久しぶりに本を。 「野蛮な進化心理学」
原題 Sex,Murder,and the Meaning of Life.
ダグラス・ケンリック著、山形澄生・森本正史訳、白揚社 2014年。
たいへん読み応えのある、素晴らしい考えがたくさん詰まった、密度の濃い本です。
人の心に棲む殺人願望や浮気、偏見といった非道徳的なことも、母性愛や分かち合い、公正さといったことも、自然のプロセス、つまり進化によって育まれてきたのではないか、というのが進化心理学の考えです。88 p
動物たちもそれぞれの種で感じ方や集団行動の型を持っていますが、それも進化の産物でしょう。
遺伝学者ショーン・キャロルは、遺伝子の数が思ったより少ないこと、「その大半がゴキブリと人間といったかけ離れた種の間で共有されていることに驚きを隠せなかった」と書いているそうです。257p
私は、動物には精神がない、といった決めつけは誤りだと思います。サルはもちろん、いろいろな野生動物がかなり社会的な集団を作っています。心も、それぞれの種の生存と繁殖に有利なように進化してきたと考えてなんの不思議もありません。
それからすると、宗教もそうした心の進化の結果として生まれてきたのではないかと考え、研究が進められているそうです。212p
私は、宗教が道徳を規定するのではなく、ヒトが生存し繁殖するために有益な道徳が進化し、宗教が形成されてきたと考える方が妥当だと思います。そう考えたときに、宗教とくにイスラム教やヒンズー教が新しい人間道徳にマッチしたものに変わる可能性が出てくるのではないでしょうか。まだ数百年かかるかもしれませんが。
また著者は、自己は一つの自己ではなく、いくつもの下位自己があると考えています。知覚や記憶などの神経回路はそれぞれに異なっていることが分かってきましたが、自己というものも立場や相手関係によっていくつもの下位自己があり、情況によってそのどれか一つがその場の主導権を取って判断し行動する、と考えるほうが理にかなっていると主張します。116p 複雑な人間行動を理解するのに、たいへん参考になる理論です。
マズローの動機のピラミッドは、人間の動因を生理的欲求から自己実現に至る5段階で考えたものですが、著者はその上に配偶者の獲得、配偶者の維持、子育てという3段階を上乗せし、子育てを最上位の動因としました。子育て中の著者の実感から生まれたものでしょう。149p
また、力学における複雑系の理論を取り入れて、心理学に応用しています。256-257p
それによると、
1.多方向の因果関係
原因-結果は一方向ではなく、多方向で逆向きもある。
2.自然は自己組織化に満ちている
秩序はランダム性から自然発生的に生まれ、支配権力ではなく、集団の成員が単純で利己的なルールに基づいて行う局所的な相互作用によって維持される。
3.相互作する要素がごく少数しかなくても、とんでもない複雑性が生まれることがある。
著者は「文化・歴史・経済といった大規模なパターンは、集団を構成する各個人のそれぞれの意思決定相互作用をした結果として生まれてくる」 と主張します。「全てを監視するビッグブラザーなど存在しないし、一部の意思決定者が世界の行く末を握っているわけでもない」と。271p
これは少し楽観的すぎると思いますが、庶民こそが主役である、ということならば賛成です。
そしてこの本のまとめにはこうあります。
「人間は他の人間を支える網の目に組み込まれるようにできているのだ。」283p
「人間には、周りの人たちと固い絆を結んだときに気分がよくなるように設計されたメカニズムが、しっかりと組み込まれているらしい。」259p
これを読んであることわざが頭に浮かびました。
「情けは人のためならず」。今日では、人のためにならないという逆の意味に取る人も多いようですが、人のためではなく、自分のためなんだ、ということです。アメリカの最新の心理学者が、日本の古いことわざを裏打ちする学説を発表していることに、感じ入りました。
(わが家で 2018年1月28日)
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ダグラス・ケンリック著、山形澄生・森本正史訳、白揚社 2014年。
たいへん読み応えのある、素晴らしい考えがたくさん詰まった、密度の濃い本です。
人の心に棲む殺人願望や浮気、偏見といった非道徳的なことも、母性愛や分かち合い、公正さといったことも、自然のプロセス、つまり進化によって育まれてきたのではないか、というのが進化心理学の考えです。88 p
動物たちもそれぞれの種で感じ方や集団行動の型を持っていますが、それも進化の産物でしょう。
遺伝学者ショーン・キャロルは、遺伝子の数が思ったより少ないこと、「その大半がゴキブリと人間といったかけ離れた種の間で共有されていることに驚きを隠せなかった」と書いているそうです。257p
私は、動物には精神がない、といった決めつけは誤りだと思います。サルはもちろん、いろいろな野生動物がかなり社会的な集団を作っています。心も、それぞれの種の生存と繁殖に有利なように進化してきたと考えてなんの不思議もありません。
それからすると、宗教もそうした心の進化の結果として生まれてきたのではないかと考え、研究が進められているそうです。212p
私は、宗教が道徳を規定するのではなく、ヒトが生存し繁殖するために有益な道徳が進化し、宗教が形成されてきたと考える方が妥当だと思います。そう考えたときに、宗教とくにイスラム教やヒンズー教が新しい人間道徳にマッチしたものに変わる可能性が出てくるのではないでしょうか。まだ数百年かかるかもしれませんが。
また著者は、自己は一つの自己ではなく、いくつもの下位自己があると考えています。知覚や記憶などの神経回路はそれぞれに異なっていることが分かってきましたが、自己というものも立場や相手関係によっていくつもの下位自己があり、情況によってそのどれか一つがその場の主導権を取って判断し行動する、と考えるほうが理にかなっていると主張します。116p 複雑な人間行動を理解するのに、たいへん参考になる理論です。
マズローの動機のピラミッドは、人間の動因を生理的欲求から自己実現に至る5段階で考えたものですが、著者はその上に配偶者の獲得、配偶者の維持、子育てという3段階を上乗せし、子育てを最上位の動因としました。子育て中の著者の実感から生まれたものでしょう。149p
また、力学における複雑系の理論を取り入れて、心理学に応用しています。256-257p
それによると、
1.多方向の因果関係
原因-結果は一方向ではなく、多方向で逆向きもある。
2.自然は自己組織化に満ちている
秩序はランダム性から自然発生的に生まれ、支配権力ではなく、集団の成員が単純で利己的なルールに基づいて行う局所的な相互作用によって維持される。
3.相互作する要素がごく少数しかなくても、とんでもない複雑性が生まれることがある。
著者は「文化・歴史・経済といった大規模なパターンは、集団を構成する各個人のそれぞれの意思決定相互作用をした結果として生まれてくる」 と主張します。「全てを監視するビッグブラザーなど存在しないし、一部の意思決定者が世界の行く末を握っているわけでもない」と。271p
これは少し楽観的すぎると思いますが、庶民こそが主役である、ということならば賛成です。
そしてこの本のまとめにはこうあります。
「人間は他の人間を支える網の目に組み込まれるようにできているのだ。」283p
「人間には、周りの人たちと固い絆を結んだときに気分がよくなるように設計されたメカニズムが、しっかりと組み込まれているらしい。」259p
これを読んであることわざが頭に浮かびました。
「情けは人のためならず」。今日では、人のためにならないという逆の意味に取る人も多いようですが、人のためではなく、自分のためなんだ、ということです。アメリカの最新の心理学者が、日本の古いことわざを裏打ちする学説を発表していることに、感じ入りました。
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