欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

たまには雨に濡れるのもいい

2013-05-02 | une nouvelle
カフェを出る頃には雨が激しくなって、ひさしの下で男性は重たい空を眺めてる。
だれを待ってるわけでもないのに、なにかが起こりそうな予感。
すると、稲光が光って、声を出して飛び込んできたのは、雑誌を片手に持った女性。
気はずかしそうに男性にペコリ。
しばらく無言の時間が過ぎていき、やがて、天使がふたりに仕掛けを。
雷鳴がとどろいて、女性の手から雑誌が落ちて・・。
雨に濡れる雑誌に手を出したふたり。そして、顔を見合わせて。
雑誌にはブーケの特集が。
"お花、好きなんですか?"
"あ、いいえ、仕事で使うんです・・。"
激しい雨がふたりの緊張を解いていき・・。
話してみると、意外に近いところで働いていて。
共通の知人も見つかり。
"これからどちらへ?"
"今度の衣装に合わせた花を頼みに。
はじめて任された仕事ですから・・。"
"そうですか。わたしはあっちの方に、逆の方ですね。"
男性は雑誌を見ながら、
"雨には濡れましたが、その本で良い成果がでるといいですね。"
"ありがとうございます。"
"では、また・・。"
"はい"
男性は雨の中を走り去って・・。

雨が嘘のようにやんで、雲の切れ間から日ざしが。
街にたくさんのしずくの輝き。
花屋を出た女性はまぶしい日ざしを見上げて、先ほどの不思議な出会いを思い出す。
今でも胸に残る、あたたかいはげましの言葉。
なんだかいい風が吹きそうな、そんな予感を感じながら女性はいつものアベニューへと。
知らないうちにふたりを近づけた天使の演出。
雨上がりの明るさがふたりの胸に広がった午後、それは濡れた服と代償に。

ある若者が顔をさげて

2013-05-02 | une nouvelle
ある若者が顔をさげて歩いていました。
花屋の美しい色あいにも目をむけず、パン屋のおいしい匂いにもまったくそっけなく・・。
楽しいことが見つからない気持ちのまま歩いていたとき、街角でハンチング帽をかぶったアコーディオン弾きの老人に出会いました。
その音色に若者は立ち止まり・・。
まるで時を忘れたかのように聞き入っていたのです。
老人はこう尋ねます。
"お前さん、こんなおいぼれの演奏をよく聞いてくれるね。"
若者は首をふって、
"いいえ、とんでもない。夢も希望もない僕の心に灯をともしてくれたのですから。あなたの音色にはなにか気持ちが明るくなる魔法があるに違いない!"
"ふふ、そうなのかい"
老人は照れ笑いしながら、
"それはね、お前さんがひかれたのが、ワシの演奏というだけではないからだよ。
この曲は昔恋焦がれた女性にすべてを捧げた男の唄なんだ。なによりも恋を欲してるお前さんの気持ちが気をとめたんだな。"
老人はご満悦に演奏を続けながら、
"若者よ、恋をするんだね。
そうやって人生は華やかに豊かになりうるものなんだから。"