雨の多い8月下旬。この日も曇り。東京都美術館のフェルメール展に出かける。
ヤン・ファン・デル・ヘイデンが同じデルフトの旧教会を15年越しに1660年頃と1675年頃の2回描く:「アウデ・デルフト運河と旧教会の眺望」。2度目の作品は空気遠近法を採用。
デルフト・スタイルの特徴のひとつはデフォルメされた遠近法。それがいくつかの作品で印象的である。ヘラルト・ハウクヘースト「デルフト新教会の回廊」(1651年頃)はパノラマ的な遠近法。
ヘンドリック・ファン・フリート「オルガン・ロフトの下から見たデルフト教会の内部」(1662年頃)は変形された一点透視法でかつ教会のサイズそのものもアレンジされている。
カレル・ファブリティウスはレンブラントに天才と称され、またフェルメールの師であるともいわれる。彼の「歩哨」(1654年頃)はこの時代の兵士の実情がわかり強烈。平時なのにひざが破れて膝頭が見えるズボンをはく。彼が銃に火薬をつめる。
デルフト・スタイルの特徴をなす新境地が風俗画である。ピーテル・デ・ホーホ「窓辺で手紙を読む女」(1664年頃)は当時確立した郵便制度のもとで最新流行の手紙を取り上げる。彼はデルフトに特有の絵画技法の確立者である。デルフト・スタイルに特徴的な光の効果の重視もこの作品で典型的に示されている。 コルネリス・デ・マン「カード遊びをする人々」(1665-70年頃)は風俗画であり、女の胸元を見る男を描き怠惰への戒め・恋の駆け引きなどを示す。
フェルメール(1632-75)の作品は全作品30数点のうちの7点が展示されている。最初期の「マルタとマリアの家のキリスト」(1655年頃)ではかいがいしく働くマルタが画面の中央にありオランダの当時の労働倫理が主張される。
「ディアナとニンフたち」(1655-56年頃)は月と狩の女神ディアナにたとえた妻に捧げた作品とも言われる。
くっきりと建物が描かれ赤と黄色が際立つのは「小路」(1658-60年頃)。
いかにも危うい情景だが色恋沙汰への戒めであるのが「ワイングラスを持つ娘」(1659-60年頃)。
「リュートを調弦する女」(1663-65年頃)はフェルメール円熟期の作品であり光の効果が最大限に生かされている。
偽作とされていた「ヴァージナルの前に座る若い女」(1670年頃)は高価なラピスラズリの使用がフェルメール作品の決め手のひとつとなった。
「手紙を書く婦人と召使い」(1670年頃)は光が印象的。
オランダ、そしてデルフトが栄えた短い時代を思い起こさせるコンパクトなフェルメール展。やがて来る短い秋を予感させるよう。都美術館の外は曇り。道と木々が雨のあとにぬれていた。