迷宮映画館

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セデック・バレ

2013年05月23日 | さ行 外国映画
日本が台湾を植民地にしたのは、日清戦争が終わった後。1895年のこと。明治維新のあと、なんとか世界に追い付け追い越せ、まずは人並みに(?)憲法の制定をせねば!!と焦ったのがそのちょっと前のことだ。国としての体裁を保つために、まず憲法を!というのではなく、とにかく不平等条約を何とかしたい。あのペリー来航から始まった半人前としか扱ってもらえない状況を何とかしたい。そのためにまず憲法を!といわれる。

しかし、そう簡単に条約を撤廃はしてくれない列強たち。何としてでも存在感を見せつけなければならない。そこで起こった日清戦争は格好の事由だ。すでに清は末期状態で、ひとけりで崩れそうな体たらくだったが、列強は最後のひとけりを日本にやらせたようなもんだ。

勝った!!勝ってしまった。明治政府最大の功績だったかもしれない。なによりそれは不平等条約の大きな柱の一つ、領事裁判権の撤廃につながったのだ。その結果、割譲された台湾は、なんとしてでも制圧しないとならない。清を負かした日本が、台湾の島一つ制圧できずにどうする。そこにあったのは、名誉?誇示?いや、意地だ、きっと。

資源があるとか、領土として大事だとかの現実的な問題ではなく、あるのは面子以外の何物でもない。でもそれこそが一番のモチベーションであり、一番厄介なものかもしれない。

当然ながら、大人しく日本の勢力に入るはずもない。勝手に戦って負けた清のあと始末を、なぜに自分たちが被らねばらないのか。この時の日本軍の進軍に抵抗し、ありったけの力で抵抗したのが台湾の原住民、セデック族だった。台湾高地に居住していた彼らは、険しい山をひょいひょいと駆け抜け、あっちからこっちへと、まさに縦横無尽。動物を狩り、それぞれの民族のテリトリーがあって、男たちは戦いぬく。敵の部族と戦い、敵の首を狩る!その名の通りの首狩り族である。

やばい。ちょっとばかり心の準備が足らなかった。あたしは何が苦手って、ホラーは全般にだめだけど、首と目がどうのっていうのが、どうしてもダメなのですが、いやーーーー、まじめに首が飛びます。見事・・・。それが大人の儀礼で、首を取って一人前と。その文化は文化(?)として尊重はしますが、男の社会なんだなあ、つくづく。それは狩猟民族だから当たり前のことなのですが、つい100年くらい前まで、あの台湾でごく普通に首を狩るというようなことをしていたんだ!にちょっとビビります。

いや、知らないはずがなく、以前に台湾に行った時、『台湾原住民博物館』に行ってきて、見ました、はい。見たはずです。ビビった覚えがある。確か、案内を取っておいたと思って、捜したところ、ありました。



ただし、簡単なリーフレットだったので、展示の詳しい内容はありませんでしたが、見たのはしっかと覚えてる。なんとも複雑な気持ちになったことを思い出しました。その展示の中に、この【霧社事件】について、あったかどうかまでは、残念ながら失念です。

とりあえず、そこはそっちにおいて、さて映画。この時の日本軍の侵攻に、とことん戦いぬくセデック族の男たち。勇猛果敢に戦うのですが、戦場となっているのは自分たちの庭みたいなもん。圧倒的な日本軍の重火器に身一つで立ち向かっていく姿は、やられてるのが日本人だとしても、カッコいい。いや、神がかった強さに見えてきます。

しかし、日本軍も負けてない。いくら潰しても潰しても、どこからか湧いて出てくるのです。。。虫か・・・。結局、圧倒的な力で屈してしまうセデック族。日本は、ようやく面子を保ったのでありました。

セデックの中でも、特に激しく抵抗したのがマヘボ社のモーナ・ルダオ。絶対に屈しない!という強い意志が目に宿ってます。しかし、彼とてもやはり負けを認めざるを得ない状況に追い込まれてしまうのでした。そして、日本軍がやったことは、彼らの勝利の象徴である骸骨を葬ること。相手の尊厳をくじくことが支配する!と言うことなんでしょうか。

時代は下って1930年。日本の統治もかなり進んで、町並みはどことなく日本風。セデック族の人たちも日本人と話すときは、日本語を器用に操ってます。日本の名前で名乗る原住民もいれば、原住民の妻をめとってる日本の兵隊も普通にいます。

