時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(百十六)

2007-03-03 23:02:02 | 蒲殿春秋
国境において文をしたためていた安田義定に甲斐国石和御厨に来るようにとの
武田信義からの使者が来た。
義定は範頼らを連れて石和に向かった。
九月二十四日、石和に甲斐源氏の面々が終結した。

近く正式に追討軍が進発するとの知らせが甲斐にも伝わった。
近く、東海道に追討軍は必ず現れる。
それに対してどのように対処するかの軍議がこらされるらしい。

範頼はその軍議に加わることはできない。
群議の間一日中石和の館の中でその身を持て余すことになる。

そしてもう一人身を持て余しているものがいる。
本来武田信義の嫡子であったはずの武田有義である。
彼は今までの甲斐源氏内の優位が全てを失われ
一族に監視されている身となっている。
平家に最も近かった為、今まで平家の力を背景に威勢を振るっていたのだが
甲斐源氏が反平家の立場をとるようになっがゆえに、一転最も不利な立場に立たされている。
その時彼は自分の身の振り方に対して大きな選択を迫られていたのであるが
範頼はまだそのことを知らない。

軍議は一昼夜に及んだ。

軍議が終わって数刻後、安田義定が範頼の前に現れた。
多少顔に疲れの色が見える。

義定の話は次のようなものだった。
追討使が来るのを待つのではなく、まずはこちらから駿河に押し寄せて
駿河の河の東側のいずれかに陣を張り追討使を迎え撃ちたい。
その為にはまずこちら側から駿河に押し寄せて先に駿河を手に入れたい。
駿河を手に入れるのは甲斐源氏にとっての悲願である。
だが、駿河の目代は平家方であり、その目代に味方するものも未だに多い。
さらに、平家の追討使が来るということで今まで甲斐源氏に色よい返事をしていたものまで動揺が走り始めている。
駿河一国を手に入れる為には、甲斐源氏の力をほぼ総動員する必要がでてきてしまった。

しかし、そうなると他国境への備えが手薄になる。
信濃との国境は先の戦闘で甲斐源氏が南信濃を手に入れたので安心である。
だが相模・武蔵との国境が心配である。
国境を接していないものの甲斐に程近い上野の動向も気にかかる。
上野には平家に接近している藤姓足利氏が勢力を張っている。
平家の命を受けて所領のある上野に帰国した新田義重の動向も気にかかる。
武蔵は大小の豪族がひしめき合っているがそれぞれの動向はつかみがたい。
さらに武蔵において最大の勢力を誇り甲斐にも程近いところでも勢を振るう
秩父一族はどのようにでるのか。
甲斐の勢力を終結して駿河に出た場合、上野武蔵方面から攻め込まれる危険性は高い。

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