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劇は、林芙美子(1903-1951)の後半生を描く。
彼女は1930年(昭和5年)に『放浪記』で人気流行作家となった。
しかしやがて彼女の小説は、戦争の時代にそぐわなくなる。
それでも彼女は小説を売らなければならない。
かくて彼女は覚醒する。
国民を聖戦に動員する「物語」を書こうと、決意をする。
彼女は、まず1937年の南京攻略戦に従軍。
さらに1938年の武漢作戦には、内閣情報部『ペン部隊』として参加。
しかし彼女は徐々に、戦争の聖戦の「物語」がウソだと気づく。
聖戦は人々を幸せになどしない。
林芙美子は、率直である。
「日本が負ける」と公言した彼女は、特高警察の監視下に置かれる。
人々は生きるため、戦争の時代に合わせる。
例えば、ある者は、就職先として満州で憲兵隊にはいり、さらに東京の特高警察へ栄転する。
NHKの局員は、戦前は聖戦を鼓舞し、戦後は民主主義を宣伝する。
食べるため、昇進のために、致し方ない。
もちろん国家の偉大な「物語」を信じることもある。
林芙美子は、自分が信じ、太鼓たたいて笛ふいて広めた「物語」のウソを知った。
彼女は戦後、その贖罪をする。
彼女は、つらい責任の気持ちを、小説に書く。
もう、国家の「物語」に頼らない。
最も大切で根本的な日常的出来事と、それに伴う情感のみを描くと、彼女は宣言する。
大竹しのぶが、林芙美子を見事に演じる。
一方で、林芙美子の姐御的な気風の良さ、虚飾を拒否する率直さ。
他方で、事実を受け入れるときの彼女の純情さ。
今、この時代、2014年、日本の国民が、新たな国家の「物語」を欲しているように見える。
林芙美子を描いたこの演劇は、最も大切なものが何かを考える手がかりになる。