当然ながら日本の駐在は慇懃、不遜、横暴を絵に描いたような人たちばかり。中には現地の人と平等に接し、理解を見せる者もいたが、それはごくごくわずかなのですが、やはり価値観はその他大勢の日本人とそう変わらないのでした。

表面上は平和に見えても、不満と抑圧は、たまりにたまって、セデック族を立ち上がらせようとするのです。しかし、血気にはやる若い連中には、戦い方も、刺青もない。あごと額に入れられた刺青は、戦う男の証。静かに状況を眺めていたモーナは、今までの秘めた思いを全てぶちまけるようにして、立ち上がるのでした。



狙われたのは近隣住民がほとんど集まる運動会。。。子供も女性も容赦なしに惨劇の犠牲者となったのでした。ここはどうにかなったんじゃないかと思うのですが、やはりやむをえなかったのか・・。最初の奇襲は成功しましたが、あとは追いつめられていく一方。いや、そうなることも充分わかってたはずで、滅びゆく人々の名誉ある戦い、民族の誇りをかけての死に向かって行くのです。

そして、それを見送る女たちの末路がまた悲しすぎる。男たちに憂いを残さないためか、少ない食べ物を確保するためか、次々と自決していきます。

負けを承知で、圧倒的な力に立ち向かっていく姿を見ながら、15年後の沖縄の戦いを思い浮かべていました。民族の誇りをかけて絶望的な戦いをするのと、本土の捨て石となり時間稼ぎのために戦わされたのとは違う!と言われそうだが、いろんな面でかぶってしようがなかった。幾度も戦い続ける人間たちの悲しさだです。

前編後編あわせて4時間半以上。時間と気持ちがなければ、なかなか見るのが難しい映画ですが、台湾の方々も、詳しくは知らないという【霧社事件】、反日がどうのというより、敵は誰にしろ、自分たちの民族の誇りをかけて戦った人たちがいた!ということと、そのことをなんとか知らそうとした、残そうとした、刻もうとした!ということが大事だったんではないでしょうか。私はそのように見ました。

親日である台湾の人々、一方でこんなむごい歴史も刻んできている。それを包括しながら今と、これからをいかに生きるべきか、どうしたらいいかということをよーく知ってる国なのかもしれません。

あまり日本の映画に出ない安藤君が複雑な役でお出まし。もっと日本の映画にもでほしいなあと思う今日このごろ。



何と言ってもモーナ役のリン・チンタイといわれる方の存在感が半端なかったです。本業は牧師さんだとか。いやーーー、あんな方にお説教してもらったら、絶対に聞くだろうなあ。戦いの場面の迫力にビビりながら、ちょうど怒涛の攻めの時に地震が!!!ますますビビってしまいました。リアル4D!!

ほかにもいろいろと言いたいことがありすぎて困る作品でした。この辺でやめときます。援助をした方々の名前がエンドでずらっと出てくるのですが、一番ど真ん中に周杰倫のお名前発見!やっぱね。

◎◎◎◎

「セデック・バレ」

監督 ウェイ・ダーション
出演 リン・チンタイ ダーチン 安藤政信 マー・ジーシアン


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4 コメント

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Unknown (ふじき78)
2013-05-25 01:36:07
日本人は悪役でしたが、こんな人いただろうなというリアリズムで全く抵抗がなかったですね。

ボンクラとしてはビビアン・スーちゃんをもうちょっと見たかった。
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>ふじき78さま (sakurai)
2013-05-30 18:49:53
いろんな面で納得が入って、どっかの国が作る、とんでもな日本もなく、一層納得させられました。

一瞬、加藤ローサ?かと思いました。
似てませんか?
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観たよー (rose_chocolat)
2013-07-05 10:02:54
やっと書きました。これだけ重たいと書くの大変だった。
でも、観てよかったと思いましたね。
というか、これはつべこべ言わずに観ておくべき作品です。
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>rose_chocolatさま (sakurai)
2013-07-12 15:30:30
見られて、何よりでした。
いくら気持ちがあっても、これだけの長尺だと、物理的にも大変ですもんね。
パワーあふれる作り手の気持ちをしっかと受け止めることができました。
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