時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三十八)

2006-08-20 14:32:03 | 蒲殿春秋
遠い旅路の末に範季一行はようやく奥州の中心地平泉に到着した。
白河関を抜けてからも長い道のりであった。

みちのくと呼ばれ、都からははるか彼方と思われるこの地には
多くの魅力が秘められていた。

黄金、名馬、優れた武具・・・
そして、姿かたちは同じであっても
都では見たこともない衣を身にまとい
まったく通じぬ言葉を語るものも目にした。

範頼がもっとも心魅かれたものは馬であった。
日頃は何に対しても頓着しない範頼。
けれども、道中魅力的な馬を幾たびか目にすると我が物にしたいという
心の衝動にその都度かられた。

このような広大で豊かな大地。
ここに養父範季が自ら任地に赴いた理由が判ったような気がした。

平泉は見事な街である。
整然とたちならぶ豪壮な家々。
いたるところに黄金が散りばめられている。
都の繊細なつくりな建物とはまた違った魅力に満ち溢れている。

そして、そこをどうだといわんばかりに見事な馬が多くの荷駄を載せて
往来する。

豊かな大路の先の先に一目を引かざるを得ない見事な館があった。
そこがここ奥六郡を実質的に抑えている
藤原秀衡の住まうところだという。
その周りを取り囲むかのように彼の一族の館もある。

そして、彼らの建物に劣らぬりっぱな宿所が平泉の一角に準備されていた。

そこがここ数年国守や目代が住まう屋敷だという。
範季一行はその屋敷に入った。

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