法住寺合戦の直後、院に仕える二人の北面の武士がその頃伊勢にいた九郎義経の元に現れた。
その武士達は合戦の模様を詳しく義経らに伝える。
その報告を聞いた義経はその北面の武士に礼をつくしてもてなし、その後彼等を鎌倉の頼朝の元へ郎党をつけて送った。
鎌倉に着いた北面の武士は合戦の内容を詳細に頼朝に伝える。
両者は侍所のすぐ隣の間に招かれた。頼朝と院北面との間で交わされる話の内容は侍所に詰める多くの御家人達によく聞こえるようになっている。
頼朝は熱心に二人の話しに聞き入る。
「では、院は義仲を遠ざけようとお思召しであられたのだな。それを知った義仲が兵を率いて院御所を襲い、院近臣に狼藉を働き、高僧を殺し、院を閉じ込め奉った、と。」
と頼朝は問う。
「さようにございまする。」
「では今、院の御身は」
「五条におられまする。おん身はに障りはございませぬ。けれども都は義仲の武の力によって抑えられておられますゆえ、院は何ひとつ義仲の意向には逆らえませぬ。退けるはずだった義仲の意のままにされねばならぬとは・・・」
「おいたわしや。」
そういって頼朝は大げさに嘆いた。
「院は今は何一つご自身の思し召しが通らぬようになっておられるのですな。」
と頼朝は再び問う。
「その通りでございます。」
「では、この先どのような院宣が出されようとそれは院のご意志ではない。」
と頼朝は大きな声で言う。
「その通りです。」
と院北面は再び答える。
「では、義仲が都にはびこっている間に出される院宣は院のお心から出たものではない。
従って、その院宣には何も従うことは無い、ということなのだな。」
と、頼朝の直ぐ側に控える梶原景時が頼朝よりも大きな声で話す。
この景時の声は隣の間に控える多くの御家人達の耳に入ったはずである。
「ああ、それにしても嘆かわしい。
院御所が荒々しい木曽の者に荒されて、院がそのような狼藉者の手の中に落ち
あまつさえご本心ではない院宣を出すことを余儀なくされるとは。」
頼朝はわざとらしいほどに大げさに語る。
「ああ、なんたること。治天の君たる院にこのようなことをしでかすとは。
義仲は逆臣よ。謀反人よ。」
そう言ってから頼朝は北面の顔をまじまじと眺める。
「いずれ、院をお救いしなければなりませぬな。」
頼朝の真剣な瞳に北面の二人は吸い込まれる。
「さよう。」
思わずそのように返答する。
「そして院をお救いするのはこの頼朝、そして鎌倉につどうもののふ達。」
「さよう、院もきっとそのことをお望みでしょう。」
頼朝の言葉に思わず院北面はそのように答えてしまった。
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その武士達は合戦の模様を詳しく義経らに伝える。
その報告を聞いた義経はその北面の武士に礼をつくしてもてなし、その後彼等を鎌倉の頼朝の元へ郎党をつけて送った。
鎌倉に着いた北面の武士は合戦の内容を詳細に頼朝に伝える。
両者は侍所のすぐ隣の間に招かれた。頼朝と院北面との間で交わされる話の内容は侍所に詰める多くの御家人達によく聞こえるようになっている。
頼朝は熱心に二人の話しに聞き入る。
「では、院は義仲を遠ざけようとお思召しであられたのだな。それを知った義仲が兵を率いて院御所を襲い、院近臣に狼藉を働き、高僧を殺し、院を閉じ込め奉った、と。」
と頼朝は問う。
「さようにございまする。」
「では今、院の御身は」
「五条におられまする。おん身はに障りはございませぬ。けれども都は義仲の武の力によって抑えられておられますゆえ、院は何ひとつ義仲の意向には逆らえませぬ。退けるはずだった義仲の意のままにされねばならぬとは・・・」
「おいたわしや。」
そういって頼朝は大げさに嘆いた。
「院は今は何一つご自身の思し召しが通らぬようになっておられるのですな。」
と頼朝は再び問う。
「その通りでございます。」
「では、この先どのような院宣が出されようとそれは院のご意志ではない。」
と頼朝は大きな声で言う。
「その通りです。」
と院北面は再び答える。
「では、義仲が都にはびこっている間に出される院宣は院のお心から出たものではない。
従って、その院宣には何も従うことは無い、ということなのだな。」
と、頼朝の直ぐ側に控える梶原景時が頼朝よりも大きな声で話す。
この景時の声は隣の間に控える多くの御家人達の耳に入ったはずである。
「ああ、それにしても嘆かわしい。
院御所が荒々しい木曽の者に荒されて、院がそのような狼藉者の手の中に落ち
あまつさえご本心ではない院宣を出すことを余儀なくされるとは。」
頼朝はわざとらしいほどに大げさに語る。
「ああ、なんたること。治天の君たる院にこのようなことをしでかすとは。
義仲は逆臣よ。謀反人よ。」
そう言ってから頼朝は北面の顔をまじまじと眺める。
「いずれ、院をお救いしなければなりませぬな。」
頼朝の真剣な瞳に北面の二人は吸い込まれる。
「さよう。」
思わずそのように返答する。
「そして院をお救いするのはこの頼朝、そして鎌倉につどうもののふ達。」
「さよう、院もきっとそのことをお望みでしょう。」
頼朝の言葉に思わず院北面はそのように答えてしまった。
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