さいかち亭雑記

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北原白秋『白南風』 近代短歌鑑賞

2017年05月27日 | 近代短歌
朴の花白くむらがる夜明がたひむがしの空に雷はとどろく
  ※「朴」に「ほほ」、「雷」に「らい」

二句目「白くむらがる」ということばで、花の盛り上がるようにかたまって咲く感じが伝わってくる。「夜明けがた」のまだ薄暗い一時、朴の木の生えているあたりだけがぼうっと白くあかるく見えている。その場の荘厳さをきわだたせるかのように雷鳴がとどろく。自然が「私」に挨拶をしているかのようである。

生けらくは生くるにしかず朴の木も木高く群れて花ひらくなり
 ※「木高く」に「こだか」

「生けらくは生くるにしかず」とは、どういうことか。生きているもの、命あるものは、生きるより以上のすばらしいことはない。こんなにも生命の輝きに満ちている存在と出会うことができるのだから。「朴の木も」の「も」という助詞は、生命は、命あるもの同士身を寄せ合って、一斉に同じよろこびの歌をうたうのだ、というような意味を持っているだろうか。「生けらくは生くるにしかず」。生き難い思いをかかえて生きているから、こう言うのである。

光発しその清しさは限りなし朴は木高く白き花群
 ※「発」は「さ」、旧字。「朴」と「木高」、「花群」に「はなむら」

みずから光を発するかのように、陽光が射して、花が光った。その瞬間を見ている。「その清しさは限りなし」。清らかな花のうつくしさである。

    木俣修選 新潮文庫『北原白秋歌集』(昭和三十五年三月刊)


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