さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

岡村桂三郎展 異境へ

2018年05月09日 | 美術・絵画
 平塚市美術館の岡村桂三郎展を見て来た。天井まで届くような大きな板のパネルが並んだ洞窟のような展示空間である。お寺の境内にいるような、また山中に正座しているような気分にさせられて心地いい。身長の三倍はあるかと思われる大画面が、屏風のかたちに並んで置かれており、美術館では懐中電灯を持って子供達と探検する催しも開かれているとあった。

 その画面は、貼り上げた杉板を下作業としてバーナーで黒焼きし、その上に日本画の岩絵の具を塗りこんでから彫り上げるという作業を繰り返して作り上げられている。モチーフとなっている巨大な龍や霊獣や大魚の鱗、さらには超越的な第三者の「目」が、数えきれないほどたくさん散りばめて画面に彫り込まれており、呪術的であると同時に聖性を感じさせる画面は、ダイナミックで力強い。

 タイトルをカタログから書き写してみる。群山龍図。百眼の魚。地の魚。龍ー出現。龍ー降臨。白象図。渦巻く。降り注ぐ。夜叉。南冥の鳥。北溟の鳥。瑞魚。海神。陵王。地神龍。眠蛸。五部浄。百鬼。北溟の魚。迦楼羅と龍王。迦楼羅。

 何か非常に詩的な感興をそそられるものがあると感ずる。ほかに初期の作品が数点展示されていたが、『荘子』の神話世界や、インドの神話にでてくる聖獣のようなものがタイトルとなっていることがわかる。迦楼羅(かるら)は龍を食べる鳥である。作家は地水火風とお経のようにとなえながら鱗や目を彫っていたのではないだろうか。手作業の跡は徹底的に即物的であり、表現されているものは霊性・聖性という空気である。
 
 数日前にNHKの映像で深海の動物たちの様子を撮影したものを見た。岡村桂三郎は映像のような極彩色を用いずに、現実の深海魚をも絵に描いてしまっているのだと今思った。


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