま (sakurai)
2008-12-16 08:45:04
いろんな見方があって、おもしろいですね。
やっぱ頭に思い浮かぶのは、自分の両親でしょうかね。母親なんてずるいもんですよ。
いまどきの友達親子のような関係もいいのかもしれませんが、怖くて近寄れない父親・・というのも懐かしい気がします。
良かった・・ (メル)
2009-02-01 10:48:24
これまた良い作品に出会えて嬉しかったです。

私もsakuraiさんのように、両親に重ねてる部分がありました。
あのラストのバス停に見送りに来てくれてる図。
たまらなくて涙が出そうでした。
あ~・・こんな風にお見送りにきてくれてたよなぁ~・・とか、もうそりゃ様々思い出しました。

一つ一つのエピソードというか会話に、それぞれ自分の思いを言いたくなるような気持ちになりましたし
それだけ”あるある””わかる”というところが
あったんだと思います。
sakuraiさんが書いてらっしゃるように、どれもどこも
わかりすぎるくらいにわかる、という映画でした。
嫁の立場になったり、あの次男の立場になったり
娘の立場になったり。
人間の優しさと温かさや毒の部分もしっかり
見せてもらったし、あ~~もうたまらん!ってなもんでした。

会話で状況を説明してたわけじゃないのに
すっかり横山家のことがわかる・・
素晴しい脚本と演出だったと思います。
良い映画でした~。
>メルさま (sakurai)
2009-02-01 20:38:59
口うるさくて、コマネズミのように働く母と、無調法で、権威をかざして、融通の利かない父親。
まるでうちの両親を見ているようでした。
でも、あの年代の人たちは、大概がみんなあんなもんですよね。

なんであんなに、気持ちの表わし方がうまいんだと、癪に障りながら見てましたよ、もう。
あったかい部分もありましたが、今思い返すと、毒の部分ばかり思い出しちゃいます。
やっぱそっちの方がインパクトありますよ。
是枝監督の作品の中では傑作だと思います。

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