時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三十七)

2006-08-01 05:09:48 | 蒲殿春秋
もう一つ範頼にはぜひ奥州において果たしたいことがあった。
それは、その地にいるという彼の今一人の弟に会うということであった。
「九郎」と呼ばれるその弟は十六になった年に
いままでいた鞍馬を飛び出して、奥州に向かったという。

今はもう十八になったであろう。
奥州に行く前にあの美しい九郎の母から「どうぞよしなに」と範頼は頼まれた。
はるか彼方のみちのくへ我が子が行くという。
もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。
母と子にとってはつらい別れであったであろう。
それでも、子は奥州へと旅立った。
旅立たせて後も母は我が子のことを案じ続ける・・・・

また、全成も密かに範頼のもとを尋ね弟の消息を知らせてくれと頼んできた。
母とは険悪になっても同腹の弟のことは気にかかるらしい。

そして、範頼自身もまた、まだ見ぬ弟に期待と不安を秘めて
奥州へ向かっているのであった。

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