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文楽『八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)』・『契情倭荘子(けいせいやまとぞうし)』国立劇場

2012-05-23 01:45:16 | Weblog

『八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)』
 中村漁岸、佐川藤太の合作で全十一段の時代物。1807年初演。
 豊臣秀吉の没後から大坂冬の陣に至るまでが、小田家(モデルは豊臣家)の忠臣であった加藤正清(モデルは加藤正)の活躍を中心に、徳川家康(作中では北条時政)が清正を毒殺したという説にもとづき描かれる。
  
  (1)門前の段
 加藤正清と北条時政の家臣、森三左衛門(モデルは池田三左衛門=姫路城主池田輝政)が東山仮御殿(モデルは京都二条城)の前で会う。小田家の若君春若(モデルは豊臣秀頼)の将軍宣旨の詔が東山仮御殿であり、正清が病気の春若君の名代としてやってきた。
  
  (2)毒酒の段
   1
 東山仮御殿での勅使の饗応役は正清の嫡男主計之介(かずえのすけ)。
 時政の家臣鞠川玄蕃(まりかわげんば)が三左衛門の娘の雛絹(ひなぎぬ)に強引に言い寄る。玄蕃はいかにも悪役で顔が赤鬼のよう。母の柵(しがらみ)が雛絹を助ける。
 他方、雛絹は、自分が好きな主計之介に対しては積極的で、自ら想いの丈を口説く。
 玄蕃がそれを不義密通と非難。
 主計之介の父正清と雛絹の父三左衛門は、不義の科で二人をそれぞれ親が手討ちにすると言う。あわてる玄蕃。雛絹を殺したくない。
 玄蕃の主君、北条時政が自分が仲人となり二人を夫婦にすると告げ、救う。
   2
 ここで突然、時政が癪を起こし休息する。家臣の三左衛門が時政の名代として勅使にお目見得する。
 勅使が小田春若を将軍、北条時政をその後見役に任じる。
 その後、二人に天杯(天皇からの酒)が与えられる。
 ところがこれには北条時政が毒を仕込んでいた。時政は正清を毒殺するため、勅使への御目見えを避けた。
 三左衛門は、それを知った上で毒入りの天杯を飲む。正清を謀り本懐であろうと三左衛門が時政に言う。大義名分論からすれば四海を治めるのは小田春若。後見役の北条時政が四海を狙うのは誤り。三左衛門は、命に代えて主君時政を諌めた。しかし北条時政は、耳を傾けない。
 三左衛門は、時政の毒殺を隠すため、切腹の形式を取って死ぬ。
  
  (3)浪花入江の段
 加藤正清が、主計之介(かずえのすけ)の許嫁となった雛絹を連れ、海路で帰国の途につく。
 御座船上で加藤正清は元気である。
 北条時政の家来早淵久馬が正清が落命したか確かめるため、小船で来る。
 正清が存命なのを知り、時政は鞠川玄蕃を小船で、正清の御座船に向かわせる。玄蕃は時政からの餞別の鎧櫃を贈る。鞠川の言葉から、この時、正清は三左衛門の死を覚る。
 餞別の鎧櫃には刺客の忍者が潜んでいたが、正清が切り捨てる。鞠川玄蕃は時政(家康)の忍者の頭、服部半蔵がモデルと言える。
 正清は毒で顔色が悪いが、常と変わらぬ振る舞いで、雛絹に琴を弾かせ盃を傾ける。
 琴手での、雛絹の演奏の様子がすばらしい。
 
  (4)主計之介(かずえのすけ)早討の段
 本国へもどった正清は願をかけ百日の間、引きこもる。毒を飲まされ身体が弱っているのを隠すためである。正清には雛絹一人が仕える。
 満願の日、大内義弘(モデルは島津義弘)が星の異変から正清は病気ではないかと確かめにやって来る。
 同じく、星の異変から船頭の灘右衛門という男も来る。
 さらに主計之介(かずえのすけ)も早駕籠で、小田春若の守護を離れ、父正清の病状を確かめに、やって来る。
 正清の妻葉末(はずえ)は不審がる。雛絹に尋ねれば分かるだろうと葉末が主計之介に言う。

  (5)正清本城の段
   1
 正清が引き籠る部屋の庭で主計之介(かずえのすけ)が雛絹と会う。雛絹は驚き喜ぶ。正清は食が細り草の根を食べ祈念しているとのこと。そこに葉末(はずえ)もやってくる。
 雛絹の母、柵(しがらみ)も主計之介とともに帰国。この場に登場。
 その時、たくさんの鼠が現れ正清の部屋に侵入する。それは鞠川玄蕃の妖術で、彼らが正清を襲うが失敗。鞠川は逃げ去る。
 主計之介が正清に会う。実は、主計之介は時政からの書状を持っており、それを父正清に渡す。正清は、幼君春若の守護もせず時政の甘言にのって帰国したのは、女に迷ったからだと一喝し、書状を引き裂く。
   2
 主計之介(かずえのすけ)は雛絹に離縁状を渡し、幼君の守護のため、直ちに帰る。
 離縁の理由は二つある。①父の仇時政の忠臣三左衛門は敵でありその娘とは結婚できない。②時政に命を助けられ雛絹と結婚することになったが、雛絹と離縁しその恩を捨て、春若君に忠義を尽くす。
 父三左衛門の死を知り、また主計之介からも離縁され、雛絹は自害する。この世で一緒になれないなら、せめて未来でのとの覚悟だった。
 葉末(はずえ)と、母、柵(しがらみ)が泣き崩れる。。
   3
 その時、鎧に身を固め南無妙法蓮華経の旗を持ち正清が姿を現す。正清は主計之介が幼君のため討ち死にする覚悟と見抜く。
 正清は雛絹に来世で主計之介と添い遂げるよう伝える。雛絹はそれを楽しみに息絶える。
   4
 そこに船頭の灘衛門が駆けてくる。主計之介が襲われたが、その際に残された状箱を持参したとのこと。その状箱の書状は、佐々木左衛門高綱(真田幸村)のもので、小田春若のために戦うとの趣旨であった。また主計之介は高綱に助けられたという。
 そして船頭の灘衛門が実は児嶋元兵衛政次(後藤又兵衛)とわかる。彼が名剣七星丸を持っていたからである。七星丸はかつて、幼君の味方になるべき勇士に渡すよう、正清が片桐氏に依頼していたものである。
   5
 百日の満願に佐々木(真田幸村)、児島(後藤又兵衛)の両大将を味方に加え、「悦ばしや嬉しや」と正清。
 ほっとした心の緩みで正清の面色が変わり死相が現れる。
 児島(後藤又兵衛)と大内義弘(モデルは島津義弘)が幼君小田春若の守護を誓い、正清のもとを去る。

『契情倭荘子(けいせいやまとぞうし)』: 蝶の道行(ちょうのみちゆき)
   1
 北畠家の家臣、近藤軍次瓶衛の一子助国と、同じ家中の星野勘左衛門の妹小巻とは深い恋仲であったが、両家がお家騒動に巻き込まれ、二人の恋人は若殿夫婦の身替りとなって命を落とす。
 二人は死んで雌蝶・雄蝶となる。二人は助国・小巻の姿でもつれ合いつつ、春の花園の上を飛ぶ。
 二人は出会いの頃を思い出し、睦まじく語り合う。
   2
 しかし罪を背負い死んだ二人は極楽に行けない。来世でも地獄の責め苦がやがて襲う。
 秋の風景。白い蝶の姿になった二人が苦しみ悶え、ついに二人重なりあって死に絶える。
 壮絶な最期。白い蝶の苦悶が鬼気迫る。