時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百八十六)

2011-11-03 07:45:58 | 蒲殿春秋
義経の前に現れたのは新宮十郎行家である。
行家は西国の平家との争いに敗れた後、畿内のあちらこちらに潜んでいた。
この行家が意外な事を言った。

「この反乱には小松系の人々が関わっている」と。
義経はこの叔父の言葉に反応した。
小松系とは亡き平重盛の一門である。平家一門であるが、時子を母とする平宗盛らとは常に一線を隔したところにいた。
その小松系の二人は紀伊国のある所にいた。
「いよいよ決起したな。」
「はい。」
「うまくいくか?」
「多分」
平維盛、忠房の兄弟の会話である。

「まず伊賀国で平田家継らが兵を挙げました。家継、家清も与同しましょう。
伊勢の平信兼もわれらが味方です。それから、忠清法師も間もなく兵を挙げます。」
「さようか。」
「伊賀のものたちは吾等小松家の家人です。義仲を討ち果たすのに一時鎌倉と手を結びましたが、
あくまでも彼等の主は吾等が小松家・・・」
兄弟は顔を見合わせた。

「今がときです。」
と忠房は言う。
「今月にも都では即位の式が行なわれます。この即位の式の前に都を制圧すれば屋島の帝が正しき帝となりましょう。」
「さよう。それでなくても都の帝は神器をお持ちにならぬ。屋島の帝こそ正しき帝。」

「西国の動きはどうか?」
水軍の長らしき男に維盛は問う。
「鎌倉のものどもが播磨、備前備中におりますが、屋島の方々に与する者どもが
鎌倉方をかなり追い込んでいるようです。
上手く行けばまた福原を奪還できるやもしれませぬ。」
「西国の方々は西国にお任せして吾等は都を目指す。
そして西国の方々に恩を売ろうではないか。」
「さよう、都を取り戻すのは吾等。二位尼一門だけが帝の守護者でない。
都に戻った暁に入道相国様の跡目を継ぐのは吾等小松一門よ。」

「東国は?」
「義仲に与していた井上太郎という信濃の住人がおります。かの男は信濃に顔が聞き坂東の者達にも知己が多いといいます。
この井上太郎が現在東国に向かっています。」
「なるほど」
「上手くいけば鎌倉方の何人かは切り崩され吾等が元に来るやもしれませぬな。」
「そうじゃな。」
「特に伊豆は我が父の荘園が多く我が小松一門とのつながりが深いものがありますしな。」

暗い室内の中兄弟の密談は進む。

一方都の義経は叔父の言葉を聞き何かを必死に探ろうとしている。
この叔父行家は紀州熊野の出身である。

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